
転勤や海外赴任などで長期間自宅を離れる場合や物件を相続した場合など、所有しているのに活用できていない不動産があるという場合には、その家を貸し出すという選択肢もあります。ただし、賃貸経営を行うにあたっては住宅ローンの扱いや確定申告など、注意すべき点がいくつかあります。
本コラムでは、個人が家を貸し出すことのメリットやデメリット、具体的な手続きのほか、注意点についても詳しく解説します。
■使っていない家を貸すことはできる?
(画像:PIXTA)個人であっても、使っていない家を他人に貸すことは可能です。家を貸し出すことで定期的な家賃収入を得ることができたり、湿気や害虫などによる損耗の進行を軽減することができたりします。
ただし、原則として、住宅ローンを利用して購入した物件は貸し出すことはできません。住宅ローンは自己居住を目的として貸し出されるものであり、無断で第三者に貸し出すことは契約違反とみなされています。最悪の場合には契約違反としてローン残額について一括返済を求められる可能性があります。
そのためローンの残債がある場合には、まずは金融機関に事情を説明し、その物件を貸し出すことができるか相談してみましょう。
また、家を貸すことが可能な場合であっても、家を貸すことによるメリットとデメリットを比較する必要があります。家を貸すことで得られる利益だけではなく、初期費用や税金などのコストを考慮に入れたうえで、今後売却する予定があるかどうかなど、総合的な観点から慎重に検討しましょう。
空き家の活用法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
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■家を貸すことのメリット
使っていない家を貸すことは、資産を有効活用する方法の一つです。ここでは、家を貸すことで得られる経済的なメリットと、管理上のメリットについて詳しく解説していきます。
●家賃収入が得られる
所有している家を賃貸に出すことの最も大きなメリットは、家賃収入を継続的に得られることです。毎月決まった金額が収入として入ってくることで、日々の生活費の足しにできたり、住宅ローンの返済に充てたりすることで、空き家のまま放置しているよりも経済的なゆとりが生まれます。
将来の生活をより豊かにしていきたいと考えている人や、今の生活にもっとゆとりが欲しいと考えている人にとって、空き家を貸し出すことは魅力的な選択肢となるでしょう。
●固定資産税の負担軽減につながる
固定資産税は土地や不動産などの「固定資産」に対して、土地と建物それぞれに課税される税金のことをいいます。家を賃貸に出すことで、「住宅用地の特例措置」により、持ち家にかかる固定資産税の負担を軽減できる可能性があります。
この特例は、土地の面積に応じて評価額を課税標準額の「6分の1」または「3分の1」に軽減する制度で、居住者がいることが条件となります。つまり、空き家のままでは特例を受けられず、自分が居住するか、第三者の個人に貸し出すことで税負担を軽減できるようになります。
ただし、この特例を受けるための要件は自治体によって異なる場合があるため、事前に確認することが重要です。
固定資産税の特例については、こちらの記事で詳しく解説しています。
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●空き家対策になる
空き家のまま家を放置することは、防犯上のリスクを高めるだけでなく、建物の老朽化を早める原因にもなります。長期間、人が住んでいない家は換気が不十分になり、湿気によるカビの発生や建材の劣化が進みやすくなります。また、不審者の侵入や放火といったリスクも懸念されます。
家を貸し出して誰かが住むことによって、これらのリスクを軽減できます。入居者が日々の生活を送る中で、自然と建物の維持管理が行われ、防犯の目にもなるため、空き家のまま放置するよりも安心という側面があります。
■家を貸すことのデメリット・注意点
ここでは、家を貸す前に知っておくべきリスクや注意点について詳しく解説します。不動産投資をしたことがない人にとっては、契約内容や法律、税制面での誤解が思わぬトラブルや損失を招くこともあるため、注意が必要です。
●管理の手間がかかる
家を貸すことによって、入居者との賃貸契約や家賃の回収、建物の修繕、設備の点検など、さまざまな管理業務を行う必要が生じます。
このような手間を軽減するためには、不動産管理会社へ管理業務を委託するのが一般的ですが、その分の管理手数料が発生します。そのため、家賃収入だけをみて収益性を判断するのではなく、こうした管理手数料など費用を差し引いた実際の収支を把握し、綿密なシミュレーションを行いましょう。
●物件を自由に利用することが難しくなる
家を貸している間は、自宅ではなく賃貸物件になります。当然ながら自分自身がその家に住むことはできません。法律では賃借人の地位が厚く保護されているため、賃貸人から一方的に契約を解除することは非常に困難であり、貸し出し中に「やっぱり自分で住みたい」という状況になってもすぐに対応できない可能性が高いです。
入居者がいる状態で物件を売却することを「オーナーチェンジ」といいますが、不動産売買においては、入居者がいることで自己居住用の物件としては基本的に敬遠されやすくなります。空室物件であれば、自己居住用としても投資用としても購入希望者が現れる可能性がありますが、入居者がいることで投資用の物件を探している人に購入希望者が限定され、空室物件よりも売れにくくなる場合があります。
オーナーチェンジで物件を売却する方法や、メリット・デメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】オーナーチェンジでの物件の売却!買い取り業者の選び方や注意点は?
●入居者が決まらない可能性や入居者トラブルのリスクがある
いざ物件を貸し出そうと思っても、すぐに入居者が決まるとは限らず、空室となり賃貸収入を得られない期間が発生する可能性もあります。空室の間は家賃収入を得られず、維持管理のコストだけがかかるため、収益が不安定になるリスクを考慮しなければなりません。
また入居者が決まった後も、家賃の滞納や近隣住民とのトラブル、設備の破損、無断退去・無断転貸など、さまざまな問題が発生することを見越してリスクに備えることが重要です。こうしたトラブルを未然に防ぐために、入居者の審査を厳格に行い、不動産管理会社に対応を任せることも検討しましょう。
●住宅ローンを組んでいると貸し出せない可能性がある
住宅ローンを利用して購入した物件は、原則として第三者に貸し出すことはできません。住宅ローンはあくまで契約者本人やその家族が居住することを目的とした融資になります。
金融機関の許可を得ずに賃貸物件として貸し出すと、契約違反とみなされて、ローン残額の一括返済を求められ、さらには個人信用情報機関に異動情報が登録され、その後の金融取引にネガティブな影響が出ることもあります。
ただし、住宅ローンを利用しているからといって、絶対に貸し出しに応じてもらえないというわけではないため、まずは金融機関に事情を説明し、許可を得られるか確認してみましょう。
●税制優遇を受けられなくなる
家を貸すことで税制優遇が受けられなくなる点にも注意が必要です。
例えば住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、原則として自ら居住することが要件となっており、賃貸に出してしまうと控除の対象外となります。銀行から許可を得て住宅ローンを継続したまま家を貸すことができたとしても、住宅ローン控除の利用はできなくなります。
また、家を売却する際に適用される「3,000万円の特別控除」についても、適用条件が細かく定められており、賃貸に出していた場合はこの控除が使えない可能性があります。
ただし、「自分が所有者として住んでいた」物件を、「自分が住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までにその家屋を売るか、家屋とともにその敷地等を売る」というケースでは、その間に別の住宅を取得して居住していないなどのいくつかの条件はありますが、例外的に特例の適用が可能な場合もあります。
こうした税制の扱いは非常に複雑なため、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
■家を貸すために必要な6つのステップ

以下からは、実際に家を貸し出すまでに必要なステップを6段階に分け、それぞれ詳しく解説します。
●ステップ① 金融機関に相談する
住宅ローンを組んでいる場合は、まずは金融機関に相談してみましょう。
●ステップ② 貸し出し条件を明確にする
どのような条件で家を貸し出すのかを明確にしておきましょう。例えばペットの飼育は可能か、楽器の使用、入居可能な人数や契約期間、更新条件など、入居者に求める条件を細かく決めておくことで、未然にトラブルを防ぐことができます。また、敷金・礼金、共益費などの設定や退去時の原状回復に関する取り決めも重要です。
事前に条件を整理しておくことで、不動産会社との相談や契約の際にもスムーズに進められるでしょう。
●ステップ③ 賃貸物件としての想定収支を確認する(査定)
家を貸す際には、賃料収入と支出のバランスを正確に把握することが不可欠です。
まずは不動産会社に家賃査定を依頼し、客観的な相場を把握しましょう。この際、自分でもあらかじめ近隣の類似物件を調査しておき、相場感を把握しておくことが重要です。
収支シミュレーションでは、収入面だけでなく支出面にも注目する必要があります。月々の住宅ローンの返済額や突発的に発生する修繕費用、大規模なリフォームの可能性も含め、将来的な費用も想定しておきましょう。
●ステップ④ 賃貸管理会社に相談する
賃貸経営をスムーズに行うためには、自分の求める条件にあった管理会社を見つけることが重要です。まずは複数の管理会社を検討し、業務内容や管理範囲、口コミなどの評判を確認しましょう。
管理費用だけではなく、管理している物件の入居率が高い(空室率が低い)か、入居者募集が得意か、入居者トラブルなど起きた際に迅速な対応ができる体制が整っているか、大手と地元密着型のどちらが自分に合うかなど、複合的な観点から検討することが大切です。
・サービス内容を必ず確認する
・管理している物件の入居率を確認する
・入居者の募集が得意かを確認する
・迅速な対応ができるか確認する
・大手か地元の管理会社にするかを検討する
・口コミや評判を確認する
賃貸管理会社の費用相場や選び方、管理費用を抑える方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】賃貸管理手数料の相場は?サービス内容や管理会社の選び方を解説
●ステップ⑤ リフォームや清掃などの準備を行う
すぐに入居者を見つけるためには、家を貸し出す前にリフォームや清掃を行いましょう。築年数が経過している物件の場合、設備の劣化や内装の古さが入居希望者のネックになることがあります。特に水回りは清潔感が重視されるため、こまめなメンテナンスが必要です。
また、室内の清掃も清掃業者に依頼することで、印象が格段によくなります。内見時に好印象を与えることができれば、早期の入居決定にもつながるため、費用対効果を考慮しながらしっかりと準備を整えましょう。
●ステップ⑥ 入居者募集・契約手続き
物件の準備が整ったら、いよいよ入居者の募集と契約手続きに進みます。
募集開始後は内見の予約が入ることもあるため、柔軟にスケジュールを調整できるようにしましょう。内見後に、入居申込みが入り、審査を経て賃貸借契約の締結に進みます。契約書は基本的に不動産会社が作成するため、実際の入居者との契約前までにしっかりと内容を確認し、貸主としての責任や条件を明確に把握しておきましょう。
■家を貸す際に発生する費用や税金

最後に、家を貸し出す際に必要なコストについて解説します。
●初期費用:リフォーム・設備交換・広告費など
家を貸し出す前に、リフォーム費用や設備交換費用、広告費などの初期費用が必要になります。特にリフォーム費用・設備交換費用は、内容によっては数百万円単位の金額となることもあるため、事前に見積もりをとるようにしましょう。
広告費用は、どのような広告方法をどれくらいの期間行うかによって変動します。こちらも事前に不動産会社と相談し、どのようにして募集活動を行うか把握しておきましょう。
これらの初期費用は、物件の魅力を高め、早期の入居決定につなげるための投資なので、費用対効果を意識しながら適切に準備を進めましょう。
●管理費用:管理会社への手数料や修繕費など
入居者が決まった後も、月々の管理費用や突発的な修繕費用など、継続的に支出が発生します。
管理手数料の相場は家賃の3~5%程度で設定されており、家賃収入のなかから差し引かれる形となります。修繕費用は、特に前回交換から10年前後経過すると水回りやエアコン、給湯器などでトラブルが起きやすくなるため、あらかじめその分の費用を計画的に積み立てておいたり、保証サービスに入っておいたりするなどの対策が重要です。
さらに、退去後、次の入居者を検討する場合は、原状回復費用やハウスクリーニングなどの退去費用も考慮し、入居から退去までの収支を正確に把握・計算するようにしましょう。
●税金:所得税・住民税・固定資産税など
家を貸すことで得られる家賃収入には、所得税や住民税といった税金が課されます。また、賃貸中であっても物件はオーナーの所有物であり、固定資産税も継続して発生します。
家賃収入は、「不動産所得」の基となる収入であり課税対象となります。会社員など本業で給与所得を得ている場合でも、不動産所得が20万円を超える場合には、給与所得と合算して確定申告を行う必要があります。確定申告時には、必要経費として管理費や修繕費、固定資産税などを差し引くことができ、残った金額が利益として所得税の課税対象となります。
これらの税金は賃貸経営における大きなコストであり、計算や手続きを間違えると延滞税や追徴金などの罰を受ける可能性もあるため、必要に応じて税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
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