退職者本人が希望した場合、企業がハローワークより受領して退職者に渡す必要がある「離職票」。これは、「退職証明書」とは別の書類です。
離職票とは
離職票とは、正式には「雇用保険被保険者離職票」と呼ばれる書類のこと。退職者が失業給付金(基本手当)の受給を申請する際に、ハローワークに提出しなければならない書類です。厚生労働省が日本で働く外国人向けに作成した資料によると、英語では「Separation notice for the insured of employment insurance」と表記するようです。
(参考:厚生労働省『TO PERSONS INTENDING TO RECEIVE UNEMPLOYMENT BENEFITS OFEMPLOYMENT INSURANCE SYSTEM 』)
離職票を交付するためには、まず従業員が雇用保険の被保険者資格を喪失した日の翌日から10日以内に「離職証明書」「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに提出する必要があります。提出書類の内容に間違いがないかどうかをハローワークが確認したのち、離職票が交付されることになります。

離職票の書式
離職票の書式には、「雇用保険被保険者離職票‐1(離職票‐1)」と「雇用保険被保険者離職票‐2(離職票‐2)」の2種類があります。
離職票‐1と離職票‐2は別々の紙ですが、離職票が必要な場面ではセットにして使用します。離職票‐1と離職票‐2の見本は、ハローワークのホームページからダウンロードできます。
離職票の対象となる退職者
「雇用保険被保険者離職票」という正式名称にもあるように、離職票の対象となる退職者は、雇用保険に加入していた従業員に限られます。正社員やパートといった雇用形態を問わず、雇用保険の適用条件を満たしていた退職者は、離職票が交付される対象となります。
雇用保険の加入条件以下の条件を両方とも満たした場合、雇用保険が適用されます。
条件①:1週間の所定労働時間が20時間以上であること
条件②:31日以上の雇用見込みがあること
条件②については、「期間の定めがなく雇用される場合」「雇用期間が31日以上である場合」「雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止めの明示がない場合」「雇用契約に更新規定はないが、同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合」のいずれかを満たしていれば良いとされています。
(参考:厚生労働省『雇用保険に加入していますか~労働者の皆様へ~』『雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!』)
離職票と退職証明書、離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届との違い
離職票と関連する書類には、退職証明書、離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届があります。それぞれの違いを表にまとめました。
退職証明書との違い
「離職票」と「退職証明書」は、どちらも従業員の退職後に交付されるものですが、目的や交付元、交付するタイミングなどが異なります。ハローワークが交付する公文書が「離職票」、企業が交付する私文書が「退職証明書」だと覚えておくと良いでしょう。

(参考:『【社労士監修】退職証明書の正しい書き方と離職票との違い。フォーマット・記載例付』)
離職証明書との違い
離職証明書は、離職票‐2の内容と記載項目が基本的に同じであるため混同されることも多いですが、交付元が違います。離職証明書は、企業が作成してハローワークに提出する書類です。離職証明書は1式が3枚1組の複写式で、1枚目が「事業主控」、2枚目が「ハローワーク提出用」、3枚目が「退職者に渡す離職票(離職票‐2)」となっています。ハローワークに離職証明書を提出すると、1枚目(事業主控)と3枚目(離職票‐2)が交付されます。離職証明書は離職票‐2の基になる書類だと理解しましょう。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』P38~)
雇用保険被保険者資格喪失届との違い
離職票‐2と離職証明書の場合と同様、企業側が作成した雇用保険被保険者資格喪失届を基に、ハローワークが離職票‐1を交付します。離職票‐1は、雇用保険被保険者資格喪失届を基に作成されるものだと覚えておくと良いでしょう。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』P36~P37)
離職票が必要になるタイミング
離職票は、退職後の諸手続きの際に必要となります。
退職者が雇用保険の失業給付を受けたいとき
「退職時に次の就職先が決まっていない」「いつでも就業できる能力(健康状態・環境など)にある」など一定の要件を満たした場合に、退職者は雇用保険の失業給付を受けることができます。雇用保険の失業給付を申請する際には、離職票を提出する必要があります。
(参考:厚生労働省『Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~』)
退職者が年金や健康保険の手続きをするとき
退職後には、退職者自身が年金や健康保険の手続きを行います。そうした手続きの際、離職票が必要になる場合があります。ただし、全国健康保険協会や日本年金機構のホームページによると、離職票の「コピー」でも問題ないようです。
(参考:全国健康保健協会『申請に必要なもの』)
(参考:日本年金機構『厚生年金保険に加入している被保険者(第2号被保険者)が、配偶者を扶養にするときの手続き』)
離職票交付の流れ
離職票の交付の流れを、順を追ってご紹介します。

フロー①:離職票が必要かどうかを確認
「退職時に転職先が決まっている」「退職後すぐに働くつもりはない」といった理由から、退職者が離職票の交付を希望しない場合もあります。そのため、まずは退職する社員に離職票が必要かどうかを在籍中に確認しましょう。なお例外として、59歳以上の社員が退職する場合には、本人の希望の有無にかかわらず、離職票の交付が義務付けられています。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』)
フロー②:離職証明書・雇用保険被保険者資格喪失届を作成
離職票が必要な場合、退職日以前に離職証明書と雇用保険被保険者資格喪失届を作成します。ハローワークへの提出期限に間に合うよう、退職日が決定した時点で作成に取り掛かることが望ましいです。離職証明書の賃金欄には、退職する月の賃金も記入する必要があります。既に支払った賃金については事前に記入しておき、退職する月の賃金については、金額が確定した時点で記入しましょう。
フロー③:退職者による離職証明書の確認
離職証明書の記入が終わったら、退職日以前に離職証明書を退職者にいったん渡します。離職証明書の記載事項について退職者に説明した上で、賃金や退職理由などが間違っていないかを、退職者に確認してもらいましょう。
フロー④:ハローワークに離職証明書・雇用保険被保険者資格喪失届を提出
離職証明書・雇用保険被保険者資格喪失届は、社員が雇用保険の資格を失った日の翌日から10日以内に、事業所の所在地を管轄するハローワークに提出する必要があります。届出が遅れたり滞ったりすると、離職票の交付も遅れ、退職者が雇用保険の失業給付を受ける際に影響が出てきてしまうため、必ず期限内に届出ましょう。届出の際には、以下の書類を持参する必要があります。
届出の際に持参するもの ・労働者名簿
・出勤簿(タイムカード)
・賃金台帳
・離職理由の確認できる書類(退職届、就業規則、役員会議事録など)
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』)
フロー⑤:ハローワークが離職票を交付
離職証明書の記載内容に不備がなければ、ハローワークが離職証明書の3枚目を離職票‐2として交付します。その際に渡される書類には、「企業で保管するもの」と「退職者に渡すもの」があります。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』)
フロー⑥:離職票を退職者に送付
ハローワークから離職票をもらったら、「離職票‐1」と「離職票‐2」を退職者に送付します。離職票が退職者の手元に届く目安とされているのが、退職日から10日~2週間後です。離職票は退職者にとって大切な書類であるため、速やかに郵送しましょう。
離職証明書の書き方
離職証明書の書式は、以下のようになっています。離職証明書は、ハローワークインターネットサービスでも申請に必要な帳票を作成できます。
(参考:e-Gov『雇用保険被保険者資格喪失届(離職票交付あり)(平成30年10月以降手続き)』)
離職証明書の左側には「基礎日数」「賃金」などの記載欄が、右側には「離職理由」に関する記載欄があります。ここでは、離職証明書の記載項目と、特に注意が必要な項目の記載方法をご紹介します。
離職証明書の記載項目
離職票-2を交付してもらうために必要な離職証明書には、以下の項目があります。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』『第1 離職票の受理』)
賃金額の算出方法
離職証明書には「手取り金額」ではなく、社会保険料などを控除する前の「総賃金額」を記載する必要があります。総賃金額とは、雇用保険料の対象となる賃金のこと。「事業主が労働者に支払ったものであること」「労働の対償として支払われたものであること」という2つの要件を満たしているものが、雇用保険料の対象となる賃金に該当します。また、離職証明書に賃金額を記載する際には、支給されるかどうかが不確実な「臨時に支払われる賃金」や、年間の支給回数が3回以下の「3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」を除いた金額を記載します。そのため、賞与を年2回支給している企業の場合、賞与は賃金額に含めません。
詳細については、厚生労働省のホームページで確認できます。
(参考:厚生労働省『雇用保険料の対象となる賃金』『第6章 賃金について』)
なお、離職証明書の提出期限内(雇用保険の被保険者資格喪失日の翌日から10日以内)に退職した月の賃金が確定できない場合、いったんその分は「未計算」と記載します。ハローワークから依頼がある場合は、退職した月の賃金が確定次第、確定後の賃金額を速やかにハローワークに伝えましょう。
(参考:厚生労働省兵庫労働局『未計算賃金の報告依頼について』)
交通費をどのように記載するのか
「通勤手当」「定期券・回数券」といった交通費は、雇用保険料の対象となる賃金に含まれます。そのため賃金欄には、基本給や各種手当の他、交通費も加算した金額を記載する必要があります。「3カ月分」「6カ月分」といったように交通費を複数月分まとめて支払った場合には、該当する月の数で割り、それぞれの月に算入しましょう。例えば6カ月分の定期代として30,000円を支給していた場合、30,000円÷6カ月で、5,000円を毎月の賃金に算入します。なお、複数月分をまとめて支払った交通費を、支払った月の数で割り切れない場合には、最後の月に端数の金額を加算します。例えば3カ月分の定期代として10,000円を支給していた場合、10,000÷3で3,333.33…となり、最初の2月分は3,333円ずつ、最後の月は3,334円を賃金に算入します。

(参考:厚生労働省『雇用保険料の対象となる賃金』『第5章 被保険者についての諸手続』『雇用保険被保険者離職証明書についての注意』)
基礎日数の算出方法
賃金支払の基礎となった日数である「基礎日数」は、働いた日数を単純に記入すれば良いわけではありません。実際に働いていた日ではない「有給休暇の取得日」や「休業日」も基礎日数に含まれるため、注意が必要です。また、「半日しか勤務していない日」も「1日」としてカウントします。基礎日数の算出方法は、「欠勤控除できる給与形態かどうか」によって異なります。
(参考:厚生労働省『雇用保険料の対象となる賃金』『第5章 被保険者についての諸手続』)
(参考:『欠勤控除とは?人事が知っておくべき基本知識~算出に含む手当一覧付~』『【社労士監修】所定労働日数の計算方法・完全版。状況別に異なる計算の仕方を紹介』)
退職理由の書き方
離職証明書の離職理由は、大きく分けて6種類、細分化すると18種類あります。企業は、その中から離職理由として最もふさわしいものを1つ選びます。離職理由によってハローワークに持参する資料が異なるため、注意しましょう。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』)
雇用保険被保険者資格喪失届の書き方
雇用保険被保険者資格喪失届は、ハローワークインターネットサービスでも申請に必要な帳票を作成できます。ここでは、雇用保険被保険者資格喪失届の記載項目と、特に注意が必要な項目の記載方法をご紹介します。
(参考:e-Gov『雇用保険被保険者資格喪失届(離職票交付あり)(平成30年10月以降手続き)』)
雇用保険被保険者資格喪失届の記載項目
離職票-1の基となる雇用保険被保険者資格喪失届には、「離職年月日」「喪失原因」「「離職票交付希望の有・無」「1週間の所定労働時間」などを記載します。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』)
喪失原因の記載方法
雇用保険の被保険者でなくなった理由については、以下の区分に従い、該当する番号を記載しましょう。
(参考:厚生労働省『第5章 被保険者についての諸手続』)
再交付するには?
離職票送付後、「離職票をなくした」「離職票を再交付してほしい」といった連絡をもらうこともあるでしょう。そうした場合、企業としてできる対応は「離職票の再交付手続きを(企業が)行う」「離職票を交付したハローワーク(または電子申請)で、再交付手続きを退職者自身でしてもらうように伝える」のいずれかです。複数の退職者から同様の問い合わせがある可能性もあるため、どちらの対応とするかは、あらかじめ社内でルールを決めておくと良いでしょう。
便利な電子申請の方法
日によっては営業時間が延長されている所があるものの、ハローワークの利用時間は原則として8:30~17:15という限られた時間です。そのため、採用・教育活動などで忙しい時期や、会社とハローワークの距離が離れている場合など、人事・総務担当者がハローワークに出掛けられないこともあるでしょう。前提条件はありますが、電子申請という方法も便利です。
電子申請は総務省行政管理局が運営するHP「e-Gov」から行います。e-GovのHPに入ったら、「e-Gov電子申請」に進み、「電子申請メニュー 申請・届出 申請(申請者・代理人)」から「e-Gov電子申請手続検索」を開きます。検索窓に「雇用保険被保険者資格喪失届(離職票交付あり)」と入力したら、最新バージョンを選択し、手続きを行いましょう。手続きに関する詳細は、HP上で確認できます。
(参考:e-Gov『雇用保険被保険者資格喪失届(離職票交付あり)(平成30年10月以降手続き)』)
【まとめ】
雇用保険の失業給付に使われる離職票は、退職者の希望があった場合に企業がハローワークに交付を依頼し、退職者に送付する義務があります。離職票の基となる「離職証明書」や「雇用保険被保険者資格喪失届」は、企業が作成する書類であるため、事前に書き方を理解しておくことが重要です。併せて離職票の交付の流れも把握し、雇用保険の資格を失った日の翌日から10日以内」に、確実に離職票の交付手続きをハローワークに依頼しましょう。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/ds JOURNAL編集部)