
2025年2月13日、新国立劇場が2025/2026シーズン舞踊ラインアップ説明会を実施、舞踊芸術監督の吉田都が登壇し、来シーズンの上演作品を紹介するとともに、今後の展望、意欲を述べた。
2020年9月の新国立劇場舞踊芸術監督就任以来、新たなレパートリーの構築、環境の整備、ダンサーたちのレベルアップなどに意欲的に取り組んできた吉田。
この日発表されたラインアップの詳細は以下の通り。
新国立劇場バレエ団『シンデレラ』
2025年10月17日(金) ~26日(日) オペラパレス 12回公演
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

『シンデレラ』より(撮影:瀬戸秀美)
新国立劇場の代表的レパートリーのひとつとして上演を重ねている作品。「前回(2022年4月~5月)のリハーサルはZoomで行いましたが、それでもいいところまでもっていけた。新しいメンバーにもアシュトン作品を経験してもらいたい」と吉田。華やかなオープニングとなるだろう。
伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』(日本初演)
日本初演、2025年12月5日(金) ~7日(日) 小劇場 4回公演
演出・振付・テキスト:伊藤郁女
振付協力:ガブリエル・ウォン
造形美術協力:エアハルト・スティーフェル オロール・ティブー
音楽:ジョセフ・カンボン
出演:伊藤郁女

伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』より (C)Laurent Paillier
2023年1月よりストラスブール・グランテスト国立演劇センター「TJP」のディレクターを務める伊藤郁女が、新国立劇場に初登場。2018年にマルセイユのKLAP Maison pour la danseにて初演された本作は、彼女の自伝的な3部作の最後の作品として発表されたソロで、舞台上で彼女はロボットになり、人間としての振る舞いを一から学びなおすことで、人間とは何かを問い、今を生きるために模索する。
新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』(新制作)
新制作、2025年12月19日(金) ~2026年1月4日(日)
オペラパレス 18回公演
振付:ウィル・タケット(レフ・イワーノフ原振付による)
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
美術・衣裳:コリン・リッチモンド

『くるみ割り人形』コリン・リッチモンドによる美術模型
クリスマスシーズンから年始にかけての上演が定着した新国立劇場の『くるみ割り人形』。2024/2025シーズンの『くるみ割り人形』の観客動員数は2万7,000人を超えたというが、来シーズンは、2年前に『マクベス』を創作した振付家ウィル・タケット、美術・衣裳のコリン・リッチモンドらによる新プロダクションが誕生する。すでに装置、衣裳デザインなどが進んでいるが、「ウィルさんには、家族皆で楽しめる、明るくカラフルなものにしてくださいとお願いしています」と吉田。「いいものを作り、長年親しまれる作品にしていきたい」と意気込んだ。
新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ 2026」
2026年2月6日(金) ~8日(日) オペラパレス 4回公演
フランス語で「宝石箱」を意味するコフレをタイトルに据え、20世紀の珠玉の3作品を集めて上演。『A Million Kisses to my Skin』は英国の振付家、デヴィッド・ドウソンによる2000年の作品。新国立劇場では2023年1月に上演、「デヴィッドさんに直接ご指導いただきましたが、振付家に直接教わることが、どれだけダンサーたちの成長につながるか実感した」(吉田)。ハンス・ファン・マーネンの代表作のひとつ『ファイヴ・タンゴ』は、世界各地で上演されている人気作。当初は2021年に上演予定だったが、コロナ禍でキャンセル、4年ぶりとなる待望の再チャレンジとなる。『テーマとヴァリエーション』は、アメリカ・バレエの父、バランシンが1947年にニューヨークで発表した作品。チャイコフスキーの管弦楽組曲第3番の第4楽章「主題と変奏曲」にのせて、古典バレエの美しさにあふれた踊りが次々と繰り広げられるさまは壮観だ。
『A Million Kisses to my Skin』
振付:デヴィッド・ドウソン
音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ

『A Million Kisses to my Skin』より(撮影:鹿摩隆司)
『ファイヴ・タンゴ』(新制作)
振付:ハンス・ファン・マーネン
音楽:アストル・ピアソラ
『テーマとヴァリエーション』
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

『テーマとヴァリエーション』Theme and Variations, Choreography by George Balanchine, (C) The George Balanchine Trust.(撮影:鹿摩隆司)
新国立劇場バレエ団『マノン』
2026年3月19日(金) ~22日(日) オペラパレス 6回公演
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ

『マノン』より(撮影:瀬戸秀美)
英国バレエの巨匠、マクミランによる物語バレエの傑作。新国立劇場では2003年、2012年に上演し、コロナ禍の2020年2月に三度目の上演に取り組むも、一部の公演が中止に。「衣裳や装置はなかなか貸し出してもらえないものですが、今回はロイヤル・オペラハウス(英国ロイヤル・バレエ&オペラ)のプロダクションをお借りできることになり、とても嬉しく思います」(吉田)。
新国立劇場出身の気鋭アーティストによる作品も登場
『フレンズ・オブ・フォーサイス』(日本初演)
日本初演、2026年3月25日(水) ~29日(日) 小劇場 5回公演
企画:ウィリアム・フォーサイス ラフ・“ラバーレッグズ”・ヤシット
振付:ウィリアム・フォーサイス、ラフ・“ラバーレッグズ”・ヤシット、レックス・イシモト、ライリー・ワッツ、ブリゲル・ジョカ、JA コレクティブ(エイダン・カーベリー、ジョーダン・ジョンソン)
出演:ラフ・“ラバーレッグズ”・ヤシット、レックス・イシモト、ライリー・ワッツ、ブリゲル・ジョカ、エイダン・カーベリー、ジョーダン・ジョンソン

『フレンズ・オブ・フォーサイス』より (C)Bernadette Fink
鬼才、ウィリアム・フォーサイスと集った気鋭のアーティストたちが、ステージ上での身体的コミュニケーションを通じてダンスの多様性と可能性を提示する実験的なショーケース。2023年にドイツで初演さえた。
新国立劇場バレエ団『ライモンダ』
2026年4月25日(土) ~5月3日(日・祝) オペラパレス 10回公演
振付:マリウス・プティパ
演出・改訂振付:牧阿佐美
音楽:アレクサンドル・グラズノフ

『ライモンダ』より(撮影:長谷川清徳)
2004年、当時の芸術監督、牧阿佐美による演出・改訂振付で初演された、新国立劇場伝統のレパートリー。中世ヨーロッパ、十字軍の時代を舞台に繰り広げられる恋物語は、終幕のグラン・パ・ド・ドゥが有名だが、全幕上演の機会の少ない古典だけに、プティパ最後の傑作の世界をたっぷりと味わえるまたとない機会に。
こどものためのバレエ劇場 2026
エデュケーショナル・プログラム 『白鳥の湖』
2026年5月6日(水・休) オペラパレス 2回公演
プロダクション原案:マリオン・テイト
6月の『白鳥の湖』全幕に先立って上演。進行役によるマイムの解説、音楽や楽器の説明、ストーリー展開のナレーションなどを挟みながら、第3幕を中心に『白鳥の湖』の魅力を凝縮して届ける。
新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』
2026年6月5日(金) ~14日(日) オペラパレス 10回公演
振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ、ピーター・ライト
演出:ピーター・ライト、ガリーナ・サムソワ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
1981年に初演、古典バレエの美しさと、演劇的な要素を巧みに取り入れたドラマティックな展開で、多くの観客の心を掴んできた作品。2021/2022シーズンの開幕作品として上演、新国立劇場の新たな看板作品に。新国立劇場ならではのコール・ド・バレエの、圧巻の美しさを体感したい。

『白鳥の湖』より(撮影:鹿摩隆司)
新国立劇場バレエ団 ダブル・ビル
2026年7月3日(金) ~5日(日) 中劇場 4回公演
新国立劇場オリジナル作品によるダブル・ビル。元新国立劇場バレエ団ダンサー、宝満直也による新作は、「いつか作品をお願いしたいと思っていた」と吉田も期待。ニューヨークを拠点に国際的に活躍する振付家ジェシカ・ラングによる『暗やみから解き放たれて』は、2014年に新国立劇場バレエ団のために振付けられた作品だ。
『ストリング・サーガ(仮題)』(新国立劇場バレエ団委嘱作品、世界初演)
振付:宝満直也
音楽:久石譲
『暗やみから解き放たれて』
振付:ジェシカ・ラング
音楽:オーラヴル・アルナルズ、ニルス・フラーム、ジョッシュ・クレイマー、ジョン・メトカーフ

『暗やみから解き放たれて』より(撮影:鹿摩隆司)
こどものためのバレエ劇場 2026
『人魚姫~ある少女の物語~』
2026年7月23日(木) ~27日(月) オペラパレス 8回公演
振付:貝川鐵夫
音楽:C.ドビュッシー/J.マスネ ほか
新国立劇場バレエ団出身の貝川鐵夫の振付により2024年7月に世界初演された全2幕のオリジナルバレエ。アンデルセンの童話「人魚姫」をモチーフとした、子どもも大人も一緒に楽しめる感動の舞台だ。
「ダンサーたちの成長の機会となるキャスティングを」
コロナ禍を乗り越え、2025/2026シーズンの公演数は従来のレベルにまで戻ったという。新国立劇場バレエ団による公演は76回と、開場以来もっとも多くなる。2024年に企業の協力を得て実施した、「新国立劇場こども観劇プログラム・バレエ『アラジン』」、『くるみ割り人形』上演時の「バレエみらいシート」、夏休み期間中の「京王アカデミープログラム 新国立劇場でバレエを知ろう!」という社会貢献活動を振り返り、今後も未来ある子どもたちにむけての企画を、新国立劇場の使命として続けていきたいと明かした。また、3月まで実施中の 『アラジン』舞台映像の無料配信(https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_028076.html) については、「すでに63万回再生され、海外からの反響も大きい。カメラの台数が少なかったり、ついていけていない部分もあったりしますが、これからも続けていきたい」と前向きだ。
ダンサーたちを導く指導者として実感すること、今後の課題についても熱く語った。
「ダンサーたちはまだ眠っている状態。それを呼び覚ましたいと思っています。お客さまに楽しんでいただきつつ、ダンサーたちの成長の機会となるキャスティングを、ベストのタイミングで、ということを心がけたい。バレエ公演の入場率は90%を超え、とても良い方向に向かっていますが、まだまだ理想には遠い。

(撮影:阿部章仁)
その後の質疑応答では、新制作の『くるみ割り人形』について多くの質問が寄せられた。なぜこのタイミングでの新制作かと問われた吉田は、「これまでのウエイン・マクレガーの『くるみ割り人形』は振付がとても難しく、ダンサーたちはそれによって強くなり、スタミナがつき、パートナリングの勉強になった。でも、公演数が増えてきたいま、ダンサーたちの身体の負担のことも考える。私のなかではいまのタイミングでした」と思いを明かした。
コロナ禍が明け、新国立劇場の客席では海外からの観客の姿も目立つようになったが、劇場サイドからは、劇場の公式webサイトの英語ページからのチケット購入状況も急激に伸びているとも。首都東京の、世界に開かれた劇場として、どのような取り組みをし、発信していくのか、引き続き注目していきたい。
取材・文:加藤智子