ダウンフォースを高めると空気抵抗は大きくなる
クルマの走りを支えるメカニズムを要素別にわけると、サスペンションやボディ剛性が関わるシャシー、エンジン(モーター)や変速機などで構成されるパワートレインの2つが大きな要素として思い浮かぶが、それと同じくらい重要で無視できないのがエアロダイナミクス、すなわち空力性能だ。
レーシングカーでは、フォーミュラであれば前後に大きなウイングを備えていることが多く、GTマシンなどのツーリングカーではフロントにカナード、リヤに大きなウイングを備えているというイメージが強いのではないだろうか。なぜ、あれほど大きなウイングが必要なのかといえば、それはダウンフォース(空力によってボディを路面に押しつける力)が必要だからだ。
もっともダウンフォースを高めることには弊害もあって、どうしても空気抵抗が大きくなる傾向がある。そのためWEC(世界耐久選手権)を走るプロトタイプマシンでは、公道を使うことで長い直線を実現したル・マン(サルテサーキット)に合わせたローダウンフォース仕様と、パーマメントサーキットでの速さを追求するハイダウンフォース仕様を用意することが当たり前だった。
このように空気抵抗が大きくなってしまうことが、市販車が大きなウイングを採用しない大きな理由だ。市販車においては環境性能を無視することはできず、車両安定性を高めるためのエアロダイナミクス系アイテムは空気抵抗を増やしすぎないことが求められる。

なぜなら市販車では燃費性能も重要であり、その要求度は非常に高くなっているからだ。もちろんレーシングカーでもむやみに空気抵抗を増やすことは良しとされないが、空気抵抗を増やしたくないことの優先度は市販車のほうが高くなっているといえる。
同じパーツでもレーシングカーと市販車では目的が異なることも
そもそも論でいえばレーシングカーの大きなウイングやカナードがコーナリング性能を高めることを主たる目的としているのに対して、多くの市販車の場合は高速安定性、直進安定性が目的という違いがある。ダウンフォースによってボディを押し付けるのではなく、ボディのサイド面を抜ける空気も含めて、乱れをできるだけ抑え、“きれいに空気を流す”ことが市販車のエアロダイナミクスとしては重要だったりするのだ。そのため、これ見よがしな大きなウイングではなく、どうしてもスマートな形状になりがちといえる。
公道を走る市販車においてはさまざまな規制があることも形状に影響を与えている面がある。リヤウイングが車幅を超えてしまうことはNGであるし、翼端板やカナードなども突起物とみなされないような形状にしなければならない。

公道を走るレーシングカーとしてはWRCマシンが思い浮かぶが、保安基準的な面でいえばあのようなスタイルを市販車に与えることは難しいと言わざるを得ない。
最近、問題が大きくなっているのは年々厳しくなる騒音規制。エアロパーツで規制に引っかかるほど五月蠅くなるということは考えづらいが、極端に大きな風切り音を生み出すような形状はNGだ。さらに風切り音はドライバーやパッセンジャーにとっても嫌われるノイズであり、市販車としての快適性を考えると対策すべき要因だ。

このように保安基準、燃費性能、騒音規制などを考慮するから、市販車のエアロパーツはレーシングカーのような尖った形状ではなく、控えめな印象になりがちなのだ。