2024年の世界情勢を振り返る│M&A地政学

海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何がおき、そこにはどんなリスクがあるのか。

「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は2024年の世界情勢を振り返る。

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米大統領選を意識して動いた国際情勢

早くも2024年が終わろうとしている。今年も世界では様々な出来事があったが、国際政治や安全保障の視点から捉えれば、激しい戦闘や緊張が続き、結局のところ、罵倒し合うバイデン氏もトランプ氏も変わらないことが改めて分かった1年だったと筆者は思う。

ロシアによるウクライナ侵攻からもうすぐ3年となる。戦況は依然として一進一退のような状況が続き、ロシアは依然としてウクライナ東部やクリミア半島を占領している。ウクライナ軍がロシア軍の占領地域を奪還し、ウクライナ領土から追いやったり、反対にロシア軍が首都キーウを掌握したりするような圧倒的優勢をもたらす状況は双方に至っていない。

今年の初めから、2024年の最大の注目イベントは11月の米国大統領選挙であったことから、ウクライナもロシアもそれを強く意識して行動していたことは間違いない。

特に、トランプ氏はウクライナ支援を最優先で停止する、戦争を24時間以内に終わらせるなどと主張していたことから、ゼレンスキー大統領はトランプ勝利というシナリオを現実的に考え、支援の必要性をトランプ氏の前で伝えるなど、ウクライナの運命は2025年以降という意識で用意周到に外交を展開していたように映る。

中東では戦火が拡大し、台湾では政治的緊張が一段と高まった

中東では戦火が拡大した。2023年10月、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム主義勢力ハマスがイスラエルへ奇襲攻撃を仕掛けたことが発端となり、イスラエルはハマスの殲滅と人質の解放を目的とした強硬な軍事対応を開始した。

しかし、イスラエルによる攻撃によってこれまでに4万人以上が犠牲となり、国際的なイスラエル批判が拡大。レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など中東各地に点在する親イランのシーア派武装勢力が反イスラエル闘争をエスカレートさせ、特にレバノンではイスラエルとヒズボラの軍事的応酬が激化し、レバノンのガザ化が懸念された。

また、イスラエルがシリアやレバノン、イランなどでイラン革命防衛隊の幹部、ハマスやヒズボラの最高指導者を相次いで殺害したことで、イランは初の直接攻撃に踏み切り、4月と10月には弾道ミサイルやドローンなどがイスラエルに向けて発射された。

紛争の構図を整理し、イスラエルVSハマスをフェーズ1、イスラエルVS親イラン勢力をフェーズ2、イスラエルVSイランをフェーズ3とすれば、2024年末までに中東の紛争構図はフェーズ2.5にまで進んだと評価できよう。

台湾を巡っては物理的な衝突になっていないものの、政治的緊張はむしろ高まっている。台湾では今年1月に新総統を選ぶ選挙が実施され、蔡英文政権で副総統を勤めた頼清徳氏が勝利した。

頼氏は蔡氏の政策を継承して5月に正式に総統へ就任したが、台湾と中国は隷属しないなどと中国を刺激するような発言を繰り返したことから、中国は台湾本土を取り囲むような軍事演習を今日までに2回実施するなど、中台関係は頼政権下でさらに緊張が高まっているようにも映る。

バイデン大統領もトランプ氏も外交政策上は実質同じ

一方、2024年はバイデン政権にとって最後の年となったが、これまで罵倒し合ってきたバイデン氏もトランプ氏も決して変わらないことが分かった1年だった。

バイデン氏はトランプ氏の主張や政策を批判し続け、ウクライナや台湾への軍事支援を積極的に進め、自由や民主主義といった価値や理念の重要性を強調してきたが、それ以上のことはしなかった。戦闘が続くウクライナや中東において、米国はウクライナやイスラエルを支援するものの、戦闘の一時停止や終戦などに向けてグローバルなリーダーシップを発揮することはなかった。

それどころか、”世界の警察官”からの撤退というオバマ宣言を継承するバイデン氏は、ウクライナや中東の問題で過度に介入すればそこから抜け出せなくなり、対中国で影響が出てくることを警戒し、非介入主義に徹している。

そして、対中国では新疆ウイグルにおける人権問題、先端半導体の軍事転用防止という観点から、中国に対する貿易規制を強化していき、この姿勢は2024年末でも貫かれている。

こういった非介入主義、対中強硬姿勢というものがバイデン政権で鮮明となったが、これはトランプ氏と異なるものではない。無論、どこまで支援をするか、どういった貿易規制を実施するかなどミクロなところで違いはあるものの、結局のところバイデン政権の4年間を振り返ると、バイデン氏とトランプ氏では多くの共通点が見えたのも今年の注目ポイントと言えるだろう。

文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹

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