トナミホールディングス(HD)<9070>は今年創業80周年を迎え、北陸最大の物流会社として不動のポジションを築いている。富山県高岡市を本拠とし、主力事業の路線トラックの輸送網は全国に広がる。
戦時下、「礪波運輸」として発足
トナミHDは戦時統制下の1943(昭和18)年に「礪波運輸」として富山県礪波市に誕生した。陸上輸送を国家管理とする陸運統制令第二次統合に基づき、県内11運輸業者が合同した。初代社長は綿貫佐民氏(創業者)で、戦後、衆院議員を務めた。佐民氏の長男が綿貫民輔・元衆院議長。民輔氏自身も3代目社長として社業に従事した。
1951年に富山~大阪間の定期路線運行を開始。1954年には富山~名古屋間、富山~東京間、大阪~東京間の定期運行に相次いで乗り出し、全国ネットワークの基礎を固めた。この間、1952年に本社を礪波市から高岡市に移転。「礪波運輸」から「トナミ運輸」に社名変更したのは1962年のことだ。
1970年代後半に倉庫業、航空貨物の取り扱いを開始した。1996年には日本運輸(現トナミ国際物流、横浜市)を子会社化し、港湾運送に進出した。
現在のトナミHDは2008年、持ち株会社制への移行に伴い発足した。グループ運営の司令塔の役割を担い、中核事業会社としてトナミ運輸を傘下に置く。

持ち株会社移行でM&Aが活発化
M&Aへの取り組みが見に見えて活発化し始めたのは2010年以降。持ち株会社体制のスタートが作用していると考えられる。
2010年にINPEX傘下の第一倉庫(名古屋市)を子会社化した。企業の物流業務を一括して請け負う3PL(サードパーティーロジスティクス)の拡大が目的。2013年に子会社化したシステム開発のシー・フォーカス(現トナミソリューションズ、京都市)は今日、グループにおける情報処理事業を牽引する。
初の海外買収もこの頃だ。2011年にタイのトラック輸送会社マハポーントランスポートを、13年に同じくタイの物流会社エイチアンドアールフォワーディングを子会社化した。
その後も、案件は比較的小粒ながら、コンスタントに買収を積み上げてきた。2016年には冷蔵倉庫業の中央冷蔵(広島市)を子会社化。常温・チルド・冷凍の3温度帯サービスの強化を狙いとした。
新型コロナ感染の影響が広がったのは2020年。
コロナ禍の逆風下、活発に推し進めてきたM&A戦略は一転、修正を迫られることになったのか。
◎トナミホールディングスの業績推移(単位は億円)
2020/3期 21/3期 22/3期 23/3期 24/3期予想 売上高 1381 1346 1353 1419 1500 営業利益 68 64 73 73 80 最終利益 41 46 51 53 58M&Aへのアクセルを加速
答えはノーだ。むしろコロナ禍を境に、M&Aにアクセルを踏み込んでいる。
2000年以降取り組んだ買収は合計7件で、途切れた年はない。2020年、21年各1件、22年2件、23年はここまで3件に上る。いずれもターゲットは地場の運送・倉庫会社だ。地域も各地に散らばる。
今年の顔ぶれをみると、7月にトラック運送業、ウインローダー(東京都東村山市。売上高8億9000万円)の株式を追加取得し、子会社化した。2014年に資本・業務提携し、ウインローダーの株式を約14%取得していたが、今回、持ち株比率を約75%に引き上げた。
10月初めには、丸嶋運送(奈良県天理市。売上高16億3000万円)、山一運輸倉庫(静岡県富士市。
丸嶋運送は中小ロット便を強みとし、関西と関東に配送網を持つ。一方、山一運輸倉庫は地元の富士市の主要産業である製紙関連の物流をメーンとする。
それ以前は、2020年に御幸倉庫(愛知県春日井市)、21年に高岡通運(富山県高岡市)、22年にサンライズトランスポート(岩手県一関市)を傘下に収めた。
トナミHDは商品の保管・配送を一括して請け負う物流受託(3PL)の拡大に力を入れており、倉庫業を併営する運送会社の買収が総じて目立つ。
次期中計で大型買収の出番は?
同社は現在、3カ年の中期経営計画「TONAMI New Plan2023」(2022年3月期~24年3月期)の最終年度にある。DX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上、物流サービスと輸送事業の連携強化などを中計の基本方針とする。
中計に掲げる2024年3月期の業績目標は売上高1600億円、営業利益80億円。これに対し、現時点の売上高予想は1500億円と計画を100億円下回る。営業利益は80億円と計画通りの着地を想定しており、業務効率化やコスト管理の強化が奏功する形だ。
ただ、売上高1500億円については前回の中期経営計画の最終年度(2021年3月期までの3カ年)で掲げていた目標と同じで、達成時期が3年遅れとなる。
複数の荷主の貨物をまとめて全国に運ぶ路線トラックの分野ではセイノーホールディングスを筆頭に、福山通運、トナミHD、名鉄運輸が4強を形成する。
国内総貨物量は人口減少や産業構造の変化などの影響を受け、減少に向かうことが予想されている。こうした中、トナミHDが「100年企業」に向け、持続安定的な成長基盤をどう確保していくのか。次期の新中計の期間中に、大型買収の出番も十分にありそうだ。
◎トナミHDの歩み
年 主な沿革と出来事 1943 戦時下、11運輸業者が合同で「礪波運輸」を富山県礪波市に設立 1952 本社を富山県高岡市に移転 1961 東証、大証の各2部上場(1984年に各1部上場) 1962 トナミ運輸に社名変更 1996 日本運輸(横浜市、現トナミ国際物流)を子会社化 2002 更生会社の京神倉庫(京都市)を子会社化 2005 中国・上海に事務所を設立 2007 阿南自動車(長野県諏訪市)を子会社化 2008 持ち株会社制へ移行し、トナミホールディングスに社名変更 2010 INPEX傘下の第一倉庫(現トナミ第一倉庫物流、名古屋市)を子会社化 2011 中国・大連に托納美国際貨運代理(大連)有限公司を全額出資で設立 〃 タイのトラック輸送会社マハポーントランスポートを子会社化 2013 タイの物流企業エイチアンドアールフォワーディングを子会社化 〃情報システム開発のシー・フォーカス(現トナミソリューションズ、京都市)を子会社化 2014 三菱マテリアル傘下の菱星物流(現関東トナミ運輸、埼玉県熊谷市)を子会社化 2016 中央冷蔵(広島市)を子会社化 〃 テイクワン(埼玉県川口市)を子会社化 2018 ケーワイケー(千葉県柏市)を子会社化 2020 新生倉庫(広島市)を子会社化 〃 御幸倉庫(愛知県春日井市)を子会社化 2021 高岡通運(富山県高岡市)を子会社化 2022 サンライズトランスポート(岩手県一関市)を子会社化 〃 東証プライム上場に移行 2023 7月、ウインローダー(東京都東村山市)を子会社化 〃 10月、丸嶋運送(奈良県天理市)を子会社化 〃 10月、山一運輸倉庫(静岡県富士市)を子会社化文:M&A Online