2027年4月以降、省エネ基準を満たさないエアコンは製造・販売が不可能になる。「エアコン2027年問題」と呼ばれるこの規制強化は、単なる家電の価格高騰にとどまらず、「賃貸住宅をめぐるトラブルの大きな火種になり得る」と不動産問題に詳しい荒木謙人弁護士は警鐘を鳴らす。
オーナーと入居者のどちらが何をすべきか。法的な境界線を整理した。

「エアコン2027年問題」とは

経済産業省が定める省エネ基準が2027年から大幅に引き上げられる。これにより、省エネ基準100%未満のエアコンは2027年4月以降、製造・販売が一切できなくなる。
現在、市場に流通している最安~スタンダードクラスの格安モデルの多くは、この新基準を満たしていない。そこで各メーカーは省エネ機能を向上させた新モデルへの切り替えを急いでいるが、機能底上げが必須となり、格安モデルの価格帯は全体的に上昇する見通しだ。
供給面での懸念もある。例年は新モデル発売まで旧モデルを製造し続けるが、2027年は省エネ基準未達モデルが販売不可となるため、夏以降のメーカー生産数が縮小する。販売店は在庫があれば販売できるため格安モデルの確保が進むが、需要に対して供給が追いつかず、価格がさらに上昇する可能性がある。

既存入居者への一方的な通告は原則無効

価格高騰を見越し、「エアコンを設備から外そうと考えている」というオーナーも出てきている。設置費用は基本的に、オーナー負担となり、物価高が止まらない昨今、少しでもコスト削減を図りたいのが本音だ。
荒木弁護士は、このオーナーの判断が現在の入居者に向けられるものなのか、新規募集に向けられるものなのかによって結論が異なると指摘する。
「『エアコン付き(設備)』として契約している既存の入居者に対し、契約途中で一方的に『次壊れたら設備から外す』と通告することは、借主に不利な条件変更、いわゆる『不利益変更』にあたります。そのため、原則として借主の同意がない限り無効です。
変更したい場合は、家賃の減額などを条件に個別に交渉し、合意を得る必要があります」
一方、新規入居者を募集する場合は事情が異なる。
「『エアコンなし』として募集し、借主に自分で持ち込んでもらう形式に変えることは全く問題ありません」
このように、既存契約と新規募集では法的な取り扱いが根本的に異なるため、オーナーは混同しないよう注意が必要だ。

「最新機種に交換して」という要求には故障していなければ法的に拒否できる

2027年以降、新基準対応の省エネモデルが普及するにつれ、入居者から「電気代が高いから最新の省エネ機に替えてほしい」という要求が増える可能性もある。この点については荒木弁護士の見解は明快だ。
「現在のエアコンが故障しておらず、冷暖房として正常に機能しているのであれば、オーナーは入居者の要求を法的に拒否することができます。
オーナーには『目的物の使用及び収益に必要な修繕をする義務』(民法606条1項)がありますが、これはあくまで『故障して生活に支障が出ている場合』に限られます。故障していないのに『電気代が高いから新基準のモデルに交換してほしい』といった入居者の個人的な希望や経済的理由に対して、法的な対応義務は発生しません」

故障放置で家賃は「当然減額」 民法611条が借主を守る

では、オーナーが本体代の高騰を理由に交換を渋り、故障したエアコンを放置した場合はどうなるか。荒木弁護士は「家賃は法律上『当然に減額』されます」と断言する。
民法611条1項により、借主の責めに帰すべき事由がなく設備の一部が使えなくなった場合、その使えなくなった部分の割合に応じて賃料は当然に減額される。
「オーナーが本体代の高騰を理由に交換を渋り放置したとしても、借主の権利は法的に守られます」(荒木弁護士)
実務上の目安として、荒木弁護士は公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)のガイドラインに言及する。同ガイドラインによれば、エアコンの作動不良による減額の目安は月額5000円、免責日数(貸主が修理を手配するための社会通念上の猶予期間)は3日とされている。
「法的には故障日から直ちに減額対象ですが、実務上は修理手配の猶予として3日を差し引いて計算することができます。故障をオーナーや管理会社に通知してから3日を過ぎても放置された場合、4日目以降から日割り計算で家賃の減額を主張することが妥当なラインと言えます」

「安物しか付けない」特約と修繕義務――旧型機が消えれば新基準品を設置する義務が生じる

契約書に「故障時の交換機種はオーナーが指定する(安価なものに限る)」といった特約を盛り込んでいるオーナーもいる。こうした特約は原則として有効だと荒木弁護士は認める。しかし、2027年以降に旧基準の安価な機種が製造終了となり市場から消滅した場合、話は変わってくる。

「もし安価な旧型機が手に入らなくなった場合、貸主はその時点の市場で調調可能な最低ラインの代替品——新基準を満たす機種——を自己負担で設置する義務を負います。『市場に安いものがないから直さない』という主張は法的に通用しません」
貸主の修繕義務の本質は「借主が通常通りに生活できる状態に戻すこと」であり、特約はその義務を免除するものではない。

自分で買い替えた場合、退去時の買い取り要求は認められにくい

設備のエアコンが故障し、オーナーが対応しないため自費で交換したいと考える入居者もいるだろう。荒木弁護士は、その際の法的手続きを丁寧に説明する。
壁掛けエアコンは容易に取り外せる「単なる動産」であり、退去時に精算を求める「有益費」や法律上の買い取り対象となる「造作」には該当しないとするのが裁判例等の見解だ。つまり、退去時の買い取り要求は一般的には認められない。
正しい法的対応は、自ら交換したうえでその費用を「必要費」として請求することだと荒木弁護士は助言する。ただし、賃借人が自ら交換できるのは「オーナーに故障を通知したのに、相当の期間放置された」という正式な手順を踏んだ場合、または急迫の事情がある場合に限られる(民法607条の2参照)。
「無断で自費交換してしまうと費用が請求できない可能性があるばかりか、退去時に自費で撤去(原状回復)を求められるリスクがありますので、まずは書面やメールで修理を要求し、『通知したのに対応されない』という証拠を残すことが重要です」

今できる備えを――契約書の確認と早めの行動が最大のリスク回避策

荒木弁護士は、エアコン2027年問題は「単なる家電の価格高騰にとどまらず、今後の賃貸トラブルの大きな火種になり得る」と総括する。
「価格が高騰してから慌てるのではなく、オーナー側は今後の設備投資を見据えた賃貸条件の見直しを検討すべきです。また、借主側は自分の部屋のエアコンが貸主に修理義務のある『設備』として契約されているか、契約書の特約内容を今のうちから確認しておくことが大切です。
いざという時に『言った・言わない』の争いにならないよう、法的なルールの境界線を知り、日頃から良好なコミュニケーションをとっておくことが最大のトラブル予防策となるでしょう」


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