⾼度の専門的知識などを有し、特定の職務に従事する労働者を対象に、労働基準法の一部規制の適用から除外する、高度プロフェッショナル制度。年収要件や対象職種、裁量労働制との違いなどについて知りたい方もいるでしょう。
この記事は、高度プロフェッショナル制度の概要やメリット・デメリット、導入の流れなどを解説します。

高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度は、一定の要件(年収、対象業務)を満たす労働者のみを対象とした制度です。厚生労働省のパンフレットを参考に、制度の概要や対象職種などについて見ていきましょう。
(参考:厚生労働省『高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説』)
高度プロフェッショナル制度の概要と目的
高度プロフェッショナル制度とは、年収要件を満たし、特定の職務に従事する高度な専門性を有する労働者を対象に、労働基準法の「労働時間」「休憩」「休⽇および深夜の割増賃⾦」に関する規定の適用から除外する制度のこと。
自律的で創造的な働き方を希望する労働者が、高い収入を確保しながら、メリハリのある働き方をできるようにすることを目的としています。
(参考:厚生労働省『働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~』)
厚生労働省のパンフレットでは、以下のように定義しています。
⾼度プロフェッショナル制度は、⾼度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で⼀定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議および労働者本⼈の同意を前提として、年間104⽇以上の休⽇確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休⽇および深夜の割増賃⾦に関する規定を適⽤しない制度です。
(参考:厚生労働省『高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説』)
なお、年収要件は「年収1,075万円以上」です。
高度プロフェッショナル制度の対象職種
対象職種は、以下の5つの業務に該当するものに限られます。
■高度プロフェッショナル制度の対象となる5つの業務
●金融商品の開発業務
●金融商品のディーリング業務
●アナリスト業務
●コンサルタント業務
●研究開発業務
対象業務となり得る/なり得ない業務の例を、表にまとめました。
(参考:厚生労働省『高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説』)
詳細については、厚生労働省のパンフレットをご確認ください。
高度プロフェッショナル制度が注目された背景
高度プロフェッショナル制度が注目された背景には、「働き方改革」があります。
働き方改革の一環として、働き過ぎを防いで労働者の健康を守り、ワークライフバランスを実現することを目的とした「労働時間法制の見直し」が実施されました。
日本中の企業が、政府の推し進める「働き方改革」の内容を注視していたことから、その施策の一つである「高度プロフェッショナル制度」への関心も高まりました。
(参考:厚生労働省『働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~』)
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い
「高度プロフェッショナル制度」と混同されがちなのが、「裁量労働制」です。裁量労働制とは、あらかじめ設定した「1日当たりに働いたものとする時間分」を労働時間とみなす制度のこと。裁量労働制の対象労働者は、本人の裁量で、日々の労働時間や仕事の進め方を決定できます。
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の大きな違いは、「対象者の範囲」と「時間外手当、休日手当・深夜手当の支給有無」の2点です。
高度プロフェッショナル制度は年収1,075万円以上、かつ5つの対象業務に従事している労働者のみ対象となります。一方、裁量労働制には年収要件がなく、高度プロフェッショナル制度よりも対象職種の幅が広いです。
時間外手当、休日手当・深夜手当については、裁量労働制では条件を満たした場合に支給する必要がありますが、高度プロフェッショナル制度では支給の必要がありません。
(参考:『【初心者向け】裁量労働制とは?導入方法は?正しく運用するための基礎知識―弁護士監修』)
高度プロフェッショナル制度のメリット
高度プロフェッショナル制度の導入により、どのような効果が期待できるのでしょうか。高度プロフェッショナル制度のメリットをご紹介します。
業務上の成果が評価されやすくなる
日本企業の多くは、残業時間を含む実労働時間をベースとした賃金制度を採用しています。そのため、「残業時間が少ない/残業はしない」けれど成果をあげている従業員は、実際の成果に見合った給与をもらえていない可能性があります。評価に対する不公平感が課題となっている企業もあるでしょう。
高度プロフェッショナル制度を導入すれば、評価の不公平感を解消される可能性があります。
裁量で働くことができるため生産性向上が見込める
上でご紹介したように、高度プロフェッショナル制度では、「残業時間を含む実働労働時間」ではなく、「仕事の成果・業績のみ」に基づき、賃金を決定します。すなわち、求められた成果さえ出せれば、たとえ労働時間が長くても短くても、給与に変わりはないということです。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者は効率性を求め、これまでよりも短時間で成果・業績をあげようとするインセンティブも働くでしょう。その結果、生産性の向上が見込めます。
ワークライフバランスを実現しやすくエンゲージメント向上に寄与する
高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、出勤・退勤時間や休暇を自由に決めることができます。「子どもの帰宅前に退勤する」「親の通院に付き添う際、仕事を中抜けする」といった柔軟な働き方ができるため、育児・介護と仕事の両立がしやすくなるでしょう。
このようにワークライフバランスを実現しやすくなることにより、従業員エンゲージメントや定着率の向上に寄与するでしょう。
高度プロフェッショナル制度のデメリット
高度プロフェッショナル制度にはメリットがある反面、デメリットもあります。高度プロフェッショナル制度のデメリットをご紹介します。
制度の導入にあたってのハードルが高い
導入の流れについては後ほど詳しく紹介しますが、制度導入にあたっては、労使委員会での決議や対象労働者との同意などが必要なため、運用開始までのハードルが高いといえます。そのため、企業によっては、「導入したいけれど、実際には導入できない」というケースも考えられるでしょう。
職種によっては評価基準の設定が難しいことも
高度プロフェッショナル制度の対象業務の中には、目に見える成果・業績が出るまでに長い期間を要するものもあります。例として、研究開発業務の場合、顕著な成果・業績をあげるのに数年~数10年かかるケースも少なくありません。
そのため、職種によっては「半期」「1年」といった単位で、評価基準や目標を設定しにくいことが考えられます。適切な評価基準を設定できないと賃金等の労働条件の不納得につながり、対象労働者から不満の声があがるでしょう。
労働基準法の適用外となることで生じるデメリット
労働基準法の適用外となることにより、対象労働者にデメリットが生じます。それらを解消・軽減できないと離職につながりかねないため、注意が必要です。
労働基準法の適用外となることで生じる、デメリットについてご紹介します。
長時間労働のリスク労働基準法の適用外となる高度プロフェッショナル制度では、1日当たりの労働時間の規制が撤廃されます。求められた成果を出せるまで働き続ける結果、長時間労働を招く可能性があります。
長時間労働が常態化すれば、対象労働者の心身の健康に悪影響をもたらします。後述する健康管理確保措置が適切に行われない場合、休職や退職、精神疾患、最悪の場合には過労死につながる恐れもあるでしょう。
休日出勤のリスク「長時間労働のリスク」と同様に懸念されるのが、「休日出勤のリスク」です。成果をあげることに必死になるあまり、休日出勤する従業員が増えてくる可能性があります。また、対象労働者の休日管理がしっかりできていないと、「休日出勤が常態化する」「会社に黙って休日出勤する従業員が出てくる」といった事態を引き起こしかねません。
労働基準法の適用外となる高度プロフェッショナル制度では、時間外労働や休日、深夜の割増賃金が発生しません。これは、対象労働者にとってデメリットといえます。
「時間外労働や休日、深夜の割増賃金が発生しない」ことを対象労働者にきちんと伝えなければ、のちのちトラブルに発展する可能性が非常に高いため、注意しましょう。
高度プロフェッショナル制度の導入の流れを解説
厚生労働省のパンフレットを参考に、高度プロフェッショナル制度の導入の流れを解説します。
(参考:厚生労働省『高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説』)

①労使委員会を設置する
まずは、労使委員会を設置する必要があります。労使委員会とは、賃⾦、労働時間その他の労働条件に関する事項を調査審議する委員会のこと。使⽤者代表委員および労働者代表委員で構成されます。
■労使委員会の設置の⼿順
ステップ①:設置にあたって必要な事項(設置⽇程や⼿順など)について、労使で話し合う
ステップ②:労使各側を代表する委員を選出する(うち半数を労働者代表委員が占めなくてはならない)
ステップ③:運営のルールを定め、運営規程を作成する
ステップ②について、使⽤者代表委員は、使⽤者側(企業側)の指名により選出します。一方、労働者代表委員は、事業場の過半数労働組合または過半数労働組合がない事業場では過半数代表者から、任期を定めて指名を受ける必要があります。
ステップ③では、労使委員会の「招集」「定足数」「議事」などに関する事項を決めます。
②労使委員会で決議する
以下に示す10の事項について、委員の5分の4以上の多数による決議が必要です。
■労使委員会で決議すべき事項
●対象業務
●対象労働者の範囲
●対象労働者の健康管理時間を把握することおよびその把握方法
●対象労働者に年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること
●対象労働者の選択的措置
●対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
●対象労働者の同意の撤回に関する手続き
●対象労働者の苦情処理措置を実施することおよびその具体的内容
●同意をしなかった労働者に不利益な取り扱いをしてはならないこと
●その他厚生労働省令で定める事項(決議の有効期間等)
③決議を労働基準監督署長に届け出る
労使委員会の決議は所定の様式に記載し、所轄の労働基準監督署⻑に届け出る必要があります。決議を提出せずに⾼度プロフェッショナル制度を導⼊することはできませんので、忘れずに届け出ましょう。
④対象労働者の同意を書面で得る
次に、対象労働者本⼈の同意を得ます。のちのちトラブルに発展することがないよう、書面とともに口頭でもしっかりと説明し、理解を得ることも重要です。
同意は書面で得ることになりますが、それに先立ち、「⾼度プロフェッショナル制度の概要」「労使委員会の決議の内容」「同意した場合に適⽤される賃⾦制度、評価制度」などを書面で明示します。同意の可否を判断するための⼗分な時間を対象労働者に与えた上で、以下の事項を書面で示しましょう。
■書面で明示する事項
●同意をした場合には労働基準法第4章の規定が適用されないこととなる旨(対象労働者には、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定が適用されない)
●同意の対象となる期間
●同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金の額
同意した証として、対象労働者に書面に署名してもらいます。なお、同意しなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取り扱いをしてはなりません。
⑤対象労働者を対象業務に就かせる
対象労働者を対象業務に就かせ、高度プロフェッショナル制度を適用することにより、「労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用除外する」効果が生じます。なお、対象労働者は、同意対象となる期間中に同意を撤回することが可能です。
運用中は、使用者(企業)に対し、対象労働者の「健康管理措置(詳細は後述)の実施」「苦情処理措置の実施」ならびに、「同意をしなかった労働者への不利益な取り扱いの禁止」が求められます。
⑥決議の有効期間の満了
決議の有効期間が満了すると、高度プロフェッショナル制度の適用期間も終了します。制度の適用を継続したい場合は、労使委員会での決議に戻り、その後もフローに則った対応を進めましょう。
人事が気を付けるべき高度プロフェッショナル制度における注意点
高度プロフェッショナル制度の導入・運用にあたり、人事担当者としてどのような点に気を付ける必要があるのでしょうか。高度プロフェッショナル制度を導入・運用する際の注意点を解説します。
既存の人事評価制度の見直しを行う
先ほどご紹介したように、高度プロフェッショナル制度では「仕事の成果・業績」を評価し、給与を支給します。すなわち、高度プロフェッショナル制度の導入にあたっては、「仕事の成果・業績」を適切に評価できる人事評価制度であることが大前提となります。
企業によっては、既存の人事評価制度の見直しが必要となるでしょう。対象労働者の業務内容を把握した上で、一人ひとりの働きぶりを適切に評価できる制度を設定することが重要です。
労働者の健康確保措置を講じる
使用者(企業)は、労働者の健康管理措置として、「健康管理時間の把握」「休日の確保」「選択的措置」「健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置」を実施する必要があります。
なお、決議の有効期間の始期から6カ月以内ごとに、4つの健康管理措置の状況を所轄の労働基準監督署長に報告することが義務付けられています。
4つの健康管理措置について、厚生労働省の資料をもとに解説します。
(参考:厚生労働省『高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説』)
(参考:厚生労働省『高度プロフェッショナル制度について』)
「健康管理時間(対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計)」の把握方法を決議で定め、客観的に健康管理時間を把握する必要があります。例として、「タイムレコーダーによるタイムカードへの打刻記録」や「勤怠管理システムへのログイン・ログアウト記録」「 ICカードによる出退勤時刻または事業場への⼊退場時刻の記録」が挙げられます。
なお、事業場外において労働した場合には、「直行直帰のため、勤怠管理システムにアクセスできない」といったやむを得ない理由があるときのみ、対象労働者の自己申告が可能です。
医師による面接指導を適切に実施できるよう、日々の健康管理時間の他、1カ月当たりの健康管理時間の合計についても、把握しましょう。
休日の確保対象労働者に年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えることが義務付けられています。また、決議においては、休⽇取得の⼿続きを具体的に明らかにする必要があります。
なお、対象労働者の疲労蓄積防止のため、企業としては、⻑期間の連続勤務とならないよう適切な休⽇の取得が重要であることについて、あらかじめ対象労働者に周知することが望ましいです。
選択的措置以下のいずれかに該当する措置を決議で定め、実施する必要があります。
■選択的措置
1.勤務間インターバルの確保(11時間以上)+深夜業の回数制限(1カ月に4回以内)
2.健康管理時間の上限措置(1週間当たり40時間を超えた時間について、1カ月について100時間以内または3カ月について240時間以内とすること)
3.1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること(本⼈が請求した場合は連続1週間×2回以上)
4.臨時の健康診断(1週間当たり40時間を超えた健康管理時間が1カ月当たり80時間を超えた労働者または申し出があった労働者が対象)
なお、1つ目の「勤務間インターバルの確保」とは、「始業から24時間を経過するまでに11時間以上の休息期間を確保」することを意味します。
健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置として、次の措置のうちから決議で定め、実施する必要があります。
■健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
1.「選択的措置」のいずれかの措置(選択的措置についての決議で定めたもの以外)
2.医師による⾯接指導
3.代償休日または特別な休暇の付与
4.心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
5.適切な部署への配置転換
6.産業医等による助言指導または保健指導
この他、「1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1カ月当たり100時間を超えた対象労働者」については、労働安全衛⽣法に基づき、本⼈の申し出によらず、医師による⾯接指導の実施が必要です。
まとめ
高度プロフェッショナル制度には、生産性や従業員エンゲージメントの向上などのメリットがある一方で、長時間労働や休日労働が増えるリスクもあるため、注意が必要です。
導入する際は、「労使委員会での決議」や「対象労働者との書面での同意」といった必要な手続きを踏みましょう。また、「既存の人事評価制度の見直しを行う」「労働者の健康確保措置を講じる」というポイントを押さえることも重要です。
制度の対象者は限られており、導入にあたってはハードルもあるため、「対象となり得る労働者がどのくらいいるか」「本当に、制度を導入すべきか」を確認・検討することから始めてみてはいかがでしょうか。

(企画・編集/d’s JOURNAL編集部、制作協力/株式会社mojiwows)