
TOB(株式公開買い付け)が最速で増加中だ。2025年は4カ月あまりで50件(届け出ベース)に到達し、前年よりも3カ月ペースが速い。
NTTデータTOB、歴代2位のスケール
今年のTOBが50件に達したのは5月9日(TOB一覧)。この日、芝浦電子、NTTデータグループ、三菱食品に対する3件のTOB開始についての届出書が関東財務局に提出された。週明け12日には51件目としてIMAGICA GROUPの非公開化に向けたMBO(経営陣による買収)関連のTOBがスタートした。
センサーメーカーの芝浦電子にTOBを始めたのは台湾電子部品大手のヤゲオで、同意なき買収に乗り出した。芝浦電子をめぐっては精密部品メーカーのミネベアミツミによるTOBが5月2日から始まっており、争奪戦の様相を呈する。
NTTはNTTデータグループ、三菱商事は三菱食品をTOBで完全子会社化し、親子上場を解消する。意思決定の迅速化や資本効率の改善などが狙い。
NTTは2兆3700億円を投じる予定で、国内TOB案件として歴代2位の規模となる。歴代トップもNTTで、2020年、NTTドコモを総額約4兆2500億円で完全子会社化した。

51件中、22社がスタンダード上場
ここまで51件(芝浦電子は2件とカウント)の対象会社を市場区分別にみると、東証スタンダードが22社と最も多く、東証プライム17社、東証グロース7社、名証3社、上場リート(不動産投資信託)2社で続く。前年も年間100件のTOB中、スタンダードが47社と半数近くを占めた。目的別では親子上場解消が7件、MBOが8件。
同意なき買収案件では工作機械大手の牧野フライス製作所を標的としたモーター大手のニデックによる2500億円規模のTOBが注目された。買収防衛策で応戦の構えを見せた牧野フライスとの攻防が続いたが、ニデックが実施中だったTOBを突如撤回し、ひとまず幕引きとなった。
東証の上場会社数はプライム1631社、スタンダード1575社、グロース617社(5月12日時点)。プライム、スタンダードの上場数はさほどの開きはないが、スタンダードの場合、中堅クラスの企業が主体で、上場基準への適合や上場維持のためのコストなど業務負担が相対的に大きいとされる。このため、同業大手の傘下に入ったり、MBOで非公開化したりするケースが目立つ。
「上場基準」未達企業でTOB増加傾向
ここへきて顕在化しているのが「上場基準」未達による上場廃止を避ける動き。今年の51件のうち、上場廃止のおそれをTOB受け入れの理由にあげたケースは少なくとも6件あり、全体の1割以上にあたる。
東証の市場区分見直しから3年となる2025年3月以降、上場維持基準を満たしていなくとも上場が認められる経過措置が順次終了しているためだ。改善期間(通常1年)内に基準に適合しない場合、監理・整理銘柄(原則6カ月)に指定後、上場廃止となる。
スタンダード上場でガソリンスタンド経営などのサンオータスは今年、MBOで株式を非公開化した。その理由の一つは流通株式時価総額(10億円以上)を満たしていないことだった。
また、ITコンサルティング・システム開発のテクノスジャパンは国内投資ファンドのアント・キャピタル・パートナーズ(東京都千代田区)のTOBを受け入れた。テクノスジャパンは元々、プライム上場だったが、流通株式時価総額が95億円(2023年3月末)で、基準である100億円以上を下回っていた。
そこで2023年10月にスタンダードに移り、上場維持基準未達のリスクを回避した。しかし、中長期的に企業価値を向上させるには非公開化して経営体制を再構築する必要があると判断した。
◎東証:上場維持基準(カッコ内は市場別の上場数、5月12日時点)
市場区分プライムスタンダードグロース(1631社)(1575社)(617社)株主数
800人以上
400人以上
150人以上
流通株式数
2万単位以上
2000単位以上
1000単位以上
流通株式時価総額
100億円以上
10億円以上
5億円以上
流通株式比率
35%以上
25%以上
25%以上
2020年を境に復調、ついに100件の大台
TOB件数はリーマンショック前年の2007年に過去最多の104件を記録し、08年78件、09年79件と高水準が続いたが、2010年代は概ね40~50件で推移。復調したのはコロナ禍初年の2020年で、60件を数えた。21年70件、22年54件、23年74件、そして24年は一気に100件ちょうどと17年ぶりに100件の大台に乗せた。
文:M&A Online
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