そもそも4WDのフランス車は圧倒的に少ない

日本市場でもプジョー3008 Hybrid4やDS 7 クロスバック Eテンスが登場して、久々にフランス車のラインアップに4WDモデルが加わった昨今。



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それ以前に日本でも買うことのできたフレンチ4WDといえば、2001年頃に上陸していたルノー・セニックRX4にまで遡らなければならない。こちらはFFベースのセニックに、シュタイア・プフ社とルノーの共同開発によるビスカスカップリングのセンターデフを用いたフルタイム4WDだった。



プジョーとDSというPSAグループの最新の2車は、後輪側の駆動を電気モーターに任せたため、前後車軸の間で機械的に連結された駆動伝達はない、オンデマンド型4WDだ。PHEVなのでEVモード走行時など、場合によってはFRにもなる駆動レイアウトだ。



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じつは初代3008にも「HYbrid4」というモデルが存在し、フロントにディーゼルエンジンを搭載して同じくリヤ電気モーターの4WDを実現していたが、日本には未導入で終わった。



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それにしてもフランス車には本格クロカンなど、4WD車が圧倒的に少ないのはなぜなのか?



ひとつ目の理由は、フランスの国土では山間部の占める割合が平野部より圧倒的に少ない。かのアルプス山脈を筆頭にスペイン国境のピレネー山脈やヴォージュ山脈など、あることはあるが、平地が多いのだ。しかも都市部を一歩出たら、交差点はランナバウトが基本なので、ストップ&ゴーが極端に少ない。



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そのため、小排気量で軽く燃費のいいパワーユニットを一定出力で回しながら走らせる、そんな使い方に即したクルマが求められる傾向が強いのだ。すると、本格クロカンや4WDモデルは、「4WD=重量が嵩む=燃費が悪い」というイメージが強いので、維持費面から手を出す人が少ない。



フランス人は軽快なハンドリングのクルマを好む

もうひとつは、フランスの田舎でとくに顕著とはいえ、本人たちにその感覚は薄そうながら、今だにかなり飛ばす、せっかちなドライバーが多いためだ。数年前、筆者はアルプスの峠道をほぼ法定速度(それでも70~90㎞/h)で走行中、地元の黒バンパーのカングー(バン)がインを刺したかと思ったら、その先の数コーナーで視界から消えていくという、鮮やかな手並みを見たことがある。



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また、スイス国境近くの県道で、同じく法定速度(90㎞/h)でコーナリング中、アウトから古ぼけたプジョー205にスパーンと抜き去られたが、次の村落のパン屋さん前で件の205から降りてきたのは、ヨボヨボの老マダムだった。こういうナチュラルに旋回速度高めの人種は、軽快なハンドリングのFFが好きというよりそれがデフォルトで、4WDの重量マスに対して生理的に向いていなさそうに見える。



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加えて冬に雪は降っても、フランスの主要な県道や国道レベルの幹線道路はすぐに道路公団が融雪用の塩化ナトリウムを撒くため、マイナス10度以下の地域でもなければ圧雪路すらそもそも形成されにくい。つまりFFで十分に一年中こなせてしまうインフラと道路行政なのだ。



それでもスキー場の手前数kmのために4WDに乗りたい! そんなフランス人もいるんじゃないか? という話だが、別荘の車庫に置くセカンドかサードカーならともかく、そのために冬以外の3シーズンもの間、出番のない重い駆動システムをぶら下げて走るのは、経済的に賢くないと思われているのだ。



かといって無論、4WDがフランスで否定されている訳ではない。別の大陸に足を延ばす必要はあるが、ダカール・ラリーのような砂漠を突っ走るラリーレイドがスポーツイベントとして定着している。だからその経験者が、意外とディーラーなんかに多いせいもあって、4WDはフランスの道で要らないという裏コンセンサスもあるのだろう。



ただ、古くはシトロエン2CVにリヤエンジンを積んでフロントエンジンとアクセルワイヤーでシンクロさせた「サハラ」という4WDモデルがあったが、これはエネルギー会社の砂漠探索用だった。また道なき道を行く必要のある軍用車では、NATOの枠組みもあってメルセデス・ベンツGクラスのプジョー版であるP4が造られ、長年フランス陸軍で活躍していた。昔のACMATや今日のARQUUSといったフランス独自の軍用車メーカーは、ほぼ4WD専門メーカーといえる。



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つまり4WDはフランス車では、業務用の必要オプションであっても、ファッションやライフハックとしては無用の長物に過ぎる、という感覚がある。4WD必須の雪国住まいであるとか、キャンプ場でラストたった数kmの未舗装路のために4WDを選ぶ、そんな日本の事情を、彼らが奇異の目で見ながらも羨むのは、そのためだ。

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