雇用契約を結ばない、短時間の働き方を指す「ギグワーク」。労働力を確保するための新しい手段として、近年注目を集めています。

「ギグワークと他の働き方には、どのような違いがあるのか」「ギグワークを活用することで、どのような効果が期待できるのか」を知りたい人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。今回は弁護士監修のもと、ギグワークの概要や普及の背景、企業がギグワークを取り入れるメリットなどをご紹介します。

ギグワークとは?

ギグワークとは、雇用契約を結ばない、単発・短時間の働き方のこと。2019年ごろからアメリカで使われ始めた言葉で、「1度限りの演奏」や「短いセッション」を指すスラングである「Gig(ギグ)」と、仕事を意味する「Work(ワーク)」が由来とされています。なお、ギグワークで働く人を「ギグワーカー」、ギグワークによって成立する経済圏・経済活動を「ギグエコノミー」と呼びます。

ギグワークには、ノルマや納品義務の発生しない、1~3時間などの短い時間での労働という特徴があります。また、ギグワーカーと企業には、「雇用主と労働者」といった雇用関係がありません。「発注者と受注者」という業務委託のような関係となっており、ギグワーカーは「個人事業主」という扱いです。

ギグワークは、時間や人間関係などの自由度が高い新しい働き方として、社会的に認知されるようになってきています。ギグワークと比較されることの多い働き方との違いを、表にまとめました。

ギグワークと類似する働き方との違い

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

単発アルバイトや単発派遣との違い

単発アルバイトや単発派遣との違いは、「雇用関係の有無」と「拘束時間」です。個人事業主であるギグワーカーには企業との雇用関係がありませんが、単発アルバイトは就職先企業、単発派遣は派遣元企業と雇用契約を結びます。

また、拘束時間については、ギグワークの場合、「1時間単位で企業が定める」もしくは「求職者が1時間単位で選択する」のが一般的です。

一方、単発アルバイトや単発派遣の拘束時間は、一般的に「1日単位で企業が定める」形となっています。

フリーランスとの違い

ギグワークとフリーランスは、ともに企業との雇用関係がありませんが、「発注対象」が異なります。フリーランスには「案件単位」「プロジェクト単位」で継続性のある仕事を依頼するため、成果物の納品にかける時間が長くても短くても、報酬は変わりません。対して、ギグワークでは「時間単位」で単発の仕事を発注します。そのため、ギグワーカーには単純な行動ノルマが課されるのみで、企業はギグワーカーが作業を行った時間分の報酬を支払います。

クラウドソーシングとの違い

クラウドソーシングとは、企業がインターネットを介して不特定多数の求職者に業務を発注する仕組みのこと。クラウドソーシングサービスに登録されている仕事のうち、短時間しか拘束しない単発的なものをギグワークと認識するとよいでしょう。一般的にギグワーカーはインターネットを経由して仕事を得るため、クラウドソーシングサービスを利用して仕事を依頼する企業が大半です。

【弁護士監修】ギグワークとは?意味や普及の背景・企業が知っておきたいメリット・活用方法についてご紹介
クラウドソーシングとの違い

ギグワーク普及の背景は?

ギグワーカーやギグワークを導入する企業は年々増加しています。ギグワークが普及している背景を解説します。

人材不足

まず挙げられるのが、企業の慢性的な人材不足です。近年、労働力人口の減少や就職・転職における売り手市場の継続により、多くの企業が人材の確保に苦戦しています。また、ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響で、通販サイトや宅配サービスの利用者が急増し、配送や配達のリソースが確保できないといった課題も生まれていました。これらの課題を解決し、短時間であっても労働力を確保できるよう、ギグワーカーを活用する企業が増えています。

テクノロジーの進化

ギグワークの普及には、テクノロジーの進化も影響しています。デジタル化の促進やスマートフォンの普及により、インターネット上のプラットフォームサービスも増加。インターネット環境があれば、時間や場所を問わず仕事を探す・依頼することが可能となりました。「仕事を探したい人」と「仕事を依頼したい企業」をスムーズにつなげる仕組みができたことが、ギグワーク拡大のきっかけとなっています。

副業を容認する企業の増加

働き方改革の推進やコロナ禍により、時短勤務制度やリモートワークを導入する他、副業を容認する企業が増加したことも大きな要因です。働き改革により働き方の多様化が進んでいましたが、コロナ禍で副業容認の動きが一層加速しました。ギグワークは働く側の「すきま時間を有効に活用したい」「減少してしまった収入を副業で補いたい」というニーズを叶える手段としても活用されています。

ギグワークの種類は?

ギグワークには、どのような種類の仕事があるのでしょうか。ギグワークの代表的な仕事をいくつかご紹介します。

軽貨物ドライバー

軽貨物ドライバーとは、軽トラックや軽バンなどの軽貨物車両を使用して荷物を配送する仕事のこと。ギグワーカーは事前に配達するエリアや時間帯を予約後、企業や配送ステーションから荷物を持ち出し、個人宅や企業に届けます。代表的なサービスには『Amazon Flex』『PickGo®』などがあります。

フードデリバリー

注文者のもとに食事を配達するフードデリバリーのギグワークは、自店舗ではまかないきれない配達要員を確保するために欠かせない手段となっています。自転車や原付バイクでの配達を認めている店舗も多いため、気軽に始められ、登録者も多いことが特徴です。

フードデリバリーは個人の利用が中心ですが、コロナ禍の福利厚生として、在宅勤務を行う従業員への食事提供方法として活用する企業も増えてきています。代表的なサービスとしては、『Uber Eats®』が挙げられます。

データ入力、イラスト作成、翻訳など多様な仕事が存在

その他、ギグワークにはさまざまな種類の仕事が存在します。主要なものを、表にまとめました。

企業がギグワーカーを活用するメリットは?

ギグワークには、ギグワーカーとして働く側だけでなく、活用する企業側にもさまざまな効果があります。企業がギグワーカーを活用することによって得られるメリットをご紹介します。

人件費を抑制できる

企業とギグワーカーの間に雇用関係はないため、継続的な人件費を抑えられるというメリットがあります。企業はギグワーカーへの労働時間分の報酬と仲介サービスの利用料を支払うのみで済み、毎月の給与や社会保険、福利厚生、年次有給休暇などは不要です。採用費やオフィス整備費、研修費なども削減でき、結果として経費の大幅な削減につながるでしょう。

突発的な需要への対応ができる

ギグワーカーを活用することで、突発的な需要にも対応できるようになります。ギグワーカーとの契約は「時間ベース」もしくは「業務ベース」であることから、企業が必要とするタイミングで、必要な分の労働力を確保することが可能です。逆に、閑散期に過剰な労働力を抱えるといったこともありません。募集時に必要なスキルを指定すれば即戦力となる人材を効率よく確保できるため、マネジメントコストをかけない労働力のコントロールも可能になるでしょう。

コア業務への注力により、企業の生産性が向上する

ギグワークでは、自社の状況に応じて、さまざまな業務を依頼できます。そのため、ノンコアな業務をギグワーカーに依頼すれば、自社社員がコア業務に注力することも可能です。専門性が不要でありながら人手を確保したい業務をギグワーカーに任せつつ、企画・開発やマーケティングなどの自社社員でしか行えない業務のパフォーマンスやクオリティを安定させることができ、企業の生産性向上が期待できるでしょう。

ギグワーカーが抱える課題について

ギグワークにはさまざまなメリットがある一方で、いくつかの問題点も指摘されているようです。

ギグワーカーは企業と雇用関係を結んでいないため「労働法」の対象外となり、労災補償や福利厚生などを受けられず、年金や健康保険も全額自己負担となっています。

このように、十分な社会保障を受けられていないことが、ギグワーカーの課題と言えるでしょう。

そのような状況を受けて、アメリカのカリフォルニア州では、2020年1月にギグワーカーの生活を保障する法律を施行。条件を満たしたギグワーカーが、最低賃金や失業手当などの補償を受けられるようになりました。フランスやイギリスなど、他の国でもギグワーカーの立法的救済に向けた取り組みが進められています。

日本においても、今後ギグワーカーの権利保障について法整備が進む可能性があります。今後の動向を注視していきましょう。

ギグワーカーの探し方は?

ギグワーカーに仕事を依頼するには、どのような方法があるのでしょうか。ギグワーカーを探す方法をご紹介します。

プラットフォームを通じて探す

最も一般的なのは、仲介サービスのプラットフォームを利用して探す方法です。仲介サービスには、業務に必要なスキルから人材を探すことができる「スキルシェアサービス」と、事前に企業が登録した仕事への応募者に依頼をする「クラウドソーシングサービス」とがあります。「自動マッチング機能を備えているもの」や「直前のキャンセルを防止するためにペナルティ制度を設けているもの」など、サービス内容はさまざまです。

リファラルで紹介をしてもらう

社員から知人を紹介してもらう「リファラル」を利用するという方法もあります。自社の業務内容や必要な資質などを把握している人物からの紹介となるため、ミスマッチが起こりにくいことが特徴です。

まとめ

ギグワークは、単発・短時間で仕事を依頼できるため、余計なコストをかけず、必要なときに必要な分の労働力を確保する手段として有効です。一方で、ギグワーカーが労働法の対象とならないことや、保険料を全額自己負担することなどが問題視されています。ギグワークのメリットとデメリットそれぞれを理解した上で、必要に応じて活用してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/ds JOURNAL編集部)

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