タカラバイオ、米ベンチャー買収 売上6億の企業に最大300億円投じる狙いとは

「タカラcanチューハイ」「松竹梅」などのアルコール飲料を手がける宝ホールディングス<2531>傘下で、バイオテクノロジー事業を展開するタカラバイオ<4974>が企業買収に踏み切った。

遺伝子がどの細胞で発現しているのかを把握できる空間解析用の試薬を開発する米国のバイオベンチャーCurio Bioscience(カリフォルニア州)がそれで、買収金額はおよそ63億円(4050万ドル)。

加えて開発の成果に応じて最大約235億円(1億5000万ドル)を支払うという。

Curio Bioscienceの2023年12月期の売上高は6億5300万円、営業損益は9億500万円の赤字だった。

この企業に最大300億円ほどを投じるわけで、期待の大きさがうかがえる。タカラバイオの戦略とはどのようなものだろうか。

5年後に売上高50億円に

Curio Bioscienceは起業家やエンジニア、科学者らが集まって、2021年1月設立したばかりの企業。

直径約10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)ほどの球体に、特殊な塩基配列を持ったDNA(デオキシリボ核酸)を結合させた「DNAバーコードビーズ」を用いた空間解析を可能とする試薬を販売している。

空間解析は遺伝子が組織中のどの細胞で発現していたかという位置情報を解析する技術で、特定の遺伝子が発現している細胞の組織内での位置情報やその相互作用を可視化することで、がん研究や再生医療、遺伝病の治療法開発などでの応用が見込まれている。

遺伝子の解析は、組織や血液など複数の細胞から得られたRNA(リボ核酸)をまとめて解析する手法である「バルク解析」から、一つの細胞レベルでゲノム(全遺伝情報)解析やRNA解析を行う「シングルセル解析」に進んでおり、さらに最近は急速に空間解析に向かっているという。

タカラバイオでは、2017 年にシングルセル解析装置を発売したのに続き、2023 年には空間解析の受託解析サービスを始めており、今回Curio Bioscienceの先進的な空間解析技術を取り込むことで、バルク解析、シングルセル解析に加え、空間解析までの幅広い需要に応える体制を整えることができるようになる。

今後、Curio Bioscienceの製品を世界中で販売するほか、日本国内では同製品の販売とともに、これら製品を活用した空間解析受託サービスなども行う。さらに、Curio Bioscienceとタカラバイオの製品を組み合わせることによる新たな製品の開発や競合製品との差別化などに取り組み、5年後には関連試薬の売上高50億円を目指す計画だ。

2010年以降5件の買収を実施

タカラバイオは2016年に、次世代型の塩基配列解析装置用試薬キットの分野で幅広い製品やサービスを提供するのを狙いに、米国の超微量核酸サンプル解析技術を持つRubicon Genomics, Inc.(ミシガン州)を子会社化した。

今回の企業買収はこれに次ぐもので、同社が適時開示した企業や事業の買収としては、2010年に医薬品開発企業であるエムズサイエンス(神戸市)から抗がん剤事業を取得して以来5件目となる。

売却の事例としては2018年に、経営資源の選択と集中を理由に、キノコ事業を雪国まいたけ<1375>に譲渡した1件がある。

2025年3月期は売上高489億円(前年度比12.4%増)、営業利益50億円(同66.5%増)を見込む。新型コロナウイルス感染症の検査関連製品の販売減少や海外の研究市場の低迷などにより、減収営業減益となった前年度から増収営業増益に転じる。

事業戦略としてライフサイエンス産業のインフラを担うグローバル・プラットフォーマー(商品などの提供者と利用者をつなぐ基盤運営者)としての地位の確立を掲げており、次のM&Aもバイオ関連企業の買収となる可能性は高そうだ。

タカラバイオ、米ベンチャー買収 売上6億の企業に最大300億円投じる狙いとは
タカラバイオの主なM&A

文:M&A Online記者 松本亮一

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