
中堅物流会社の丸全昭和運輸<9068>は、港湾運送の国際埠頭を子会社化した2019年以降、遠のいていたM&Aに力を入れる。
物流業界は2024年問題(トラックドライバーの時間外労働時間の上限規制)に起因するドライバー不足をはじめ、トラックの多重下請け構造(元請け企業が対応できない業務が二次請け企業、さらにその下層の企業に流れていく構造)に対する規制や、倉庫建設費の上昇などの課題を抱えており、こうした課題を解決して成長するための一つの方策としてM&Aを選択した。
M&Aの対象として、物流企業をはじめメンテナンス企業などを検討しており、今後3年間(2026年3月期~2028年3月期)で、これら企業の買収に100億円を投じる。
M&Aのほかにも3PL(サードパーティー・ロジスティクス=荷主企業の物流業務を代行する事業)事業の強化や、自社車両の増加、国内外物流拠点の拡充などを進め、こうした取り組みで2028年3月期に1760億円(2025年3月期は1440億円の見込み)の売り上げを目指す方針だ。
M&Aに向け高まる意欲
丸全昭和運輸がM&Aの対象としているのは、過去にも実績のある他社の物流子会社や、新規事業につながる企業、3PLにつながる企業、設備のメンテナンスに強みを持つ企業など。
同社は過去3年間(2023年3月期~2025年3月期)もM&Aに100億円を投じる計画を策定していたが、この期間のM&Aの対象は国内企業とするだけだった。
これが今後3年間については、具体的な企業像を示しており、M&Aに対する意欲が強まっているとみることができそうだ。
5年間実績のないM&A
同社は1931年に丸全昭和組を創立し、京浜工業地帯の製鉄会社や化学会社の工場資材、原料、製品の荷造り、運搬などを始めた。
2002年に昭和電工(現レゾナック)の子会社である昭和物流と昭和アルミサービスの株式を取得し、グループ会社化するなどで業容を拡大してきた。
2010年以降に適時開示したM&Aは2件で、3PL事業やグローバル物流事業の拡大を狙いに、2015年に日本電産(現ニデック)の物流子会社である日本電産ロジステック(現丸全電産ロジステック)を子会社化。
さらに、物流拠点の強化と物流サービスの拡大を狙いに、2019年に持ち分法適用関連会社で港湾運送事業を手がける国際埠頭を子会社化した。
もともと国際埠頭は1966年に丸全昭和が設立した企業だったが、複数の企業から出資を得て持ち分法適用関連会社となっていた。これ以降丸全昭和運輸によるM&Aに関する適時開示情報はなく、ここ5年間はM&Aから離れていた。
ビジネスモデルを情報活用型へ
物流業界は2024年問題に伴うドライバー不足が進行しており、国土交通省では、何も対策を講じなければ、2030年度には34%の輸送力不足の可能性があるとしている。
これに対応する形で、2022年ごろからM&Aを活用するケースが増えており、2022年から2024年までの3年間は、それまで20件台だった物流業界のM&Aに関する適時開示件数が40件台(M&A Online調べ)に上がっている。
同社がM&Aの対象としている他社の物流子会社と3PLにつながる企業については、ドライバーの確保につながるとともに、M&A以外の取り組み目標として掲げている3PL事業の強化や国内物流拠点の拡充にも貢献することになる。
このほかに、今後の成長が予想される産業機械や半導体材料、蓄電池、電子部品などの分野と、差別化を進めている危険物や農産物の分野を中心に事業を拡大するとともに、海外パートナーと連携し、荷主の海外物流のニーズを捉えた提案で売り上げの拡大を目指すとしている。
また丸全昭和運輸ではDX(デジタル技術で生活やビジネスを変革する取り組み)化を進めることで、ビジネスモデルを、これまでの労働活用型、装置活用型から情報活用型へ転換する構造改革にも取り組む計画だ。
こうした取り組みの中で、M&Aが絡む場面は少なくなさそうだ。

文:M&A Online記者 松本亮一
【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック