この記事をまとめると
■若年のタクシードライバーが浅草から上野駅まで行くのにカーナビを設定していた■近年のドライバーの若年化でカーナビを使用することに抵抗感が無くなっている
■今後もタクシー業界にデジタル化が進むのではないかと筆者は考える
タクシーの利用で感じたジェネレーションギャップ
先日、荷物もあったので、東京都台東区浅草に近い東京メトロ銀座線田原町駅付近から、上野駅までタクシーに乗った。ドライバーは20歳代に見える若い男性だった。料金ベースで1000円もいかない距離で、しかも浅草通りをほぼ直進するだけのルートなのだが、行き先を告げるといきなりカーナビのセットを始めた。
都内でタクシードライバーをするためには、地理試験というものに合格しなければならない。とはいっても、これに合格すれば東京23区と武蔵野、三鷹市という広大な営業エリアの道路をすべて網羅できたという証にはならない。それほど東京23区内及び武蔵野市、三鷹市という営業区域は範囲が広すぎるのである。となれば、よほどメジャーな行き先でもなく、初めて向かう場所などでは、カーナビを使うことも珍しくないが、丁寧なドライバーならば「カーナビ使ってもいいですか?」と断わるだろう。また目と鼻の先ともいえる目的地へ向かうのにカーナビを使われると複雑な気持ちになる。
タクシーにカーナビが装着されはじめたころは、酔客を中心に「プロがカーナビ使うのか」と半分からかうように言われることもあったが、いまでは「カーナビ使って行ってください」などとお客から言ってくるケースも珍しくないようだ。ただ今回のケースは、浅草から上野といえば目と鼻の先。ましてや筆者が乗った場所から上野駅まではほぼ道一本で、上野駅は都内ではメジャーな場所。いきなりカーナビ入力されるといろいろと不安が募るのは筆者だけではないはずだ。
筆者の私見を述べさせてもらえば、普段からデジタルツールを使いこなす若者は依存する傾向も強いので、今回のようにカーナビやスマホの電卓機能など、デジタルツールを直接活用し、そこからまず客観的な回答を得ようとするのかなとも考えてしまった。

あるタクシードライバー経験者は、見せ方があると話してくれた。たとえば、スピードを上げているように見せるために、4速ATがタクシー車両で全盛のころには意図的にOD(オーバードライブ)を解除してエンジン回転を上げて、スピードが出ているようにお客に感じさせるといった具合だ。
お客を乗せた時の経路確認というのはマストで必要なのだが、この経路確認はドライバーが行先に不案内な時には、お客にわからないようにルート確認する役目も果たしている。そこでお客が行き先までのルートがわからないのならば、「それならカーナビ使いましょうか」となるのである。精算時の暗算も、「暗算でお釣りも出せなくなったら引退だな」などと冗談で語られるほど、プロドライバーであり、しかも商売人でもある、古い世代のタクシードライバーはプライドを持って乗務している。あえてプロとして見せることで、お客に安心してもらうのも、職業ドライバーのテクニックであり、接客姿勢でもあるのだ。
タクシー業界にも多彩なデジタルツールが導入されている
最近四年制大学を卒業してそのままタクシードライバーになる人が目立っているようだ。男女の別なく、腕一本で平等に稼げるタクシードライバーに魅力を感じているのかもしれない。さらに大手などを中心に、配車アプリが普及しており、コロナ禍前ほどではないものの、アプリ配車を追いかけていれば、経験年次が浅くても、稼ぎの上でベテランと大きく差がつくことがなくなってきているとも聞く。
東京のような、流し営業がメインの地域のタクシーでは、各ドライバーが時間ごとにお客がいそうなところへ流す場所を変えるなどのルーティーンを持っていたり、その時の状況に応じて勘を頼りに流す場所を変えるなど、経験を積んで稼ぎ方を覚えるといったことが多かった。しかも、その勘が大当たりして万収(万円単位の長距離利用)のお客をゲットできれば、深夜でも眠気を忘れて運転してしまうほど嬉しい、そんな気持ちになるのが楽しみでタクシードライバーをやっている人も多いと聞いたが、若い世代のドライバーは少々その辺りとは違う気持ちで乗務しているようにも見える。

かつては、ドライバーになるには人生経験の浅い若い人よりも、人生を知り尽くした年配の人のほうが適した職業ともいわれていた。しかし、タクシー営業も多彩なデジタルツールが導入され、配車アプリの導入で経験がそこまで重んじられることもなくなり、ドライバーをはじめる敷居は下がっている。ただし、新人時代から配車アプリに振り回されれば、アプリで呼ばれ、目的地へ行くだけとなるので、配車アプリを活用していない事業者へ転職したときはかなり苦労するのではないかとの話も聞いている。

先日、自動運転バスの取材をした。自動運転バスというと、たいていは車両がBEV(バッテリー電気自動車)となり、見た目も珍しく、無人で走るという物珍しさばかりがメディアの報道では目立っている。しかし、実際は完全無人運転ではなく、オペレーターが乗車している。一般的なバスドライバーを求人する時には、大型二種免許が必要など、採用する敷居が高いのだが、自動運転バスではオペレーターとなるので、採用時の敷居が低くなる(二種免許は不要)。地域に自動運転バス運行に関する新たな雇用を生み出すと同時に、路線維持も容易になり、路線廃止も防ぐことができることなどの導入メリットがあるといった話を聞いた。
配車アプリの導入や、安全・安心運行するためのデジタルデバイスが運行管理に多用されるようになり、タクシー業界に経験のない若い世代が入りやすくなっていることは間違いない。今後タクシーでも自動運転化というものは進んでいくだろう。しかし、中国などで始まっている、完全無人タクシーが常態化するのはまだまだ先となりそうで、日本では当面はオペレーターが乗車することになるだろう。ドライバーからオペレーターというものになれば、さらに若手の積極的な雇用が進むかもしれない。
無人運行というと、“それまでの雇用が失われる”などネガティブな面が注目されることもあるが、経験や特定技術、国家資格を必要としない新たな雇用を生み出し、ドライバー不足解消への効果も期待でき、利用者のメリットも高まるというもの。ちょっと不安に思える若手タクシードライバーと出会い、デジタル音痴な筆者が、デジタルツールの導入は、いまの便利さを守るためにも必要なんだと強く感じた。