ひと口にATとはいってもその種類や操作方式はさまざま
いまや自動車の変速方式はATが圧倒的多数で、MTは珍しい存在となっている。ATが持つイージードライブ性やAT自体の高性能化が進んだためだ。逆にMTは、動力伝達のロスがない、ギヤの切り替え時間が短い、即座に任意のギヤに切り替えられるといった性能上の利点が大きな存在理由となっていたが、性能で上まわるデュアルクラッチシステムのセミオートマチック方式(セミマニュアル方式?)が実用化されたことで、モーターレーシングの領域でもその価値は失われ、シフト操作を楽しむという趣味性の領域でのみMTは存続が許されるという事態に追い込まれてしまった。
さて、AT車は、かつてはトルクコンバーターを介したステップアップ式の走行ギヤを備えるシステムが大多数だったが、現在は理論的に機関効率に優れるCVT方式も増え、さらにデュアルクラッチ方式のセミAT方式の登場により、ひと口にATとはいってもその種類や操作方式は多様な状態となっている。ここでは、こうした点に着目しながら、変化を遂げてきたATのシフトセレクト方式について振り返ってみることにしよう。
まず、ATのなかでもっとも基本的というか古典的な方式が、ストレート式だ。MT車ならシフトレバーが装着されるフロアセンターにシフトセレクターを配し、基本的な例で言えば手前からL(あるいは1)-2-D-N-R-Pとシフトポジションを一直線上に並べた方式である。また、セレクターはトランスミッションと機械的につながり、その動きでギヤポジションを選択するシステムとなっている。

ところで、ATはシフト操作を自動的に行う方式なので、手動でギヤを選択するポジションがあること自体、不思議にも思えるが、降坂時のエンジンプレーキや加減速を繰り返す領域でのレスポンスを確保する目的で、任意のギヤにホールドする必要性が生じてくる。このため自動シフトとなるDポジションと、低速ギヤ選択(L/1、2)のポジションが設けられることになったのだ。そしてギヤポジションを選択する際、もっともシンプルなセレクターの操作形態としてストレート式が使われるようになったというわけだ。
走行中でもどのギヤに入れたかがわかりやすいゲート式が登場
この長い間定番方式となっていたストレート式を、合理的に発展させた方式がゲート式だ。シフトセレクターの動きをストレート式の一直線によるものから、ジクザグ型、J字型、U字型などのシフトガイドを設け、セレクターの動き規制することで、走行中のブラインド操作でもどのギヤにセレクトしたのか、はっきりと分かるようにした方式だ。1980年代、メルセデス・ベンツが初めて採用した方式で(たしかW123が最初だったと記憶するが、W126だった可能性も......)、的確なポジションへのシフト操作、操作性の向上、操作ミスの排除などでメリットがあった。なお、この方式はベンツの特許だったが、特許切れに伴い数多くのメーカーがこの方式を採用するにいたっている。

ストレート式、ゲート式は、ともにシフトセレクターの動きを機械的にミッション本体に伝える時代の方式だったが、スイッチ操作による電気信号をミッションに送ってシフト操作を行うシフト・バイ・ワイヤ方式が実用化されると、シフトセレクターの形態は大きく変わってきた。ミッション本体とシフトセレクターを機械的につなぐ必要がないため、セレクターの装着位置やサイズに制約が生じなくなったためだ。
現在は、ダイヤル式、スイッチ式、ジョイスティック式などさまざまな方式が実用化され、インパネやステアリングコラムまわり、センターコンソールとさまざまな個所が装着位置として使われている。この方式は、電気的にシフト操作の信号を送り出すだけなので、ポイントとなるのはシステムの性能でなく操作性、つまりマン・マシン・インターフェースが重要事項となる。

いずれが操作しやすいか否か、ということなのだが、すべてに共通して言えることは、操作方式がこれまでのシフトセレクターとは異なるため、操作に慣れが必要、ということだ。操作自体は簡単で、セレクトミスも起こしにくいが、それぞれ独自の操作方式となるため、操作に対する感覚の切り替えが必要になるからだ。
なお、パドルシフトによる操作方式だが、現状のデュアルクラッチ式ミッションではなく、通常のトルクコンバーター式AT車のシフトアップ/ダウンの操作に用いられる前例もあった。操作方式はデュアルクラッチ式と同じだが、トランスミッションはトルクコンバーター式ATそのものなので、性能自体に大きな隔たりがあることに要注意。