この記事をまとめると
■サンバーはスバルの軽トラック/バン



■現在はダイハツのOEMだが、かつては自社で生産していた



■6世代のスバル製サンバーの歴史を振り返る



スバル製サンバーには6世代の歴史がある

ダイハツ・ハイゼット/アトレーのフルモデルチェンジに伴い、SUBARUへOEM供給されるサンバーも新しくなった。新型には新型の魅力があるが、今も多くのスバリストが愛してやまないSUBARUオリジナルのサンバーのことを思い出す人もまた少なくないはず。



そこで今回は、SUBARU製サンバーについてごく簡単に振り返ってみよう。

SUBARU製サンバーは1961年デビューの初代モデルから、2012年の最終モデルまでじつに51年、6世代の歴史があるので、ここでは要点のみ振り返る。



半世紀の歴史を持つSUBARU製サンバーだが、じつは最初から最後まで基本レイアウトはほとんど変わっていない。1958年に始まった初代モデルの開発段階で決定した基本レイアウトが半世紀にわたって通用するほど秀逸だったのだ。半世紀にわたり軽トラック/バンユーザーからの厳しい需要に高いレベルで応え続けられたのは、奇跡の偉業といってもいい。



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その後はどんな時代にあっても顧客からの指摘や要望に向き合い地道な改良を積み重ね、その結果、軽自動車の商用貨物車でありながら、広く愛される名車になったのだ。



サンバーを名車たらしめた傑作レイアウトとは、リヤエンジンリヤドライブ(RR)、フルキャブオーバー、四輪独立懸架サス、ハシゴ型フレームの4要素が挙げられる。RRの採用はサンバーの少し前に生まれたスバル360での実績があったとはいえ、スバル360の派生車種では決してなく、商用貨物車として全面新設計されている。貨物車でありながら、重視したのは積載性や運搬性能ばかりでなく、安全性や快適性、操縦性などクルマとしての基本性能はほかのSUBARU車と同じ思想、同じ基準で開発。SUBARUの実直な姿勢もサンバーを名車に仕立てた要因だ。



まずは初代サンバー。開発の指揮をとったのは、伝説のSUBARU偉人として崇められる百瀬晋六さんで、サンバーも「百瀬イズム」の結晶のひとつといえる。RR採用の狙いはスバル360との生産互換性もあったが、スバル360で実証された登坂性能や駆動力の高さは商用貨物車にも最適とされた。



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キャブオーバーについては迷わずの採用だったという。従来型のボンネット式トラックは積載性能が低く、先行する競合車に対抗するには積載性の高いキャブオーバーが不可欠だった。ボンネットのないキャブオーバーの難点である前面衝突時の安全性に対してはフロントまわりの外板を特に強化して対応。キャブオーバーならではの視界の良さや操縦性を高め、そもそも事故を起こしにくいクルマとなるよう設計された。この時代からすでに「0次安全」の意識は非常に高かったのである。



RRレイアウトは荷台の前部から中央部分をギリギリまで低くできるので、FRやMRでは実現不可能な低床荷台が生み出せた。ハシゴ型フレーム構造の採用は大きな荷重への対応と荷台の低床化を狙ったもので、フレームは中空角材に酔えう箱型断面式とし、軽くて極めて剛性の高い構造を実現。車体設計を担当した室田公三さんによると、乗用車作りの前に手がけたバスの車体設計や流体力学を応用したスバル360のボディ作りで得た知見がサンバーでも生かされたという。さらに元をたどれば航空機作りの発想で、サンバーにも航空機メーカーのDNAが受け継がれたのであった。



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外観デザインはスバル360も手がけた佐々木達三さんで、丈夫で力持ちなどのたくましさをイメージ。「クチビル」とも呼ばれた愛嬌のあるフロントマスクは、歴代モデルの中でもっとも個性的だ。パノラミックガラスで視界を向上。

スペアシートを使えば4名乗車も可能だった。



スバル360でも採用された前開きドアは乗降性が秀逸。フロントサスは乗用車並みのトレーリングアーム式で乗り心地が良く、ホイールベースは1670mmと短いわりにRRの重量配分の良さでピッチングの動きが少ないことで定評がある。



これらサンバーの美点はバンでも広く重宝されたが、バンよりもさらに過酷な状況で使われがちなトラックでもおおいに真価を発揮した。開発時にこだわって採用したキャブオーバーならではの荷台の広さは圧倒的で、サイド開きの低床式であるため重い荷物の積み降ろし性に優れる。



さらにフラットな荷台は長尺物の運搬にも便利とされ、しかも上下2段に使える工夫も凝らしたことにより、積荷スペースは当時の軽貨物車のなかで最大とされた。荷台のガードレールを倒せば側方と後方の2方向から荷物の積みおろしが容易にできる点も大好評。サンバーの実用性の高さはたちまち評判となり、大企業から零細な自営業者まで幅広く愛され、当時の日本の様々なビジネスシーンで大活躍。軽トラック市場で3割以上のシェアを誇り、日本のモータリゼーションの発展に大きく貢献したのだった。



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当時の広告でうたわれた「皆様の繁栄を約束するトラックの国民車」は決して誇大広告ではなく、コピー通り日本の経済成長を支える一役を担ったのは間違いない。



また、RRはそれ以外のレイアウトの軽バン/トラックと異なり、フル積載時も空荷の時も車体の姿勢が傾きにくい点も好評だった。常に同じ乗り心地が得られ、フル積載時に加速をしても車体が後傾しないのでライトの光軸もズレない。

総じて軽トラック/バンでも走行中の疲労が少なく、乗用車同様の快適なドライブが楽めることも強みとなった。



RRによる低床荷台は重心が低く、積載時には中央部分に荷重がかかるため、当時の軽トラック/バンとしてはコーナリング性能も秀逸。当時の日本の未舗装路だらけの狭い道でハンドリングを楽しめるクルマだったのだ。



また、後端部分はエンジン搭載で高くなる代わりに、他の部分は極めて低くなる。エンジンは後傾して搭載するため潤滑が難しくなるが、スバル360での経験が生きた。騒音源はドライバーから遠い位置になり静粛性でも有利に。



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初代の美点は、そのまま歴代モデルすべてに共通する。



まずは、秀逸な悪路走破性だ。四輪独立懸架サスによる接地性とRRならではのトラクションの高さは、50年以上にわたりサンバーの大きな強みとして輝く。他の軽トラック/バンでは得られないサスペンションストローク量の豊かさを感じるが、これは路面追従性の高さと四輪設置荷重が均一であるために得られる感覚。エンジンはEK32型強制空冷2サイクル直列2気筒を搭載。回転が上がるにつれ冷却効率がよくなるので、長距離の登坂や無理な使用に加熱の心配がない



続く大きな美点は、使いやすく荷物に優しいこと。

当時の乗用車と同じ形式のサスペンション採用により乗り心地が良く、積荷を傷めにくいことでも重宝された。悪路を走っても「豆腐の角が崩れない」話などが口コミで広まり、食料品など壊れやすい物を運ぶ業者にとってはなくてなならない存在となる。様々な業種で使われることにより、荷室の使い勝手や機能に対する要望やクレームも多岐にわたり、それらにしっかり耳を傾けながら地味に改善する姿勢も市場から高く評価された



さらにサンバーは、初代からレジャー用途も強く意識して設計されたこと。使い勝手が良い上乗り心地が良く、しかも静粛性も高いことからレジャー用途でも重宝するようになり、ミニバンやRV車の先駆け的な存在にもなった。メーカーもそれを認識し、貨客兼用の万能車として外装色をオシャレにしたり、やや豪華な内張りやマットなど乗用車的な装備を充実させた「デラックス」グレードを追加。2連ワイパーや2連サンバイザーなどで安全性を向上。通風性能(まだエアコンがない時代なので)も高めている。



「アプライドによってクルマが激変」の傾向はすでに始まっていた

2代目「ニューサンバー」は、フルモデルチェンジながら搭載エンジンなどのメカニズムは初代モデルからのキャリーオーバーが多いものの、初代のユーザーから届いた要望や指摘を反映し、使い勝手の面ではかなり大幅な改良が施された。ミッションは副変速機付きが選べるようになり、走行性能も大きく進化。途中から4速化されたこともあり、初代では80~85km/hだった最高速度は95km/hまで向上している。



百瀬晋六さんの考えとして訓示された「要改善箇所は直ちに対処して商品に反映する」との姿勢により、サンバーも初代モデルから改良される頻度が高く、2代目モデルも常に積極的な改良を実施し続けたようだ。今のSUBARU車も「アプライド違いでクルマが激変する」ことで有名だが、その傾向は1960年代からすでに始まっていたのだ。



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2代目の中期型はフロントドアが後ろ開きとなるのをはじめ変更箇所が多く、また「ババーンサンバー」と愛称も変わることから、サンバーマニアの間では「3代目」と認識されることもあるなど、この頃からサンバーは世代ごとのモデルの識別が難しくなる。

後期型は「ストロングサンバー」と呼ばれ、世代違いのモデルとして扱われることもあるからややこしい。次世代「剛力サンバー」以降はさらに複雑化する。



また、2代目のバンはファミリーユースで選ばれることも増え、充実装備のデラックスグレードは「スーパーデラックス」に進化した。灰皿が装備されたり、助手席の足もとに大きなスピーカーが設置されるなど、内装にも乗用車向け装備の充実が目立つ。インパネ中央部にそびえる六連星が誇らしげに設置された。



とあるマニアが所有する1968年式の「スーパーデラックス」に試乗すると、まずはステアリングの軽さと操舵フィールの上質さに驚愕させられる。ノンパワーアシストのラック&ピニオン式ながら、まるで昔の高級車が採用したリサーキュレーティング式かと思ってしまうほど、しっとりと滑らかな手応え。軽バンながらお金がかかっていることがわかる。ギヤ比は22.5対1なので、普通に曲がるだけでも操舵量は多く、いつまでもクルクル回る感覚がバスのようで新鮮だ。



3速+オーバートップギア付きの4速MTはフルシンクロで、コツさえ掴めばダブルクラッチを使わずとも普通に変速できる。圧巻なのは乗り心地の良さ。たっぷりとしたホイールストローク感により、路面の凹凸を見事に吸収。

初代モデルから「悪路でも豆腐の角が崩れない」と絶賛された優しい乗り心地は健在で、「荷室の卵が割れない」と評されたシトロエンの2CVにもたぶん負けてない足さばきの巧みさは衝撃的だった。駆動メカが後ろに集中しているので空冷2気筒でも静粛性が高く、床下エンジンの現代の軽ワンボックスよりもむしろ静かではないかと思えたほど。



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クーラーはなくとも、フロントマスクの真ん中から走行風を取り込むラリーカーのようなベンチレーションシステムは存外に効果的で、真夏の炎天下の中でも走ってさえいればギリギリ我慢できるとのことだ。低速トルクが細すぎて発進時は気を遣うが、走り出せば存外に活発。慣れれば現代でも足グルマとして普通に使えそう。誇張抜きに大人4人がゆったり座れるパッケージングにも感動させられる。



2代目はトラックも正常進化的なフルモデルチェンジを受け、初代の美点を継承しながら細部を改良。高性能と優れた耐久性で定評のあるサンバートラックは世間に完全に浸透したという。フルキャブレイアウトならではの強みはさらに磨かれた印象で、相変わらず荷台が極めてフラットな上スペースが広く、荷床高も低いので大変便利に使えそう。「3方開き」と「1方開き」があるから用途に応じて使い分けられた。



「サンバーがあれば商売で有利」とサンバーの強みを全面に押し出した広告が目立ち、サンバーの性能に自信を抱いていたのがわかる。外観は印象的なフロントマスクを採用した初代モデルと比べると個性が弱まった気がするが、2代目は機能性をより徹底的に追求した結果のデザインであることが細部をみれば明らか。ボディ四隅の雨どいの配置などに繊細な配慮がなされていることがわかるのだ。乗降時に乗員の体が少しでも雨に濡れにくくするための工夫も立派な性能である。



エンジンルームを見ると、この世代はまだ補器類が少なくシンプル。リヤに積まれるエンジンは意外と整備性が良いこともサンバーの美点のひとつで、プラグの点検やチェックも簡単に行えた。また空冷2気筒時代のユニットはエンジンの単体重量が軽いため、ユニットごと降ろす作業も比較的容易にできたという。ただし空冷エンジンは空冷フィンがかさ張ったり暖房を利かせにくいなどデメリットも少なくない。



外観は、泥除けがタイヤの後ろ側だけでなく、前側にも付いているのが印象的。60年代当時はまだ未舗装路が多く、大きな水たまりも多かったため前に泥を飛ばさないための工夫や配慮が求められたのだ。



基本的にエンジンの冷却が難しくなるなど、RRには難点も少なくない。のちに水冷化してからもラジエターとエンジンの距離が遠く、冬場は温まるのが遅く暖房が効くまで時間がかかったという。



ところで、歴代サンバーが最後まで守り続けた伝統のひとつとして、デザインコンセプトに「堅牢感」を強調するというのがある。見るからに強くてたくましく、過酷な用途にも耐えて長く使い続けられそうな印象をユーザーに抱かせることを重視しているという。



そこで3世代目モデルは「剛力サンバー」と呼ばれ、これまで以上にタフに使い尽くせる軽バン/トラックとして生まれ変わった。当時のカタログには大きな鹿がツノでバーベルを持ち上げるイラストが描かれ、パワーアップした感をわかりやすく強調。「サンバー」の名は体長がゆうに2mを越す東南アジア最大級のインド原産の鹿からとったもので、剛力サンバーでは久しぶりに鹿のイメージで強さを訴求したのだった。



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さらに持ち前の悪路走破性能や登坂能力の高さをアピールすべく、大量の荷物を積んだサンバートラックが岩だらけの山岳路を激走するシーンの写真も大きく掲載。まるでランクルかジープのカタログのような雰囲気が演出されたが、それだけ剛力サンバーの屈強な性能には自信があったことがうかがえる。



メカニズム面のハイライトは多く、まず初期モデルからエンジンを水冷化。エンジン内部の冷却が均一化され、静粛性も向上。エンジンに付けられていた空冷のためのフィンが不要になり、エンジンルーム内の空間効率が高くなった。さらに4サイクル化や排気量の500、550cc化もはかられ、サンバーは矢継ぎ早に高性能化が進んでいく。



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カタログや広告では名前の由来である大鹿のほか、貴乃花(初代)やアメフト選手なども起用し、いかにも強くてたくましいキャラクターイメージを高める戦略を展開。500cc搭載車はサンバーファイブと呼ばれた。2mを超える大きな荷台床面長を誇る3方開きなど持ち前の強みをさらに徹底訴求。新規格に合わせた500ccエンジンはSOHCで低燃費にも優れるなど、経済性も高さも積極的にアピールした



初期モデルが「剛力」として生まれた3代目モデルは、歴代サンバーのなかでもっとも激動の世代だったといえる。76年の時点では新規格に合わせきれなかったことで中途半端な状態でもあった500ccエンジンを550ccとし、ボディサイズも満を持して新規格へ拡大。さらに、待望されたハイルーフボディを採用。荷室高は1435mmまで拡大し、商用はもちろんレジャー用途でも大きな利便性をもたらし大好評となる。



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さらにライバルに差をつける決定打として、四輪駆動もついに導入。軽バン/トラック初の設定で、業界トップシェアを誇るパイオニアらしい攻めの商品展開を加速する。70年代になるとレオーネから始まった乗用車でも四輪駆動はアリとのイメージが徐々に浸透し、SUBARUの軽バン/トラックが四駆を採用するのは自然な流れと見られた。走破性のさらなる向上に加え、安全性の高さも強くアピールしていく。



また、四輪駆動化にあたりホイールのリム構造を変更した。それまでは「割りリム」と呼ばれるボルト止め式の、ハブの軸の取り付け部分がドラムと共用で取り付けられるタイプのリムを採用し続けていたが、四輪駆動車では強度アップをはかりたいということで現代的なホイールリムを採用するようになっている。割りリムは整備性が良く、密着性も高いことからチューブ付きタイヤ向きとされていたが、タイヤもチューブレス化が進み、時代の変化に合わせたものといえる。



また、のちにサンバーバンの伝統となるマルチフラットシートは3世代目から装備される。後席シートを跳ね上げると完璧にフラットな床が出現。後席を使いながら床板の下を収納スペースとして使うことも可能だった。



自動車史に大きな功績を残した

4代目となる通称「サンバートライ」も基本レイアウトは不変。デビューは1982年でエンジンはこの世代の最後までまだ2気筒だが、内外装を見比べるとクルマ全体の洗練度が劇的に向上しており、運転席まわりの装備も随分現代的となった。カタログでも、バンのほうは新世代のワンボックスとして生まれ変わった印象を強めており、爽やかな細身の外国人モデルを起用してオシャレなムードを高めている。全般的にRV色が強く、カジュアル寄りのイメージチェンジもあって、今のXVの始祖のようだ。



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さらに「サンサンウインドー」もこの世代に登場し、明るく開放感に溢れたワンボックスの車内でレジャーを楽しむイメージをかきたてるなど、ライフスタイル演出車としての魅力を高めた。1983年には3列シート搭載の7人乗り派生車ドミンゴも生まれ、90年代中盤から盛り上がるミニバンブームの超先駆けモデルといえる。



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当時の軽バンを7人乗り仕様にする発想には驚かされるが、そもそもサンバーには高荷重状態でもフラットさを損なわず、走行安定性にも大きな変化がないという初代モデルからの美点があり、軽の7人乗り化は、想像するよりは無理なく実現できた。そして軽バンにも2ペダルの需要が少しずつ出始めた時期でもあり、クラッチレスのセミATを設定。バンのほうはカジュアル路線化が見られるも、トラックのほうはまったく変わらず頑強イメージを訴求。トラックのキャビンにもハイルーフが設定されている。



新規格に伴いボディは大型化。フロント部分のオーバーハングが長くなり、全面からの衝突安全性が高まる。それでも運転席の着座いちは前輪の真上にまるなど、やはり基本的なパッケージングは不変だ。室内では明るいパノラマビューを訴求。マルチフラットシートは大幅に質感が向上し、操作時の動きも劇的に軽くなった。後席そのものも普通の座席らしさを増し、ミニバン的に使いやすくなる。



また、赤帽仕様が誕生したのもこの世代。赤帽はできた当初からサンバーを積極採用。1日に500km走るペースにも耐えられる耐久性を高めたエンジンを搭載。このノウハウはのちにダイハツに開示され、現行型にも受け継がれている。



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1990年デビューの5代目からはついにエンジンが4気筒となり、新規格に合わせて排気量は660cc化。パワフルなスーパーチャージャー仕様やSUBARU自慢の無段階変速ATのE.CVTも設定され、エアコンやパワステの標準装備化も進むなど、進化の幅は大きかった。乗用のバンは「サンバーディアス」と名称もあらため、コミカルなフロントマスクのデザインを採用。さらなるイメージチェンジをはかっている。



軽バン/トラックの貨物車にとって、低速トルクで3気筒に及ばない4気筒エンジンを搭載することはデメリットにもなり得たが、サンバー持ち前の静粛性の高さと振動の伝わらなさは4気筒化でさらに際立ち、他銘の軽バン/トラックにはない上質感で差別化をはかれるアドバンテージは確かにあったのだ。



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また、この世代はハウステンボスとのコラボ企画で生まれたレトロ調デザインの「ディアスクラシック」が大ヒット。ヴィヴィオのビストロと合わせて空前のレトロ顔ブームを巻き起こしたなど、日本の自動車史に大きなトピックとして語られるモデルも生み出した。サンバーの名車イメージを飛躍させる功績を残したといえる。



ヴィヴィオなど乗用の軽自動車では耐久性に問題のなかったE.CVTだが、電磁クラッチがトラック用途の高強度な負荷に耐えられず、1995年からスズキ製の3速ATを搭載するようになっている。



派手なディアスクラシックとは対照的に、商用向けのバンとトラックのフロントマスクは素朴で実直なデザインとされ、メリハリのあるラインアップとなった。2代目ドミンゴも登場している



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6世代目は1998年からの新規格に合わせてフルモデルチェンジ。これが最後のSUBARUオリジナルサンバーとなる。もちろん基本レイアウトは初代から不変であり、最後までブレずに信念を貫いた結果となった。



デザイン面でも「堅牢感」が再び強められて原点回帰した印象さえある。車体構造は初代から変わらずフレーム付きボディを採用するが、フレーム部分を新構造のY字型とし、さらに当時のSUBARUの乗用車で定評のあった新環状力骨構造を採用した。これによりボディ剛性と衝突安全性が飛躍的に向上。レガシィなどの乗用車と同じSUBARU基準で煮詰められた操縦安定性により、高いアクティブセイフティ性能を備えるに至っている。その一方、高速走行中は横風に弱い難点は残るが、軽自動車規格の限界ともいえる部分なので是非に及ばず。



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こうして振り返ると、世代ごとに多少の方向修正は見られるものの、クルマとしての基本は一切変えることなく50年以上にわたり継承し続け、時代の先をゆく新しいチャレンジも枚挙にいとまがない。まさに、これぞ「不易と流行」。サンバーの名車たるゆえんを強く実感する。合理性から生まれたレイアウトを踏襲しながら、常に現場の声に耳を傾けて改善し続けた半世紀だった。



多くのユーザーから熱心に支持され続け、そして生産が終了して10年近く経った今もなお、その存在を惜しむ声が後を絶たない軽バン/トラックはこの世にサンバーだけだ。

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