普段はFFとして走り、前輪がスリップした際に4WDとなる
4輪駆動車(4WD)のメリットはさまざまあれど、冬季シーズンの雪道やアイスバーンでのトラクション性能の高さを考えると4WDの選択意義は極めて大きい。
4WD車を語る時によく話題になるのがFFベースかFRベースか、といったこと。これはまずベースにFF(前輪駆動)モデルがあって、それを4WD化したのか、FR(フロントエンジンの後輪駆動)を4WD化したのかを問うているのだが、それで何が違うのか解説してみよう。
FF車は一般的にエンジン/トランスミッションをフロントに横置きしている。省スペース設計が可能でコンパクトに収まるので低コストがメリットとなり大衆車向けのレイアウトと言える。FFをベースに4WD化するにはトランスミッション内にパワーアウトレットのトランスファーギヤを設け、車体後方にプロペラシャフトを新設しリヤアクスルのデファレンシャルを取り付ける。
そのためには車体床下にプロペラシャフトが通るようなトンネルを設ける実用があり、大概のFF車はそれに対応可能なフロアパネルを採用しているものだ。エンジン/トランスミッションの搭載位置はFFのままなので、シャシーの特性的にはFFを踏襲することになる。つまり左右の車輪にかかる重量がアンバランスになりトルクステアを誘発しやすい。
またパワーフローとしてまず前輪にトルクがかかり、プロペラシャフトの長さとデファレンシャルの回転方向90度転換からの後輪への駆動という流れで若干のタイムラグが発生する。雪道などでFFベースに4WD車はパワーをかけた時にまず前輪がスリップし、直後に後輪に駆動力がかかるシーンによく遭遇するのはそのためだ。

現代の多くのFFベース4WD車はこの特性を利用してまず前輪を意図的にスリップさせ、それを感知して後輪に駆動力を伝達する電磁クラッチを採用しているものが多い。普段はFFとして走らせ、前輪がスリップした時だけ4WDとなるオンデマンド方式と呼ばれるタイプだ。また近年のトレンドとしては常に後輪にも駆動力が一定程度かかるようにして、車両運動特性を安定化させる考え方も広まってきている。
FRベースは手間と技術が必要なため上級モデルにのみ設定
一方でFRベースはどうか。

そのため場合によってはエンジン搭載位置を少し高くし直さなければならず、また前輪は操舵する必要があるのでステアリングシステムにも変更が生じ、サスペンション構成も変わってくる。また縦置きエンジンは車体中央に置かれているのでフロントアクスルへのドライブシャフトは少しオフセットし設置しなければならず、少なからず前席フロアに出っ張りなどを生じる。
パワーの流れはセンターのトランスファーが前後50対50で設定されているならほぼ前後同時に駆動力がかけられ、電磁クラッチを細工すれば後輪から先に駆動力をかけるなど駆動力分割制御の自由度は高い。
こうしてみてくると、FFベースは比較的安価で簡単に4WD化でき生活4駆として大衆車向けのシステムになることがわかる。またFRベースでは手間と技術が必要でコストもかさむことから高額な上級モデルにしか採用されない。
FFベースよりFRベースのほうが前後左右の重量配分に優れてハンドリング性能が高いと思われがちだが、それは妄想だ。FFベースでもたとえばランエボ・ファイナルや最新のメルセデスAMG 45 Sのように極めて高次元のハンドリングを実現しているモデルもあるのだ。

車種別にみるとマツダは6や3、CX-3~CX-8もすべてFFベース。ホンダはフィットやCR-V、ヴェゼルなど。トヨタのRAV4ガソリン、日産エクストレイル、三菱アウトランダーやエクリプスクロスなどもほぼ同様だ。スバルはFFベースながらもともとエンジンが縦置きで4WD化しても左右の重量バランスが変わらず、前後はむしろ向上することから4WDを得意としているといわれる所以だ。

FRベースの4WDはというと国産モデルではトヨタ・クラウンや日産・スカイラインなど。日産GT-Rはエンジン縦置きだがFRの設定はないし、ホンダNSXやトヨタのE-fourなど前後で別々のパワートレインをもつ新世代4WDも増えて来ている。
