次世代の自動車開発のために選んだ選択

KEIHIN、SHOWA、NISSIN……二輪・四輪を問わずホンダ系のレーシングマシンではお馴染みのロゴではないだろうか。ケーヒンはもともとキャブレターの印象が強いブランドで、その後はインジェクターやエンジンマネージメントシステムを主力としたサプライヤー。ショーワはサスペンションを中心にパワーステアリングや4WDシステムで知られたサプライヤー、そしてニッシン(日信工業)はブレーキのスペシャリストという印象が強いのではないだろうか。



しかし、こうしたロゴをサーキットで見ることは、もうないかもしれない。



なぜなら、ケーヒン、ショーワ、日信工業というホンダ系サプライヤー3社は、2021年1月1日に消滅したからだ。もっとも、驚くことではない。こうした動きが初めて公表されたのは2019年10月のことだった。その後、2020年9月にホンダがTOB(公開買い付け)により3社の株を買い付けることで完全子会社とした上で、日立グループのサプライヤーである日立オートモティブシステムズと経営統合したのである。



この4社がひとつになった新会社の名前は「日立Astemo(アステモ)」となっている。

Astemoとは『Advanced Sustainable Technologies for Mobility』の頭文字に由来するもので、それぞれ得意分野の異なる4社の統合により、サスティナブル(持続可能性)のあるメガ・サプライヤーになろうという意図を示すものだ。また、社名に「日立」とついているのは、日立オートモティブシステムズが最終的な吸収合併存続会社となったことを意味している。



実際、2020年までKEIHINのタイトルスポンサーによりスーパーGT500クラスに参戦していたリアルレーシングは、2021年より『Astemo REAL RACING』となることが発表された。企業として消滅しただけでなく、ブランドとしても消えてしまったように見える。



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それぞれのブランドが可能性を広げるためにも有効

さて、こうした吸収合併をホンダ視点で見れば、子会社を完全に手放したという風に捉えることができる。その狙いは、どこにあるのだろうか?



公式には『自動車・二輪車業界では100年に一度と言われる大変革時代に直面しており、環境負荷の軽減や交通事故削減、快適性のさらなる向上などが求められるなか、今後の自動車・二輪車システムの中核である電動化や自動運転、コネクテッドカーなどの分野において、競争が激化しています。

こうしたなか、サプライヤーにおいても製品の枠組みを超え、ソフトウェアを組み合わせた包括的なソリューションの提供が求められています』とホンダは発表している。短くまとめれば、専業サプライヤーがバラバラのままでは生き残れないので、合併してメガ・サプライヤーとなるしかない、ということになる。



ショーワもケーヒンも消滅! 「日立アステモ」の誕生と子会社を手放した「ホンダ車」の行方



たしかに系列サプライヤーが100年に一度の変革期に十分なソリューションを提案できない状態ではホンダの完成車の出来にも影響する。また、ここ数年の四輪利益率を考えると、ホンダ自身に系列サプライヤーの経営をフォローする余力もなくなってきているといえる。



資本面を含めてサプライヤーと密な関係であることは、自社製品に特化したパーツ開発などメリットもあるが、調達の面ではシバリになってしまう部分もある。こうして系列サプライヤーを解体することで、もっと柔軟な調達ができるようになればホンダの商品開発においてもプラスになるといえる。



ここ数年のホンダ車の部品を見ていればわかるように、脱・系列サプライヤーの動きは見えていた。また、サプライヤー各社についてもホンダからの脱却を意識していた節はある。



たとえば、ショーワの二輪用サスペンションは、ホンダ車に採用されているケースが多いのはもちろんだが、カワサキのリッターバイクにもショーワの電制サスペンションが採用されていたりする。さらにカワサキといえば、2020年のワールドスーパーバイクでシリーズ優勝し、6連覇を果たしたことで知られているが、そのマシンにはショーワのサスペンションが採用されていたりする。スーパーGTのタイトルスポンサーはケーヒンからアステモに変わったが、製品ブランドのなかでも認知度の高いブランドについては「当面の間、継続使用する」とアナウンスされている。お馴染みのブランドの未来も気になるところだ。



ショーワもケーヒンも消滅! 「日立アステモ」の誕生と子会社を手放した「ホンダ車」の行方



日立アステモになったからといって、いきなりホンダがかつての系列サプライヤーとの関係を切ってしまうというわけではない。日立アステモの資本金は515億円、株主比率は日立製作所が66.6%、本田技研工業が33.4%となっているからだ。とはいえ、ホンダの本音としては、系列サプライヤーを日立グループに移管することにより、ある種の足かせから解放されたいと考えている面もあるのではないだろうか。はたして、この系列サプライヤーのリストラクチャリングは成功するのか、日本の自動車産業に与える影響も少なくないだけに注視していきたいと思う。