手抜き、時短、外食、外注……。料理する人の負担を軽くするようなハックやサービスはあふれているものの、「身体にいいものを食べたい」「経済的なことを考えると自分で作ったほうがいい」と考えると、なかなか切り離せない“料理”。
2019年3月に『仕込みと仕上げ合わせて最短10分! 帰りが遅くてもかんたん仕込みですぐごはん』(世界文化社、以下『かんたん仕込みですぐごはん』)を上梓した料理研究家の上田淳子(うえだ・じゅんこ)さんに、料理する人の憂うつな気持ちを晴らすヒントになる“仕込みメソッド”について話を聞きました。
第2回の今回は、具体的な仕込み術を教えていただきました。
仕込みするなら、カット野菜と下味つきのタンパク質——ではさっそく、上田さんおすすめの仕込み術を教えてください。どんな仕込みをしておけば、簡単に自炊のバリエーションが増やせますか?
上田淳子さん(以下、上田):これだけはと思うのは、野菜をカットしておくことと、お肉に下味をつけておくことです。
例えば、じゃがいもやにんじんは皮をむいて、適当な大きさに切る。
「前仕込みした食材はポリ袋保存がおすすめ」とのこと/『かんたん仕込みですぐごはん』より抜粋
上田:次に、お肉に下味をつけておくこと。
——時間がないときの料理って、下味とか省略してしまいがちですもんね。だけど、仕込んでおいた食材をちゃんと使いこなせるか心配かも……。
上田:食材は、自由に使っていいんですよ。ピーマンを細く切ったらチンジャオロースにしかできないと思い込みがちですが、千切りや細切りで回鍋肉をつくったって、問題なくおいしい。ミートソースの野菜が全部みじん切りになっていなくたって、煮込めば大丈夫です。
——たしかに!
上田:美味しく作るためのガイドはあるけれど、料理に正解はないんですよ。材料もつくりかたも調理器具も自由。ひとつ答えがあるとするなら「食べる人がそこそこおいしいと思えること」だけです。
上田:あとは、冷凍庫をうまく使えるようになると、さらに幅が広がりますね。切った野菜も下味つきのお肉も、いざとなったら冷凍すればいいんです。
——だけど、冷凍したとたんに記憶の彼方にいってしまって、使いそびれちゃうんですよね……。
上田:冷凍庫で時間を止めることはできませんから、なるべく早く使ってあげるに越したことはないですね。忘却しないポイントは“いつか”のためじゃなくて“あさって”や“来週”のために冷凍すること。「今日は料理できないけど木曜なら時間があるから、その日まで冷凍しておこう」と、食べる期日をしっかりイメージしておくんです。
——本には、レシピのほかに「みんなの晩ごはん奮闘記」というコラムページがありますよね。いろんな方の自炊やつくりおきの失敗談が載っていて、みんな大変なんだよなぁと気が楽になりました(笑)。
上田:そうですよ。軽々とお料理しているように見える人だって、水面下では白鳥のように足をバタバタ動かしているかもしれませんよね。材料を買って、下ごしらえして調理して、食べて、洗い物して……とタスクが山盛りなのですから。そんなの、大変に決まっていますよ。「私はいつもすごいことをしている、しようとしている」とまず自分で自分を認めてほしいなと思いますね。
——はい!
上田:でも、ずっと大変ということもないので、安心してほしいなと思います。回数をこなして自分なりのやり方が身につけば、頭を使わなくてもできるようになるし、手の抜きどころも見つかるはず。
それに、私は思うのですけれど、みなさんは毎日すごくきっちりお化粧をされていますよね。私からすれば、その美しいアイメイクは、あんかけをつくるよりも難しい。そんなすごいことを習慣にできているのだから、料理も習慣化すれば、絶対にできるようになります。たとえば、好きな雰囲気の料理雑誌を一冊じっくり読んで、いろいろつくってみるとかもいい。自分の口と合う料理家さんのレシピに出会えたら、もっと料理が面白くなりますよ。
——“推し”の料理家さんをつくる……! なるほど、自炊がさらに楽しめそうです!
次回(5月27日公開予定)は最終回。これからの時代、自分だけでなく家族といっしょに料理をするための“仕込み”活用法をお届けします。
(取材・文:菅原さくら、撮影:大澤妹、編集:安次富陽子)