騒音が出ず排気ガスも発生しないため開催しやすい

今年、まだ令和を迎える前だったが香港で開催された電動フォーミュラレーシングカー「フォーミュラe」によって競われる「FIA フォーミュラe選手権香港戦」を観戦してきた。電動レーシングカーのレースとしては現在世界最高ランクに位置する選手権で、日産自動車やジャガー、アウディBMWなど多くの日欧自動車メーカーが参戦しているほか中国のNIO、インドのマヒンドラなど新興勢力も加わり激戦を展開していた。



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参戦しているドライバーはといえばジャン・エリック・ベルニュやブルーノ・セナ、パスカル・ウェーレインにセバスチャン・ブエミ、フェリッペ・マッサにストフェル・ヴァンドーンなどモータースポーツの最高峰であるF1で活躍した選手の多くが名を連ね、他にも実力者が覇を競っている。

次シーズンからはポルシェメルセデス・ベンツもワークス参戦を表明しており2019年11月22日からサウジアラビアで開催されるシーズン開幕戦に顔を揃えるはずだ。



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フォーミュラeは100%電動でバッテリーから給電して走行する。そのため騒音が出ず、排気ガスも発生しないため市街地や屋内でも開催できてしまう。大規模なサーキット施設に頼らず、市街地の仮設コースで開催できるのでマラソン競技のような気軽さがあり、かつ、きたる自動車の電動化技術のブラッシュアップにも役立つとして多くの自動車メーカーや関連企業がバックアップしているのだ。



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あまり知られていないがフォーミュラeの開催と並行してジャガーの完全EV市販車「I-PACE」によるワンメイクレースも行われていて、こちらも騒音、排気ガスフリーで毎回多くのエントラントを集め激戦を展開しているのだ。



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フォーミュラeは完全EVだが、現代はF1マシンやル・マン24時間で代表される「FIA世界耐久選手権」を競うLMP-1クラスのマシンもハイブリッドシステムが採用されていて一部電動化されている。



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レースで電動化技術を競うことで優れた市販車が生まれる

自身も長くレース活動にドライバーとして関わってきたが、そのなかで常に疑問を感じていたのがブレーキング時に発生する熱の処理だった。たとえばフォーミュラマシンでは時速300キロを超える速度から100メートルほどの短距離で、時速100キロ以下にまで減速できる。その際に約500kgの車体が持っていた運動エネルギーはブレーキシステムにより、熱に変換されブレーキローターを500度以上の高温に加熱させる。



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そしてその熱は次のブレーキングポイントまでにクーリングして、大気中に放散させておかなければならない。500kgの車体が時速300キロで走行している時の膨大な運動エネルギーを熱に変換して捨ててしまっているわけだ。このことが無駄に感じて仕方なかったのだ。

なんとかこの運動エネルギーを再活用できないか、そうすればブレーキへの負担も減らすことができる。



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その答えがエネルギー回生システムであり、現代はハイブリッド車もEV車もこのシステムを採用して運動エネルギーを再利用していることになる。ポルシェが2010年に911GT3Rハイブリッドに搭載したフライホイル式のKERS(キネティック・エネルギー・リカバリー・システム)はその基本を確立したシステムとして注目された。その頃三菱自動車のエボXの未来モデルとしてフライホイル式ではなくキャパシター(大容量コンデンサー)方式のKERSを採用することを提案したりもしたが、その前にエボ自体が消滅してしまったのは皆さんがご存じのとおりだ。



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現代のマシンは運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、バッテリーに蓄えて再利用するのが一般的となった。こうした技術の進化でオーバーテイクが可能になり、熱によるブレーキトラブルなども起こりにくく耐久性が高まっている。レースで電動化技術を競うことで技術競争が起き、効率が改善され、市販車にも多大な影響を及ぼすことになる。



その結果電費に優れ、安全性も高いEVが誕生する技術的根幹になると期待されている。今後EVが市販車の主流となるならモータースポーツで磨き抜かれた技術を搭載しているモデルを選択することが望ましく、それがまたレースチームのサポートとなり良い循環で開発が進められることになるのだ。EV車を生産し販売するならレースで技術を磨け。かつてガソリンエンジンがそうであったように、その工程を省く事は信頼を築き上げるのに何倍もの労力とコストがかかることを、欧米のメーカーは知っているはずだ。

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