クレームやタバコの臭いが原因で給与から“罰金”が差し引かれる…日本郵便「違約金制度」は合法か?【弁護士解説】

先日、日本郵便が委託業者から徴収している「違約金」の実情が報道された。違約金は業者がドライバーに支払う給与から差し引かれる場合もあり、ドライバーらは「罰金」と呼んでいる。弁護士が指摘するのは、違約金制度が下請法や労働基準法に違反する可能性だ。

郵便局が委託業者に「違約金」を課す制度

全国の郵便局は違約金の金額を「郵便物の誤配」や「顧客からのクレーム」などの対象行為に応じて定めており、委託業者への月ごとの支払いから差し引いている。
委託業者には中小企業が多く、違約金の支払いが経営に負担を生じさせる場合もある。そして、対象となった行為をしたドライバーにコストを転嫁するため、給与から違約金分を差し引く対応をする業者も多いという。
報道では、タバコの臭いや喫煙のクレームが原因で数万円を徴収されたドライバーや、配達先に宅配ボックスはあったが、不在時の荷物の置き場所が事前登録されていないために持ち帰ったところ、違約金を徴収されたドライバーの声が紹介されていた。
違約金の金額は郵便局ごとに異なる。また、ドライバーが委託業者に頼んでも金額表を見せてもらえない事例もあり、ルールや運用が曖昧で不透明であることも問題となっている。

日本郵便は4月までに制度を見直す予定

そもそも、なぜ違約金制度が存在するのか。編集部が日本郵便株式会社に問い合わせたところ、以下の回答があった。
「違約金の対象としている行為(紛失、法令違反車両による履行、誤配など)については、いずれもお客さまに多大なご迷惑をおかけし、または弊社の信用を著しく毀損(きそん)しかねない行為であり、弊社がお客さまにお約束しているサービスを適切に提供するとの観点から、集配の業務品質を向上させることを目的として違約金制度を導入しています」(日本郵便・広報担当者)
集配業務の委託は請負契約であるため、法律上、誤配を起こした協力会社(委託業者)の従業員(ドライバー)に日本郵便が直接指導することはできない。そのため、誤配などの問題が起こった場合には、日本郵便から協力会社に指導を要請する形式になっている。
「ただし、単なる改善の要請にとどめていては、改善されない場合もあります。そこで、違約金制度により、協力会社の皆さまに、集配業務の品質向上を促しているものです」(同前)
なお、日本郵便は、4月をめどに違約金の金額を現行よりも引き下げる方針だ。また、違約金の対象や金額についても、全国で統一する予定であるという。
「今後も違約金制度については、幅広い観点から検討を行ってまいります」(同前)

違約金制度は「下請法」違反の可能性

労働問題に詳しく、アマゾンの荷物配達員が提起した訴訟も担当する有野優太弁護士は、違約金制度は違法の可能性があると指摘する。
関連記事:「配り切れない量の荷物の配達を指示される」 “アマゾン配達員”が行う労働訴訟の第4回期日、会社側は「就業規則」を裁判所に提出せず
まず、郵便局が委託業者に違約金を課すこと自体が、下請法(下請代金支払遅延等防止法)4条1項3号で禁止されている「下請代金の減額」や同条2項3号で禁止される「不当な経済上の利益の提供要請」に該当し、違法のおそれがある。

また、独占禁止法上の優越的地位の濫用規制(経済的利益の提供強制(同法2条9項5号ロ))に違反する可能性もあるという。
なお、下請法違反が疑われる場合、公正取引委員会または中小企業庁は、親事業者に対し報告を求め、検査を行うことができる(下請法9条1項・2項)。そして下請法違反を認定した場合には、違反行為の取りやめ・不利益補填措置・再発防止措置などの指導または勧告を行う(下請法7条)。
本件については、公正取引委員会は違約金制度自体については下請法違反と認定せず、運用の是正を求める指導を行って調査を終えている。
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有野弁護士(本人提供)

ドライバーへの「罰金」は労働基準法に抵触

ドライバーは、委託会社から指揮命令を受けている場合には、労働基準法上の「労働者」と認められる。そして、裁判例上、使用者から労働者に対する損害賠償請求は厳格に判断されている。
つまり、委託業者がドライバーの給与から違約金を徴収することは、違法の可能性が高い。
「委託会社がドライバーに対して、違約金を請求することは、基本的には許されません。使用者は、労働者を使って利益を得ている以上、不利益も負担しなければいけないからです」(有野弁護士)
また、違約金を給与から天引きしている点も、原則として労働基準法24条に反し、違法であるという。
仮に、あらかじめ契約書に「ドライバーが違約金を賠償する義務を負う」と定めていたとしても、そのような定め自体が労働基準法16条に違反し無効になる。
さらに、ドライバーが労働基準法上の「労働者」とは認められない場合であっても、委託会社の資本金1000万円を超える場合には、委託会社とドライバーとの間でも下請法の規定が適用される。
また、委託会社の資本金が1000万円より少ない場合であっても、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)5条1項2号および同条2項1号で規定されている禁止事項に違反し、違法となる。

配送業界で労働問題が多発する理由

日本郵便に限らず、アマゾンなどの大手業者による「下請けいじめ」とも呼ばれる配送業者に対する苛烈な仕打ちや、ドライバーの劣悪な労働環境や待遇の不当さは、社会問題になっている。

なぜ、配送業界では、労働問題が多発するのか。
配送業界は、もともと、注文者である荷主側と受注者である配送業者側とで力関係に差が生じやすい構造になっている。加えて、日本郵便やアマゾンなどの大手業者と中小企業の委託会社との間に立場の強弱が存在することも問題の原因になっていると、有野弁護士は指摘する。
そして、問題を改善するためには軽貨物運送に関するガイドラインを整備するなどして、独占禁止法や下請法を実効的に適用する体制を整えていくことが求められるという。
「また、ドライバーと委託会社および大手業者との関係では、本来なら労働基準法上の『労働者』であるにもかかわらず個人事業主(フリーランス)として扱われてしまう、いわゆる『偽装フリーランス問題』が目立ちます。
現代の働き方に合わせて、より広く『労働者』であると認めるような解釈を確立することや、諸外国のように労働者推定規定を導入することが必要です」(有野弁護士)
ただし、ドライバーの負担が増えている一因は、消費者による注文が多発することで、とくに軽貨物において荷量が増えている点にもある。
「問題を改善するため、消費者のみなさんにも、荷物をまとめて注文する・即日配達は避ける・置き配を活用するなど、できることから始めていただきたいです。
また、ドライバーが労働環境の改善に取り組んでいることを知り、応援してほしいと思います」(有野弁護士)


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