リチウムイオン電池の価格が高くコスト面で厳しかった

三菱自動車工業から、軽自動車の電気自動車(EV)i-MiEVが発売された当時のリチウムイオンバッテリーの原価は、1000ドル/kWhと言われていた。1ドル108円(現在の為替レート)で換算すると10.8万円/kWhとなり、i-MiEVには16kWhのバッテリーが搭載されていたので、バッテリー代は172.8万円に計算できる。

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2010年に個人向け販売が行われたときの価格が398万円であったが、購入の補助金を使うと284万円で買えた。

それでもターボエンジン車の128万円に比べ2倍以上の値段であり、その理由は、バッテリー価格分が上乗せされていたということができる。そこで、バッテリー搭載量を10.5kWhに減らした車種ものちに追加されている。一充電走行距離は短くなるが、車両価格は260万円に下がった。
【近距離こそEVの真骨頂ならなぜ?】軽自動車規格の電気自動車がほぼ登場しないワケ



その後、リチウムイオンバッテリー価格は、2016年に273ドル/kWhまで4分の1強の水準にまで下がったとされており、これならば当初のi-MiEVの16kWhであってもリチウムイオンバッテリーの原価は、47.1万円強に収まる計算だ。しかし、これは原価でもっとも大きな要因とされるリチウムイオンバッテリーだけの話であり、モーターや制御系の原価もあわせて考えなければならない。

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最初からEV前提なら価格を抑えることも可能か

このことから、エンジンの軽自動車の作り方そのままにEV化する発想では、どうしても高価なクルマとなり、身近に使える軽自動車としての価値をいかに生み出すかは難しく見える。第46回東京モーターショー日産自動車は、IMkという軽EVのコンセプトカーを出展したが、その実現にはやはり原価の課題が残るとの話であった。

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また、トヨタは超小型モビリティのEVを、同じく東京モーターショーで出展したが、こちらも販売価格をどうするか検討中であるという。場合によったら、販売という形態ではなくリースのような利用法となるかもしれない。

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一方で、私は5年ほど前から、100km100万円軽商用EVの実現を、各自動車メーカーに訴えかけてきた。走行距離は100kmに限定するが、100万円で買える軽商用EVを実現してほしいという要望である。リチウムイオンバッテリーの原価が高いことはやむを得ないが、これまでエンジン車で当たり前のように採用されてきた装備をゼロから見直し、EVに必要最小限の装備を前提に、もっとも原価に厳しい商用車のEV化に挑戦してはどうかという提案である。

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商用車であれば用途が比較的限られ、必要な走行距離も見通しやすいので、リチウムイオンバッテリーの搭載量も最小限に抑えられる。そのうえで、暖房はシートヒーターやステアリングヒーターを主体とし、暑さ対策はエアコンディショナーではなくクーラーにするなど、これまで当たり前と思えた装備を見直すことを試してみる。それによって軽商用EVの実現が成れば、乗用車にする際には、距離を延ばしたり、装備をより充実したりすることに原価の上乗せをし、より快適な軽EVにすれば実現可能ではないだろうかと考えた。クルマ作りの原点を見直す取り組みが、軽EVの実現には不可欠に思う。

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