TOPPANホールディングス(HD)は凸版印刷の持ち株会社制への移行に伴い2023年10月に誕生し、間もなく1年半となる。印刷最大手として知られるが、事業範囲は印刷の枠を大きく超える。
こうした非印刷事業の成長を支えてきたのが他ならぬM&Aだ。先には米国企業を相手に、同社として過去最大となる買収が飛び出した。
米ソノコから軟包装事業などを買収
TOPPANHDは昨年12月、米国の大手包装メーカーのソノコ・プロダクツ(サウスダコタ州)から軟包装事業と熱成形容器事業を買収すると発表した。買収金額は18億ドル(約2713億円)。2005年に約710億円(当時)で米デュポンから半導体用フォトマスク事業を買収したのを上回り、TOPPANHDとして最大のM&A案件となる。
重点分野と位置付ける包装事業のグローバル展開の加速が狙い。ソノコから取得する両事業の売上高は約2100億円(2023年12月期)で、北米・南米に強固な顧客・製造基盤を築いている。買収完了は2025年4~6月を見込む。
食品や菓子、日用品(洗剤、シャンプーなど)に使われる軟包装材・熱成形容器をめぐっては再生利用可能でプラスチック使用量削減などにつながる環境配慮型パッケージの世界的な潮流となっており、今後、一層の需要拡大が見込まれる。
ソノコからの事業買収により、材料であるフィルムから、バリア加工(気体の通過を防ぐ機能の付加)、パッケージまで一貫して製造できる体制を世界で整うとしている。
インド、英国でも包装関連で買収を重ねる
実際、TOPPANHDは数年来、包装関連で精力的に買収を重ねてきた。2021年に米国インターフレックスグループ、22年に包装フィルム製造のインドMax SpecialityFilms(現TOPPAN Speciality Films)、23年に英国スカイマーク・パッケージング・インターナショナルを矢継ぎ早に傘下に収めた。また、チェコでは今年、新工場の稼働を控える。

フォトマスクが牽引するエレクトロニクス事業
TOPPANHDは持ち株会社として、傘下にTOPPAN(旧凸版印刷の主要部門)、TOPPANエッジ(旧トッパン・フォームズ)、TOPPANデジタルの3事業会社を配置している。
2024年3月期業績は売上高2.4%増の1兆6782億円、営業利益3.1%減の742億円。海外売上高比率は35%。足元の25年3月期は売上高2.5%増の1兆7200億円、営業利益18.5%増の880億円を見込む。
部門別の売上高構成(2024年3月期実績)をみると、情報コミュニケーション事業(デジタルビジネス、BPO、セキュアメディア、出版・商業印刷など)52.6%、生活・産業事業(包装、建装材)31.5%、エレクトロニクス事業(半導体・ディスプレー関連など)15.9%。
なかでも、エレクトロニクス事業は売上高構成が最も小さいが、営業利益では売上高の半分以上を占める情報コミュニケーション事業をしのぎ、全社の稼ぎ頭となっている。
牽引役が半導体ウエハーに回路を転写するためのフォトマスク(原板)。世界2位のシェアを持ち、高い競争力を持つ。
フォトマスク事業には1961年に参入した。1997年に台湾で現地生産を開始し、2005年に米デュポンから半導体用フォトマスク事業を買収。現在ではグループで世界に8工場を展開する。2022年にはフォトマスク事業の司令塔役を担うトッパンフォトマスク(2024年11月、テクセンドフォトマスクに社名変更)を設立した。
グローバルサウスで事業を推進
現行の中期経営計画(2023年4月~26年3月)で海外パッケージ事業、エレクトロニクス事業と並んで重点テーマに掲げるのがグローバルセキュア事業だ。
具体的には経済成長が続くアフリカや中東、中南米などのグローバルサウスに対象に、パスポートや運転免許証、社会保険証などの国民IDソリューションを基軸とするビジネス展開の加速を目指している。
2024年10月にはスウェーデンのセキュリティー企業AssaAbloyから国民ID事業の買収を発表した。同事業が強みとする南米、アフリカの営業拠点を取り込む。
アフリカではBPO事業の一環として今年1月、ルワンダのITオフショア企業ONGORUGOSEIを子会社化した。同社は首都キガリに本社を構え、日本企業向けに画像加工やAIアノテーション(タグ付け)、Web制作などを手がける。
これまで中国、アジアを受け皿とするオフショア事業が活発化してきたが、各国の経済成長や円安などで人件費が上昇し、次のオフショア事業の展開先としてアフリカが有力視されており、先手を打った形だ。
中計最終年度、成長投資枠の上積みは
中期計画では3年間で成長投資枠として4500億円を設定する。このうちM&A・アライアンス(資本提携など)に1000億円強を配分する方針だったが、ソノコからの事業買収が2700億円規模となったことから、4月の中計最終年度入りを控え、投資枠の組み替えや積み増しが避けられない情勢にある。
◎TOPPANホールディングス:主な沿革
年 出来事 2000 凸版印刷創立100周年 2004 JTから印刷事業子会社3社 2005 半導体用フォトマスク製造の米デュポンフォトマスクを子会社化 2006 ギリシャ政府と身分証明書発行システム供給契約を締結 2007 図書印刷(現TOPPANクロレ)を子会社化 2008 シンガポール印刷大手のSNP(現TOPPAN Next)を子会社化 2015 台湾の液晶カラーフィルター製造子会社「台湾凸版国際彩光」を現地社に売却 2016 中国の書籍印刷子会社TOPPAN Leefung Printingを現地社に売却 2017 液晶パネル製造の台湾「凌巨科技」を子会社化 2018 段ボール製造子会社のトッパンコンテナーをレンゴーに売却 2019 ドイツの建装材メーカーのINTER PRINTを子会社化 2021 米国の包装大手Inter Flex Groupを子会社化 〃デジタルピッキングシステム国内最大手のアイオイ・システムを子会社化
2022インドのフィルムメーカー、Max Speciality Filmsを子会社化 〃 半導体用フォトマスク事業を分社し、トッパンフォトマスク(現テクセンドフォトマスク)を設立 2023 トッパン・フォームズと凸版印刷のセキュア事業を統合し、TOPPANエッジを設立 〃英国包装メーカーのスカイマーク・パッケージングを子会社化 〃 持ち株会社制に移行し、TOPPANホールディングスを発足 〃 TOPPANデジタルを設立 2024 ベルギーのITサービス企業Selinkoを子会社化 〃シンガポールの物流ソフト会社KEYFIELDSを子会社化 〃 スウェーデンのAssaAbloyから政府系IDソリューション部門の取得を発表 〃 米国の包装大手ソノコ・プロダクツから軟包装事業などの取得を発表 2025 台湾の液晶パネル製造子会社「凌巨科技」を現地社に売却 〃 ルワンダのITオフショア企業JONGORUGOSEIを子会社化文:M&A Online
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