
2019年6月25日、三菱重工業<7011>はカナダのボンバルディア社のCRJ(カナダエア・リージョナル・ジェット)事業の取得に関する契約を締結したことを発表しました。
この契約により三菱重工はCRJの保守、カスタマーサポート、マーケティング、販売などに関連する機能を有することになります。
今回は、事業取得におけるスキームや金額規模に焦点をあてて概要を確認したいと思います。
航空機のほか鉄道システムも提供するリーディングカンパニー
ボンバルディア社はカナダのトロント証券取引所(BBD)に上場している輸送機器業界における有力企業です。6万8000人以上の従業員を擁し、航空機だけでなく、鉄道システムに関する製品やサービスも提供しています。直近の2018年12月期には162億ドルの収益を計上しています。
三菱重工が6月25日付で公表した「ボンバルディア社一部事業の取得に関するお知らせ」では、CRJ事業の譲渡契約を「締結することを決議いたしました」という文言になっていますが、契約の締結自体も同日付でなされています。
東証における適時開示のルールでは「決定事実」「発生事実」「決算情報」など投資判断に重要な影響を与える会社情報を開示することになっています。そのため、取締役会決議があった時点で「決定事実」を適時開示しているものといえます。
CRJ事業の取得金額はいくら?
今回の取引はボンバルディア社の商業航空機事業の中でもCRJシリーズを対象とするものであり、事業譲渡という形態をとっています。取得対価は現金で約5億5000万ドル(約590 億円)となっています。
一般に、譲渡対象となる事業には資産だけでなく、負債も含まれます。今回の事業譲渡においても三菱重工は約2億ドルの債務を引き受けることになっているため、上記の取得対価にはこうした債務引受による負担増が加味されています。
また、三菱重工は1億8000万ドルと評価される「CRJ保有信託プログラム」(RASPRO, Regional Aircraft Securitization Program)の受益権を引き継ぐこととされています。同プログラムは、顧客に長期リースを提供することでCRJなどの販売を促進するために設立されたファイナンス・ストラクチャーとのことです。
最終的な取得価額は契約の条件に従って確定
取得対価の決済時期は譲渡完了日とされています。今後、譲渡が完了するまでには、対米外国投資委員会や各国の独占禁止法当局の審査をクリアするとともに種々のクロージング条件を充足する必要があります。譲渡完了は2019年末から2020年上半期と予想されています。
三菱重工は2019年3月期第1四半期からIFRS(国際財務報告基準)を任意適用しています。そのため、今回の事業取得はIFRS第3号「企業結合」にもとづき会計処理される見込みです。
具体的には、譲渡契約に記載された財務数値などの条件により最終的な取得価額が確定するとともに、取得資産および引受負債の公正価値が算定されることにより、のれんの額が測定されます。こうして測定されたのれんは関連する資金生成単位へと配分されるのが原則です。
仮に2019年末に事業譲渡が完了した場合、通常のスケジュールであれば2020年2月頃に発表されるであろう2020年3月期第3四半期の決算短信において、関連する会計処理が垣間見られるかもしれません。
事業譲渡の対象から製造部門は除外
今回の事業譲渡ではCRJの製造部門は対象となっていません。カナダのケベック州にあるCRJ製造拠点もボンバルディア社に残り、現段階で受注残となっている機体は三菱重工からの委託という形で製造される模様です。また、CRJの生産自体も受注残の納入後となる2020年後半に終了することがアナウンスされています。
「MRJ(三菱リージョナルジェット)」から名称も刷新された「三菱スペースジェット」事業において、今回の取引により強化されるメンテナンスやアフターサービスなどの拠点網が生かされることを期待したいと思います。
文:北川ワタル