ナフサショックの波は、どこまで押し寄せているのか?私は、政府が「ある」と言ってはばからない「シンナー」の実情を調べた。

高市総理は4月16日の中東情勢関係閣僚会議で、「シンナーメーカーからの出荷量が回復、解消に向かいつつある」と胸を張っていた。

しかし、現場から聞こえてくるのは「ない」との声。果たして、シンナーは平常通り流通しているのか?

こうした石油製品の製造過程はよく川に例えられるが、まずは川下の塗装業者から取材した。外壁やサッシなどの塗装を手がけている丸武塗装(名古屋市西区)の現場に足を踏み入れると、シンナー独特の鼻をつく匂いがし、奥にはシンナーや塗料の一斗缶がズラリと並んでいた。

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価格はイラン攻撃前の2倍… 消費に入荷が追いつかず

まず、シンナーは3月に入って早々と入手が難しくなったという。しかも、注文しても入荷が遅れるため、消費に入荷が追いついていないという。

それもそのはず、シンナーは塗装する前に、建材などの表面の汚れや埃をとるために使用。吹き付けて塗装する際も、粘質性のある塗料をサラサラにして使うことでキレイに色も入るというが、この時も希釈に使われるのはシンナーなのだ。

「5月を乗り切れるか」 シンナー不足で塗装業者は悲鳴 政府は「目詰まり」 現場は「在庫切れ」 深刻ナフサショック【大石邦彦解説】
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吹き付け前と、吹き付ける時に使われるシンナーの消費量は1日数十リットル。入荷の遅れは、納品の遅れにも繋がってしまう。

価格はアメリカによるイラン攻撃前と比べて、2倍にまで跳ね上がっていた。仕入れ業者の在庫が切れているため、5月以降の入荷は予測がつかないという。

塗装業者は「入手難」卸売業者は「在庫切れ」

シンナー不足の声は、この業者だけなのか?全国2300の塗装業者が加盟する日本塗装工業会に聞くと、「シンナー不足は改善されていない。シンナー、塗料の確実な供給確保を国に要望したが、状況は変わっていない」と嘆いていた。

つまり、川下の塗装業者はやはり「入手難」で、やや川上に位置する卸売業者は「在庫切れ」という結果だった。

次は、川中に位置しているシンナーの製造メーカーを取材した。名古屋市に本社を構える三協化学は「新規での販売は停止、既存客が最優先」という方針を立てていた。理由は、シンナー製造に欠かせないトルエン、キシレンが入荷しないからだという。

つまり、川中の製造メーカーは以前のように順調に「シンナー」を生産できる態勢ではないというのだ。あくまでも一部のケースかもしれないが、そもそも全体的に供給量が減少していることも考えられる。

政府が指摘する“目詰まりの原因”は?

ここまでみても、政府の現状把握と現場の実態にズレが生じていたのは確かだ。さらに川を遡ってみると、エチレンを製造する設備の稼働率が3月は68.6%と低かったことが石油化学工業協会の調べで分かった。これは2月と比べて7.1ポイント低く、1996年の統計開始以来、過去最低の数字だった。石油化学メーカーでの稼働率が低いのだから、川中、川下にも影響を及ぼすのは当然かもしれない。

一方で、経済産業省の調査結果をみてみると、川上の石油化学メーカーなどは、5月の供給量は未定だが、4月分は前年並みに供給を継続できたという。

一方で、川下ではシンナーの調達は困難だったため、川中にある卸売などの状況を追跡調査した。すると、4月分の川下への供給量は前年の半分と、圧倒的に少ないことが分かったという。赤沢経産大臣は、これが目詰まりの原因であると、生産を抑制しないように業者に要請した。

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「5月を乗り切れるのか」

しかし、川中の企業などに聞けば、中東情勢の解決が見えず、ナフサ調達の先行きも見通せない中、手元にあるシンナーをどう配分して、企業経営を維持していくのか?は企業のリスクマネジメントのひとつと主張する。政府は、この生産と出荷の調整を目詰まりの正体と呼んでいるようだが、企業側を一刀両断はできないように思う。

4月30日、中東情勢に関する関係閣僚会議で、高市総理は「年内のナフサの供給を確保した」と再び胸を張った。

この政府発信の安心感が、川上から川中、川下の企業までどう伝わっていくのか。取材した塗装業者は、「今の入荷状況が続けば」という前置きをしたうえで、当面の最大の焦点は「この5月を乗り切れるのか」だという。いよいよ、その問題の5月に入った。

「5月を乗り切れるか」 シンナー不足で塗装業者は悲鳴 政府は「目詰まり」 現場は「在庫切れ」 深刻ナフサショック【大石邦彦解説】
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【CBCテレビ論説室長 大石邦彦】

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