ウィズコロナを迎えた時代。中途採用市場では大きな転換が起こりました。
(本記事はdodaが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています)
コロナで変わっていく採用市場の現状/藤野氏
まず初めに、新型コロナウイルスが中途採用や採用戦略にどう影響を与えたかについてお話しします。最大のポイントとしては、新型コロナウイルスの流行に伴って企業の求人数は減少傾向にありますが、求職者数の減少幅は求人数の減少幅に比べて小さい状況であること。つまり急激に買い手市場への転換が起こり、それに伴って募集をかける企業は競合が減り採用効率が高まっていると言えます。

新型コロナが与えた中途採用における本当の影響とは
厚生労働省が発表している2020年3月の有効求人倍率(「有効求職者数*1」に対する「有効求人数*2」の割合)の実数は1.43を記録しました。実に2017年6月以来約3年ぶりの低水準となります。現在、有効求人倍率の低下が求人数の減少により起きています。厚生労働省が発表した「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」により、2019年3月と2020年3月の求人数・求職者数を比較すると、求人数は減少しているのに対して、求職者数は横ばいであることがわかります。またパーソルキャリア株式会社独自のマーケット調査によると、回答した企業のうち約36%が「新型コロナウイルスにより採用活動に影響がある」と答えています。そのうち70%強が採用の再開時期が決まらず、現在採用活動を停止中という現状がわかってきました。
*1 「有効求職者数」:公共職業安定所に登録している求職者数*2 「有効求人数」:企業からの求人数

ただし、それは逆に考えればチャンスと捉えることもできます。求人数が減り1つの求人に応募者が集まりやすい現状が生まれているのです。
しかし、やみくもに採用を再開させて良いというものではありません。このコロナ禍において採用成功を果たしている企業は共通して3つの点に注力していることが見えてきました。それは「オンライン採用プロセスの構築」「採用計画の意思決定」「競合を意識し差別化」です。平等に悪影響を受けている今だからこそ、これらにスピーディーに傾注する企業がより多くの先行利益を得ているのです。

求職者のメンタリティーは「働き方」重視に
さて、企業同様、求職者にも変化が現れています。例えば在宅勤務、フレックス勤務の可否など、働き方を転職先選びの一つの条件とする人が増えてきたことです。doda検索ワードランキングでも「在宅勤務」が29位から10位に、「テレワーク」が圏外から44位に上がるなど、求人選定のキーワードとして無視できないものとなりました。
また一方で、転職活動に慎重な姿勢の求職者や、経験を活かせる転職を希望する求職者も増加傾向にあり、転職活動に真剣に向き合う人の比率が高まることにより前述の採用効率の押し上げになる要因にもなっています。さらに業種で見ると、リモートワークが進んでいるイメージの強いIT業界など、異業種・異職種転向への意志が強い求職者が増えていることも特筆すべき点です。
さて次項からは、実際のオンライン面接では何を準備すれば良いのか。あるいはその内容、質、面接官のパフォーマンスなどをどう上げていくべきか。HRプロフェッショナルであるお三方の、石倉様、曽和様、熊谷様に存分に語っていただきましょう。

オンラインはプレゼン型へ。上質なオンラインコミュニケーション経験が成功のカギ
採用活動は追い風となっている状況だと思いますが、この市況感についてどう感じていらっしゃいますか/藤野氏
石倉氏:2020年7月の有効求人倍率は1.25%前後と確かに減退傾向にあります。しかし規模別に有効求人倍率を見ると社員5,000人以上の企業では半年前でも0.3%減、300人規模では0.8%減程度ですので、コロナの影響が出始めた4月の1.43%と比べると本質的な構造は変わっていないように思われます。極端な話、転職を志望する方が変わらず、求人数だけ純減してもそこまで世の中が変化しているとは言えません。ですから、こういうタイミングで何もしなくても人が集まる会社づくりを考えた方がいい。平時に戻ったときに「また人が採用できない」と根本的な課題解決が必要にならないために。
曽和氏:人材を集めることに、苦労はなくなってきているとは感じています。現に弊社サービスで採用のアウトソーシングも行っておりますが、応募が増えているというケースも上がってきています。ただし次に選考の質を上げていくという課題が生まれるでしょう。例えば、自社で集めたデータを使ってマッチングしていくなど、今は選考そのものをブラッシュアップしていく機会だと捉えています。
熊谷氏:リーマンショック時代はまさに渦中の人事・採用担当者だった私ですが、お二人のお話を聞いて、いかに準備をするかが大事か痛感させられます。特に強い組織にするため仕組みをつくれる人を採用したい。それは全ての企業がそう思われると推察しますが、そんな人材の採用倍率は今も昔も変わらない。真面目に、丁寧に、自社で求める人材に対して採用活動を行うという、本質的なところは変わらないですよね。
曽和氏:理系の人材や幹部候補の人材などの求人倍率も変わっていないですね。
石倉氏:つまるところ採用枠が変わらない中で、応募の集め方を変えないとうまく採用成功に導くことができないということです。ある企業の人事・採用担当者が「ウチは応募倍率100倍なんです」と自慢していましたが、それは要するに1人採用するために99人落とすことになるので、非効率で採用としてはうまくない。いかに自社が欲しい人に振り向いてもらえるかが大事なんですよ。求職者に自社だけ受けてもらえるようにするためには、普段の採用活動の質も併せて重視しなければなりません。
熊谷氏:採用活動はずっと続けていく。
オンライン面接のポイントについても伺います/藤野氏
熊谷氏:面接については、私がお客さまとお話をする中でとても感じることがあります。それは人事・採用担当者以上に面接官への負荷が掛かっているという事実。人事・採用担当者と面接官が15分から30分作戦会議をして、いざ面接に臨むという企業はオンライン面接に移行してもスムーズです。それは採用活動に関して意思の疎通やコミュニケーションが取れているからにほかなりません。一方で、人事・採用担当者がオペレーターのようにスケジュール調整をするだけで、当の面接官へ事前に詳細を伝えていない会社は採用活動に失敗しています。両者の差は顕著です。面接を構成するステップは「ヒアリング(理解)」「セレクション(選抜)」「アトラクト(動機づけ)」「クロージング(合意形成)」の4つに分けられますが、ポイントはアトラクトとクロージングです。そしてそれらを実現できる要因がヒアリングに帰結するという考えです。オンライン面接においては、特にこれらの構造が重要になってきます。失敗する会社は「第一印象がわからない」とよくおっしゃいますので、そこをどうアプローチするかも大事ですね。

曽和氏:面接を受ける方の第一印象や雰囲気は大事ですね。情報は言葉で伝わりやすいですが、対面での見極めは技術の積み重ねでしか形成できません。しかし意外なデータもあります。入社後のパフォーマンスまで考えると、オンライン面接の方が、より効果が出やすいというケースです。対面ではその人の持つ雰囲気によって面接官の心理的バイアスに加速がかかりやすくなってしまいます。その点オンラインでは偏見や先入観をなくして評価できるメリットが生まれます。面接そのもののパフォーマンスは上がると言えるでしょう。
一方で、アトラクトには課題も残ります。オンラインでは対面ではない分、企業の対しての親近感や好感度、イメージは下がるとデータが示しています。ですからオンライン面接では、面接官は相手の顔を見て話す、アイコンタクトをする、話しているときの身ぶり手ぶりといったアクションを工夫するなどがポイントです。オンラインはリアルの劣化ではない。オンライン特有のその良さをいかに尖らせるかが、企業にとっても求職者にとっても考えどころなのだと思います。
石倉氏:当社はオンラインもオフラインも、面接の精度、その後の活躍度や定着率などにも影響はありませんね。特別な工夫はしていません。しかし面接官を誰が担当するかが重要だと考えています。面接官の役割は、見極めとアトラクトです。しかし現状は、どちらかがうまいだけで、面接官を担当させている企業が多い。なんとなく序列だけでラインアップしている会社もそうです。私は面接官が必ず見極めとアトラクトを両立させる必要性はないと思っています。2人に担当させてどちらかに役割を振ることも大事です。分けて考えて良いのです。また一方で、その人の持つ雰囲気や印象といった要素を、オフラインでは完全に把握できているという前提で進めない方が安全です。採用や面接が思うように進まない原因をオンラインに求めないでほしいのです。
熊谷氏:現在はオンライン移行期ですから、みんな手探りで、慣れている最中。だから、できない理由をオンラインにつくろうとするのでしょうね。
藤野氏:オンライン面接では見極め、アトラクト、フォローの役割を分けることが大事なのですね。良質なオンの体験をしたことがないのにオフと比べないでください、と。採用に強く、かつオンラインを導入する企業は、お客さまにも求職者にも体験してもらい、その良さをうまく伝えているようですね。

リモートワーク下における社員の定着率についてもお答えいただきたいのですが/藤野氏
曽和氏:社員の定着率にも相関するオンボーディング(on-boarding)プロセスは、リアルでもなかなか実現できていない企業が多いです。コロナ禍で新しく入社した方の中には、まだ一度も出社できていない社員もいます。その中で、例えば新入社員へ「学生気分を抜け」と精神論から研修で教えている組織がありますが、まずは良好な人間関係を構築して、それから信頼を獲得して実施した方がいい。これはオンラインでも同様です。定着率の低い企業は、良好な人間関係の構築を第一に考えていないのです。
石倉氏:信頼関係の獲得については、私も課題だと感じています。例えば、リモートワークをしている社員Aさんがいたとします。オンラインの最大のデメリットは、このAさんの状況がつかみづらいということなのです。進行が遅延している、サボっていたとしても、本人が申告しないかぎり見えにくいのです。またオンライン上の特性としてAさんはしたことを質問しづらい。ですからコミュニケーションをスムーズに取れる環境や空気をいかにつくれるかがポイントです。オフィスでのコミュニケーションは、仕事の話、報告、ちょっとした相談、雑談などがありますが、リモートだと仕事の話ばかりになりやすい。だから、さまざまなコミュニケーションを意図的に増やす必要があるということです。
熊谷氏:例えば、社内の廊下で会ったときに話すような偶発的コミュニケーションはどうやって増やしましょう?
石倉氏:今度はオフィスではなく、オンライン上でチャットなどコミュニケーションツールの設計を考えると良いですね。例えばテーマごとにチャンネルをつくり、雑談スレッドなどを細かく設定することです。Zoom会議でブレークタイムを設けても面白いですよね。オープンな環境の中、社員同士がどう接点を持てるかを設計するわけです。
熊谷氏:オンラインで実際に会えないことに、みんな神経質になり過ぎているのかもしれません。以前(コロナ前に)、リモートワークをしている社員の1人に「不安なことは何か」とヒアリングしたことがありました。そうすると「出社してオフィスに集まらないと不安」だという話が出てきました。しかし、コロナ禍が起き出社することができない状況が前提になると、「そんなに不安になることではないですね」と心理が変わっていたんです。社員の不安一つとっても、企業が当たり前として行っていることに依存しているのだと気づかされました。
石倉氏:それが真理ですね。また、私は社員同士のコミュニケーションを阻害する要因の一つに、「話しかけづらい上司」の存在があると思っています。そんな上司のいるオフィスでは、たとえ丸の内から渋谷に環境を変えても成果は同じ。元から話しかけづらい上司のいる会社は、オフィスでもそういう環境だったのです。オンラインであれば、今どの状況にあるのか、どこで詰まっているかなどが把握しやすい。コミュニケーションがオープン化されている点で言えば、オンラインの方が見えるようになるかもしれません。
これまでは空気を察することができる人が優秀とされていましたが、オンラインは共有の費用が低いので全体の流れが可視化しやすい。これからは流れを把握できる社員が優秀だと言われるでしょう。そんな人が増えていくことは、長い目で見ると社員定着率の向上にもつながるというわけです。
取材後記
「上質なオンラインコミュニケーションをぜひ経験してほしい」――。最後にそうコメントされた石倉氏。コロナ禍におけるコミュニケーションの断絶が声高に叫ばれている昨今ですが、当セミナーに登壇されたHRのプロフェッショナルたちは、悲観せず明るい未来を描いていました。アフターコロナ、ウィズコロナ…。本来私たちはそのような概念にとらわれず、自由に企業活動や採用活動に取り組める環境に置かれていた。今回のセミナーでは、そんな気づきを得られる、濃密な時間を過ごすことができました。
取材・文/鈴政 武尊、編集/d’s JOURNAL編集部