
細川家伝来の文化財を保存公開している永青文庫では、2025年4月26日(土)より、『くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻「領内名勝図巻」―』展を開催する。熊本県指定重要文化財《領内名勝図巻》に描かれた熊本の絶景を、旅人になった気分で楽しもうという展覧会だ。
《領内名勝図巻》とは、熊本藩のお抱え絵師・矢野良勝(やのよしかつ/1760~1821)と衛藤良行(えとうよしゆき/1761~1823)が、主に熊本領内の滝や名所、川沿いの風景などの絶景を、全15巻にわたって描いた写生図巻。通常、巻物の縦幅は30センチほどが一般的だが、同作は約60センチあり、1巻の平均の長さは約28メートル、全巻を合計すると400メートルにも及ぶ。これほどまでに長大な作品は他に例がないことから、日本最長の画巻とみられる。大作ゆえに展示の機会があまりない作品だが、同展では、現存14巻のうち7巻を展示する。
本作を描かせたのは、絵画収集のみならず自らも絵筆をふるった絵画好きの8代藩主・細川斉茲(ほそかわなりしげ/1759~1835)。風景を愛好する大名たちのサロンで披露するために制作させたと考えられる。

《細川斉茲像》(部分) 江戸時代(19世紀) 永青文庫蔵
熊本の圧巻の大自然の中でもとりわけ滝の描写が多く、制作当時は《御国中瀧之画》と呼ばれていたほど。流れ落ちる滝の音が聞こえてくるような迫力ある描写が見どころだ。矢野良勝と衛藤良行は、これらの名所や絶景ポイントを実際に訪れ、現地を取材した上で同作を描いた。こうした実景図は谷文晁が松平定信の伊豆・相模沿岸における巡見に随行して制作した《公余探勝図》(寛政5年<1793>3~4月、重要文化財、東京国立博物館蔵)が知られるが、《領内名勝図巻》はそれより早く完成しており、写生図巻の先駆的作例として貴重である。現地写真とともに展示されるので、現在の景観を見比べながら楽しみたい。

熊本県指定重要文化財 矢野良勝《領内名勝図巻 阿蘇郡北里之内 杖立川路越之図》(部分) 寛政5年(1793) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)
同展では《領内名勝図巻》のほか、絵画好きだった斉茲の自筆と伝わる《猫図》、谷文晁や杉谷行直ら同時代の絵師の作品も紹介する。
<開催概要>
初夏展『くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻「領内名勝図巻」―』
会期:2025年4月26日(土)~6月22日(日)
会場:永青文庫
時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日:月曜(5月5日は開館)、5月7日(水)
料金:一般1,000円、70歳以上800円、大高500円
公式サイト:
https://www.eiseibunko.com/