
旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が資本金を現在の247億円から1億円に減らすと発表した。実は、こうした「減資」は大手企業でも珍しくない。
上場企業も税務上「中小企業」に
資本金は株主が会社に出資した金額のことで、事業運営の元手となる。かつては最低資本金制度があり、株式会社は1000万円の資本金がないと設立できなかったが、2006年以降は1円でも可能となっている。
とはいえ、資本金の多寡は企業の評価指標の一つとして、その額が大きいほど、安心できる取引先とみなされる傾向があるのは否めない。
そんな中、名だたる大手企業までがあえて資本金を1億円に減らすのだ。どんな利点があるのだろう。
資本金を1億円以下にすると、上場企業であっても税務上、「中小企業」の扱いとなり、各種の優遇措置を受けられる。例えば、法人税の軽減税率が適用されるほか、法人事業税では赤字でも納付の必要がある外形標準課税が減免される。
もう一つは、減資の本来的なメリットが挙げられる。欠損金の解消につなげることができるのだ。
HIS、減資で欠損補填
今回、大規模な減資を発表したHISの繰越利益剰余金は4月末で44億1100万円のマイナス(欠損)状態。同社は減資の目的について、欠損を補填し、財務体質の健全化を図るとともに、資本政策の柔軟性と機動性を確保し、税負担の軽減につなげるとしている。
HISはコロナ禍に伴う海外旅行需要の激減で大幅な業績悪化に見舞われ、足元の2022年10月期まで3期連続の最終赤字となる公算が大きい。
今年に入って減資額が最も大きかったのは料理宅配サービスの出前館で、1月に資本金を550億円減らして1億円とした。税負担の軽減を主な目的としている。
コロナ禍の影響が大きい外食ではフグ料理「玄品」を展開する関門海、そば「そじ坊」や、うどん「杵屋」のグルメ杵屋が8月31日をもってそれぞれ1億円に減資する。11月にはペッパーフードサービスも同様の減資を予定している。いずれのケースも欠損補填が狙いだ。
ビジネスホテルを運営するワシントンホテル、注文紳士服の銀座山形屋は8月初めに1億円に減資手続きを終えたが、こちらも繰越利益剰余金の欠損補填を目的とする。
シャープが批判を浴びたことも
減資で思い出されるのは2015年のシャープの一件。当時、同社の資本金は1218億円。経営再建に伴い1億円への減資を打ち出したものの、大手企業が「中小企業」を装うことによる税負担逃れとの批判を浴び、5億円の減資にとどめた経緯がある。
コロナ禍の中、2021年には旅行大手のJTB、回転ずし「かっぱ寿司」のカッパ・クリエイト、航空会社のスカイマークなどが1億円への減資に踏み切った。
◎2022年:減資した主な企業
社名 減資前 減資後 時期 出前館 551億円 1億円 1月 タカキュー 20億円 1億円 7月 ロコンド 13.3億円 5000万円 〃 ワシントンホテル13.4億円1億円8月銀座山形屋27.2億円1億円〃 海帆 14億円 5000万円 〃 グルメ杵屋 57.3億円 1億円 〃 関門海11.7億円1億円〃 エイチ・アイ・エス 247億円 1億円 10月予定 ペッパーフードサービス 47.7億円 1億円 11月予定文:M&A Online編集部