皇居外周の歩道でランナーと歩行者のトラブルが相次いで報告されていることを踏まえ、東京都千代田区は10月1日の区議会において、ランナーのマナー違反に関する実態調査を行う方針を明らかにしました。
区は今年度内に調査を実施したうえで、その結果を踏まえて注意喚起の看板の増設や防犯カメラの設置などを検討するとしています。

歩道を走るランナーが一般歩行者を威嚇したり、接触してケガをさせたりした場合は、どのような責任を問われるのでしょうか。法的な観点から解説します。(弁護士・阿部由羅)

ランナーのマナー違反は犯罪になる?威嚇や進路妨害などの法的責任

千代田区は「皇居周辺歩道利用マナー」として、ランナーなどが歩道を通行する際の9つのマナーを定めています。
  • 歩道は歩行者優先
  • タイムよりゆとり
  • 歩道をふさがない
  • ながら通行は控える
  • 狭いところは一列に
  • 自転車はすぐに止まれるスピードで
  • 周回は反時計回り
  • ゴミは必ず持ち帰る
  • 思いやりの心で
しかし、ランナーがこれらのマナーに違反したからといって、直ちに法的責任が発生するわけではありません。法的責任の有無は、犯罪や民法上の不法行為の要件に照らして判断されます。
ランナーが犯罪の責任を問われるのは、刑法などの法律に定められた犯罪の要件を満たす場合です。
たとえば、歩行者に対して意図的に身体をぶつけるなどの接触をした場合は「暴行罪(刑法208条)」や「傷害罪(同204条)」が成立します。
意図的ではなく、誤って身体を接触させて歩行者にケガをさせた場合は「過失傷害罪(同209条)」が成立することがあります。
歩行者に対して大声で怒鳴るなどの威嚇をした場合は、威嚇の内容によって犯罪が成立するかどうかが決まります。
「どかないと殺すぞ」と言うなど、歩行者の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知した場合は「脅迫罪(刑法222条1項)」や「強要罪(同223条1項)」が成立することがあります。
これに対し、単に「どけ!」などと大声で叫んだだけで、歩行者に対する具体的な害の告知が行われていない場合は、犯罪は成立しない可能性が高いです。

ランナーの迷惑行為、民事上の責任は? 

刑事責任とは別に、ランナーが民法上の不法行為に基づく損害賠償責任を負うかどうかも問題となります。
民法上の不法行為の成否は、ランナーの行為によって歩行者の「権利」や「法律上保護される利益」が侵害されたかどうかなどによって判断されます。 
物理的な接触によって歩行者にケガをさせた場合は、意図的であるか否かに関わらず、ランナーの不法行為が認められる可能性が高いと考えられます。

これに対し、歩行者がケガをしたわけではない場合は、威嚇などによって精神的ショックを与えたことが「違法」と評価できるかどうかが個別に判断されます。
また、そもそも威嚇などが行われたのか、どのような内容だったのかなどについては被害者側に立証責任があるため、立証できるかどうかも重要な論点となります。

歩行者にケガをさせた場合、賠償額はどう決まる? 

ランナーの行為によって引き起こされた歩行者の損害は、幅広く損害賠償の対象となります。
たとえば、ケガの治療費や通院交通費、仕事を休んだことによる休業損害、入通院慰謝料、後遺障害が残った場合の慰謝料や逸失利益などが挙げられます。 
ただし、歩行者側にも過失がある場合は、その割合に応じて賠償金が減額されます。
たとえば、歩行者に生じた損害が100万円相当で、歩行者側に2割の過失が認められるときは、歩行者はランナーに対して80万円の損害賠償を請求できるにとどまります。
ランナーと歩行者の過失割合は、接触が起こった客観的な状況に基づいて判断されます。
基本的には、後ろから速いスピードで走ってきたランナーには大きな過失が認められるケースが多いと考えられます。
ただし、歩行者側についても、左右にふらふら歩いていた、急に進路を変えた、前を見ずにスマートフォンを見ながら歩いていたなど、接触の原因となる事情があった場合には、一定の過失が認められる可能性があります。
事故が起こった状況については、ランナーと歩行者の間で主張が食い違うことも少なくありません。
その場合は、周囲の防犯カメラの映像や目撃者の証言、歩行者のケガの状況などに基づいて、事故の状況を立証することになります。

ランナーによる迷惑行為の被害に遭ったらどうすればいい?

歩行中にランナーに接触されるなどの迷惑行為を受けた場合は、被害の内容や程度、対応にかかる負担などを総合的に考慮して対応を検討することが望ましいです。
ケガをしていないなら、面倒な争いを避けるためにやり過ごすことも選択肢のひとつでしょう。

これに対し、ケガをした場合には警察へ連絡することをお勧めします。警察を呼べば、事故現場における状況を記録してもらえますし、悪質なケースであればランナーの摘発に動いてもらえることもあります。
ランナーに対する損害賠償請求については、警察にサポートしてもらうことはできないので、弁護士のサポートを受けてください。
■阿部由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。


編集部おすすめ