この記事をまとめると
■新型ステップワゴンの開発責任者にインタビュー



■こだわりのポイントや苦労した点を直撃



■工場を一部作り替える大規模なモデルチェンジとなっている



新型ステップワゴンは初代風のデザインが早くも話題に!

1月7日に世界初公開され、今春に発表・発売を予定している、新型6代目ホンダ・ステップワゴン。ミッドサイズFF背高ミニバンのパイオニアとして一代にしてその存在感を確固たるものにしながら、三代目以降はライバルの攻勢に押され、迷走が続いている感のあるこの基幹モデルを、どのように進化させてきたのだろうか? 開発責任者の蟻坂篤史LPLに聞いた。



現行が「売れなかったところ」を認めて再出発! 工場まで作り替...の画像はこちら >>



──新型ステップワゴンの企画にあたっては歴代モデルの反省をされたということですが……。



蟻坂 ものすごくやりましたよ(苦笑)。私がステップワゴンの担当になった際、ちょうどステップワゴンの販売が一番厳しくなっていた時期だったんですよ。「このままではまずい」という所からスタートして、「これをフルモデルチェンジするなら、一体何が問題だったのかを検証しないと、現行モデルのPDCA(Plan-Do-Check-Act)だけではダメだよね。売れていた時のこともちゃんと考えよう」と。



ウチの会社はよく、全部を変えて、リスタートをかけるようなことをしていたんですが、「そうじゃないよ」と。「良い所は何が良かったのか、悪い所は何が悪かったのか、そういうことをちゃんと考えたうえで次を企画しないとダメだね」という所からスタートしました。

初代と2代目は本当に売れましたからね……。



ただ、その時は、競合がいなかったんですね。他車はまだキャブオーバーでしたから。そうすると、「最初に何を求めていたんだっけ?」という所から考えてみると、「家族がちゃんと移動できる、乗用車的なハコ」を作っていただけなんですよ。だからこそ、今回目指したのは「ハコ」なんです。「しっかりとしたハコを作ろう」と。

それも、きれいな「ハコ」を。私がずっとデザイナーに言い続けていたのは「これはとにかくハコだから。ハコを作るんだよ。だけど、きれいなハコ」と。



現行が「売れなかったところ」を認めて再出発! 工場まで作り替えちゃった新型ステップワゴンの秘密を直撃インタビュー



──新型のデザインは本当に素晴らしいですね。すごくスッキリしていて……それは最近のデザイントレンドでもあると思いますが、それ以上にモダンさと、ホンダさんらしいポップな雰囲気があって。



蟻坂 ありがとうございます。なかなか……本当に苦労しましたけどね(笑)。この形になるまでに紆余曲折ありました。最初は全然違う形だったんですよ。最終形のようなスケッチはあったんですが、クレイを削って作る時に、全然違う形になってしまって……いろいろ凄かったんですよ(笑)。



Aピラーの位置を引いたと説明しているのですが、最初はもっと引いていたんです。

引きすぎたら、視界は良いけどキャビンが狭くなってしまう。でも出しすぎると、今度は視界が悪くなってしまう。ではどの辺が丁度良いか……と考えて決めたのが、あの位置です。全部試行錯誤しているんですよ。



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ボンネットの高さひとつ取っても、丁度良く見える位置にしましたが、あれももっと上げてみたんですよ。そうすると今度はクルマが大きく見えて、運転しにくくなってしまう。

かと言って、もう少し下げると、今度は本当に見えなくなってしまう。ですので、ギリギリ見えるくらいの所に落ち着かせたんですね。運転している人から見てどうかで決めています。



──今回ベルトラインを現行モデルより上げているようで、絶対的な視界という意味ではこれはむしろ不利に思えますが……。



蟻坂 私が最初に「ともかくベルトラインを上げましょう」と決めていたんです。クルマのバランス的に、窓が大きすぎると思ったんですよ。

クルマとしてボディが小さく見えてしまう。ボディが大きく見えるけれど、いざ運転すると全然大きく感じないようにしました。というのは、大きく見えると安心感があるんです。今回ドアに厚みが感じられると思うんですが、そうすると乗っていて安心できるなと。ですので思い切ってベルトラインを上げました。そうすると、ドアの面が広くなるので、高級感があるような気持ちになれる。



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──なるほど。下げすぎると、バスなど商用車のようになってしまうと。今回、クリーンなデザインを目指したとのことですが、私は新型ステップワゴンを見て初代モビリオを思い出しました。でも初代モビリオは電車……トラム(路面電車)を狙っていましたよね。



蟻坂 そうなんですよ。初代モビリオは本当にベルトラインが低かったんですよ。とてつもなく低くて「凄いな」と思いましたけど。ドアと窓が1:1というくらい窓が大きかったので(笑)。あのコンセプトは凄いと思いましたが、ステップワゴンはあれとは違うなと。



──ステップワゴンは乗るユーザーがステイタスシンボルとしている所がありますよね。オラオラ顔を求めるユーザーが7割というお話がありましたが……新型のデザインは、どちらから先に着手したんですか?



蟻坂 またそういう……激しいことを訊きますね。ちょっと言いづらいですね(苦笑)。



──雰囲気としては「エアー」の方がスタート地点だったように感じられますね。パッケージングも含めて。ですからスパーダも、全然嫌味な感じがしませんよね。



蟻坂 はい、嫌味が一切ないクルマにしているので。ですので、本当に届けたいと思ったのは、素敵な暮らし。みんなが穏やかに安心して暮らせる生活を送るために作りました。クルマはただのアイテムなんですよ。主役は家族なんです。それに寄り添うクルマを最初に考えながらデザインしました。ですから、このクルマから降りてきた家族が「センスいいな」と見えるような……「このクルマ、格好良いな」じゃないんですよ。家族が格好良い。クルマが主役になってはダメなんですよ。



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──御社の国内ラインアップ全体を見ると、オデッセイが販売終了となることが決定しています。必然的にステップワゴンが、ミニバンの中では車格がもっとも高いモデルということになりますが、装備内容を見ると、それを多分に意識されたように感じられます。



蟻坂 基本的に、付けられるものは付けました。ちゃんとしっかりしたものを、ただし「これはあるべきだろう」というものを考えて付けています。



ホンダを支える大黒柱だからこそ工場の改修に踏み切った!

──「スパーダ」には「プレミアムライン」というモデルも設定されるとのことですが、これは外見も大きく異なるのでしょうか?



蟻坂 そこは乞うご期待ということで(笑)。……正直そこまでは変えていません。考え方は一貫しております。



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──こういうクルマのユーザーニーズはハッキリしていて、すごくオラオラな雰囲気にしたい人が多いと感じています。ホンダさんはそれを避けてきたからこそ苦しかった面もあったと思うのですが……。



蟻坂 今までは正直言ってそうです。ただし今回も、その考え方は変わっていません。やはりそこは避けます。そちらには行きません。というのは、無限さんがありますので、そういうニーズを取り込むのはそちらに頑張っていただこうと。そして、そういう要素を求める方は、エアロパーツにお金を出してくれる方なんですよ。自分でカスタマイズしたいからなんですね。他人とは違うものにしたいはずなんですよ。私はその気持ちが凄くわかるので、私ならベース車を買ってカスタマイズしますね(笑)。



──今までステップワゴンは狭山(埼玉製作所狭山完成車工場)で作られていましたが、狭山での生産は終了するので……。



蟻坂 寄居(埼玉製作所寄居完成車工場)に移ります。



──それに伴い、高さの制約は生じなかったのでしょうか?



蟻坂 凄いことを訊きますね(笑)。正直言うと……ありましたよ。ですので工場を一部作り替えています。



──そこまでしたんですか!?



蟻坂 だって、入らないから(笑)。しかもテールゲートが長いので、組み立てる時にはテールゲートが開いた状態になりますから、リヤのハンガー間距離がギリギリでした。それも作り替えています。もう大変でした、工場問題(笑)。



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──このクルマのために、そこまでしたんですね。



蟻坂 はい。このクルマがこれからの国内のホンダを支えますから。



──3代目で全高を下げた際に、居住性や販売の面で厳しい所があったと思いますが……。



蟻坂 私、あの時のことを覚えていますよ、「ステップワゴンをぶっ壊せ」と。「何を言ってるんだこの人は」と(笑)。あれは悪いクルマではなかったんですけどね、「もう完全にスポーティに振るんだ」と。



──正直、同じことをするのかという心配はありました。



蟻坂 歴代モデルのPDCAの中で、3代目と5代目、全高を下げたことと「わくわくゲート」、一体何が問題だったのか、市場の反応を検証しました。3代目は、低くした瞬間に、車体が小さく見えてしまい、それで叩かれてしまったんですね。オデッセイの時も少しは言われましたが、低くするからにはかなりの覚悟と理由が必要になります。



──いくらフロアを下げて、数値上は同じ室内高を確保しても、絶対的な全高が低ければ、感覚的には閉塞感を覚えてしまうと私は考えています。



蟻坂 クルマが小さく見えるんですよ、もう。



──外見だけではなく、室内に座ってもそれは感じますよね。



蟻坂 はい。ですので新型は、室内も高く広く見えるようになっています。その辺はインテリアのデザインもかなり気を遣っています。



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──2・3列目のヒップポイントを上げて、1・2列目シートのヘッドレストも高さを抑えていますよね。



蟻坂 はい。至る所で、どうしたら室内が広く見えるか、2・3列目の人がどうしたら快適になるかを考えています。3列目のヒップポイントが低いと、どうしても穴蔵のようになってしまうんですね。それを解消するためにエレベーションを付けて、3列目を高くしました。ですので見晴らしがかなり良くなっているはずですよ。



──それで逆に、3列目シートを厚くすることができ、かつ格納部にも収まるように……。



蟻坂 それを両立できるようにしています。ヘッドレストは、高さを下げているんですが、それだけではなく、シートを前後に大きくしています。そうすると、横から見た時に、シートが厚く見えるんですね。その方が高級感が出ますので。どれも厚く柔らかく見えるようにしていますね。



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他には、内外装とも、変な角を作らないようにしています。



──視覚的なノイズはかなり減りましたね。とくに、インパネ天面に分割線がないのは驚きました。



蟻坂 あれ、作るのは大変なんですよ。



──エアバッグの要件がありますよね。



蟻坂 そうですね。そうすると、その部分が引けてしまったり、いろいろあるんですよ(笑)。



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──現行モデルの「わくわくゲート」に対するユーザーの評価はどうだったのでしょうか?



蟻坂 「わくわくゲート」は、購入ユーザーからは非常に好評でした。ですがデザイン面では、あれが購入選択肢から排除される最大の理由になることが非常に多かったんですね。それで営業スタッフが苦しんだということを結構聞きまして。縦線が入るデザインに対する意識調査もしたのですが、圧倒的にダメでした。



──縦の分割線が中央に引かれていれば良かったのではと、私は考えましたが……。



蟻坂 実はそれも、いろいろ考えたんですよ。デザインでもいろいろ描いていて「このデザインだったら受け入れられるか」という調査もしているんですが、それでもダメでしたね。



──「わくわくゲート」は、使い勝手の面では、狭い場所でも開けるという点でかなり……後方スペースが狭い駐車場環境のユーザーはとくに、大きなメリットがあったと思います。



蟻坂 痛し痒しでしたね。そこで今回は、パワーテールゲートを設定しました。これは開閉途中で止められますので、「わくわくゲート」の代替として使えるかなと。それに「わくわくゲート」は途轍もなく重かったので……。



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──その有無だけで車重が10kg変わりますよね。



蟻坂 ゲート以外も入れればもっと変わります。ですから、いざ開けようとすると重くてしょうがないんですよ。しかも縦に長くて重い。



──しかも「わくわくゲート」には、パワーテールゲートを適用できませんよね。



蟻坂 付けられませんでした。今回は短く軽くしているので、パワーテールゲートなしでも大丈夫だと判断して、「エアー」には装着していません。それに、こういうクルマの場合、買い物程度なら荷物はリヤスライドドアから入れるでしょうと。横にクルマがあっても開けられますから。今回スライドドアには静電タッチ式の開閉機構を設定していますし。私は初代フリードに乗っていますが、自分自身、私の妻も、遠出の際などで大物を入れる時以外はテールゲートを開けないんですよ。買い物の時は、スライドドアから後部座席へ荷物を入れているんですね。



──走りに関しては現行モデルが、モデューロXやハイブリッド車が追加されたことで、大きな訴求点になっていたと思いますが……。



蟻坂 乞うご期待です。自信作ですから。



──プラットフォームは今回変更されているんですか?



蟻坂 基本は変わっていません。ただし、いろいろ変更しています。乗ったら驚くと思いますよ。



──価格はどうでしょうか? この内容ですと、相当上がりそうな予感がしますが……。



蟻坂 お値段も頑張っています。競争が激しいジャンルですので、むやみに高い値段は付けられません。一番大事なのは、多くのお客様に乗っていただくことですから。



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──恐らく他の競合モデルも年内に一斉に世代交代すると思われますが、新型ステップワゴンの仕上がりに期待しています。ありがとうございました!