頂点を極めた「100円ショップ」の時代が終わる?

長期化するコロナ禍もなんのその!「100均」で親しまれている100円ショップ業界の快進撃が止まらない。市場規模は1兆円に迫り、大手4社(ダイソー、セリア、キャンドゥ、ワッツ)の出店数はコロナ前から800店も増え、1人当たりの購買額は推計で月600円と、10年間で1.6倍に伸びている。

しかし、どの業界もそうだが、絶好調の裏には「失速」の芽が出ている。

店舗数は1万店、1兆円市場に手が届く100均

帝国データバンクの調査によると、大手4社の店舗数はコロナ前の 2019年度末時点で 7687店だったのに対し、2022年2月末時点では6.4%増の約8400店に増加した。各社とも年間100店舗を超える出店攻勢に衰えは見えず、2025年度にも1万店を突破する勢いだ。

国内100円ショップ市場の2021年度総売上高は前年度比5.8%増の9500億円となり、1兆円市場に「王手」をかけた。店舗数の増加により売り上げの積み上げ効果もあるが、同時に独自開発の高機能商品など付加価値を高めた 100 円を超える価格帯の商品導入が進み、客単価を引き上げた要因も大きい。

まさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」の100円ショップ業界だが、絶好調ゆえの中・長期的な不安要素も見えてきた。一つは出店数の増加に伴う過当競争だ。例えばコンビニエンスストア(コンビニ)業界では2022年1月の総店舗数が5万6936店舗と、前年同月比-0.02%と減少に転じた。店舗数でいえば12件の減少で「誤差の範囲」と言えるが、上昇局面でないことは確かだ。

100円ショップ業界が届きそうな「1万店舗」は、かつての郵便局数で、業界が全国津々浦々まで行き渡ったことを示す一種の「飽和指数」とされる。同時に「1兆円市場」も、わが国の産業界では成長期から安定期に入ったことを示す指標とされる(逆に1兆円の大台を割ると、業界が衰退期に入ったとみなされる)。つまり100円ショップの成長が、曲がり角を迎えつつあるということだ。

100円商品の減少と過当競争が大きな懸念

売上増に貢献している高額商品も「高付加価値戦略」と言うよりは、100円ショップ向けに安価な商品を大量生産していた中国の人件費高騰と円安によるコスト高騰に対応するための「背に腹は代えられない」対策だった一面もある。

「300円ショップ」や「500円ショップ」は、「100円ショップ」とは別の業界と位置づけられていたが、今やその境界は曖昧(あいまい)になってきた。円安や中国での人件費高騰は止まりそうになく、今後は100円ショップでも高額商品の割合が増えるとみられる。

高額商品にはワイヤレスイヤホンやホットサンドメーカーなど、他社製品に比べると格安な1000円商品も。一方で、従来は100円だった商品が200円以上に値上げされているケースも増えている。100円ショップユーザーは、日用の消耗品を買い求めるケースが多い。こうした商品が値上げされると、客離れのリスクが高まる。

100円ショップは店舗増による競争激化で値上げが厳しい状況にあり、客離れリスクを懸念して利益を減らしてでも100円商品を維持せざるを得ないケースも十分想定できる。そうなれば経営不振からチェーン店の撤退や独立系小規模店舗の廃業が相次ぐ可能性も高い。

いずれにせよ、100円均一で勝負する「100円ショップ」は縮小していくことになりそうだ。所得が伸び悩む中、庶民の強い味方だった「100均」だけに、国民生活に及ぼす影響は決して小さくない。

文:M&A Online編集部

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