
第48回日本アカデミー賞の授賞式が3月14日(金) 、東京・グランドプリンスホテル新高輪国際館パミールで行われ、『侍タイムスリッパー』が最優秀作品賞に輝いた。藤井道人監督の『正体』が最優秀監督賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演女優賞の3冠。
最優秀作品賞/『侍タイムスリッパー』(配給:ギャガ、未来映画社)
幕末の侍が、現代の時代劇撮影所にタイムスリップし、時代劇の斬られ役として奮闘する時代劇コメディ。昨年8月に池袋シネマ・ロサの1館のみで封切られ、口コミで話題が広まり、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷ほか全国300館以上に進出した話題作だ。『ごはん』『拳銃と目玉焼』の安田淳一が監督・脚本を手がけ、自主制作作品でありながら東映京都撮影所の特別協力によって完成させた。
安田監督は開口一番「驚いております」と挨拶。「最後まで物事を諦めずにやることを教えてくれた、昨年亡くなった父に見せてあげたい。本当にどうもありがとうございます」と、言葉を振り絞った。なお、安田監督は、最優秀編集賞も受賞した。

(C)日本アカデミー賞協会
主演を務め、優秀主演男優賞を受賞した山口馬木也も「心臓が飛び出るかと思いました!」と驚きを隠せない様子だ。「1館で始まったインディーズ映画ですが、こんなにキラキラした場所に立てております。何度も劇場に足を運んでくださったお客様が『毎回、キャラクターに会いに行く気分』だとおっしゃってくれていて、こんなにうれしいことはありません」と、映画の躍進を後押ししたファンへの感謝を述べていた。
最優秀監督賞/藤井道人『正体』
染井為人の同名ベストセラー小説を映画化したサスペンスドラマ。日本中を震撼させた凶悪な殺人事件を起こし、死刑判決を受けた鏑木慶一(横浜流星)が脱走した。鏑木を追う刑事は、逃走を続ける鏑木の潜伏先を取り調べるが、関わりを持った人物たちが語る鏑木は、それぞれがまったく別人のような人物像だった。
第43回に『新聞記者』で優秀監督賞、優秀脚本賞を受賞し、今回初めて、最優秀監督賞に輝いた。「今日(の受賞式で)、先輩の皆様や仲間たちがコメントで『楽しい』と言っているのが刺さりました」と語り、「やはり、映画の現場は楽しくなきゃいけないし、その場を作るのは自分の責任だなと強く思いました。この賞をいただけたのは、仲間たちのおかげ。これからもインディーズスピリッツで映画を作り続けたい。感謝の気持ちを忘れず、楽しい映画業界を作っていけるように頑張ります」と、さらなる邁進を誓った。

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最優秀主演男優賞/横浜流星『正体』
藤井監督と約3年にわたり、脚本やセリフのやり取りをするなどし、満を持して長編映画3度目のタッグを組んだ。凶悪事件の犯人として死刑判決を受けるも、刑務所から脱走した青年・鏑木役。名を変え、容姿を変え、職を転々としながら逃亡を続ける過程で、様々な表情や感情、そしてアクションも求められる役柄を見事に演じ切り、作品を牽引。主演としての実力と限りないポテンシャルを感じさせた。
第43回で新人俳優賞を受賞。同年、藤井監督の『新聞記者』が最優秀作品賞に輝いており、横浜は「いつか一緒にこの場に立ちたいと思っていた」と振り返る。それだけに「藤井組でこの場にいられることに大きな意味があります。

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「自分は芝居はうまくないですし、遊びもなく、頑固でつまらない人間ですが、毎日芝居のことを考え、作品命で向き合ってきた。その向き合いが認めていただけたような気がして、励みになりました」と感謝を述べ、「若輩者ですが、今後も映画業界発展のために尽力してまいります」と決意を新たにしていた。横浜は過去に優秀助演男優賞(第46回『流浪の月』)を受賞し、今回初めて、最優秀主演男優賞に輝いた。
最優秀主演女優賞/河合優実『あんのこと』
実在の人物をモチーフに、入江悠監督が脚本も執筆した本作で、壮絶な生き方を強いられた少女・杏を演じた。母親に虐待され、売春させられ、ドラッグにも手を染めている杏。救いの手を掴み少しずつ前を向いていこうとするが、コロナ禍がとどめを刺してくる。 杏が懸命に生きた日々が、そこにあった喜びと痛みが、ダイレクトに伝わるような純度の高い表現で、見る者の心に杏の存在を深く刻み付けた。
最優秀主演女優賞を初受賞した河合は、「ちょっと信じられない気持ちです。この場にいるだけで、夢のような思いでいます」と喜びを噛みしめ、「私は本当に未熟者で新参者ですが、敬愛する大先輩の皆さんに囲まれて、映画という世界に足を踏み入れて本当に良かったなと思います」と感激しきりだ。

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渾身の一作である『あんのこと』は、「言葉では言い表せない特別な作品。今後も俳優を続けたいと思っていますし、ずっと心に残り続ける大切な作品になるだろうなと思います」と思いは格別。「人生の時間を貸してくれたすべての人に改めて感謝を伝えたい」と語っていた。
最優秀助演男優賞/大沢たかお『キングダム 大将軍の帰還』
漫画『キングダム』シリーズ初期の人気キャラクターである、秦国の大将軍・王騎役を演じた大沢が、最優秀助演男優賞に輝いた。鍛え上げられた巨体に、余裕を感じさせる笑み、独特の癖のある話し方などが特徴的な人間離れしたキャラクターを、熟達の演技力に加え、約20キロ体重を増やすなど自らの肉体でも体現。シリーズを通じて献身的な役作りで、山﨑賢人演じる主人公・信に将軍の生き様と戦い方を身をもって示す、王騎をこの上なく魅力的に演じ、作品に貢献した。
大沢は「助演という立場は、主演をどう盛り上げるのかって考えている。(主演の)山﨑くんをはじめ、スタッフ、キャストの皆さんにずっと助けられながら演じさせていただいたと思っております」と謝意。映画はシリーズ最高となる国内興収80億円を突破する大ヒットを記録し、「劇場に足を運んでくださった皆さんに、お礼を言う時間もなかったので、改めて本当にありがとうございます」とファンにも感謝を伝えていた。大沢は過去に優秀主演男優賞(第28回『解夏』)、優秀助演男優賞(第30回『地下鉄(メトロ)に乗って』)を受賞しており、最優秀助演男優賞の受賞は初めてとなる。

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最優秀助演女優賞/吉岡里帆『正体』
鏑木(横浜流星)が潜伏中に、那須という偽名を使ってフリーライターとして働いていた際、那須を信頼して仕事を任せていた安藤沙耶香を演じた。那須が指名手配犯の鏑木だと気づいた後も、自分の感じたことを信じ、自分の見てきた鏑木を信じる。自身も父親の冤罪を晴らすべく闘っており、周りに流されない、しなやかな強さのある女性を好演した。
授賞式当日、石川県七尾市での舞台公演に出演していた吉岡は、リモートでの参加となり、受賞の瞬間は「ビックリし過ぎちゃって」と思わず絶句。「この作品は、私にとって、とてもとてもとても重要な作品になりました」と作品への強い思い入れを示し、自身が俳優を志すきっかけとなったエキストラ経験を述懐。「現場の全員が、心から良い作品を作りたいと一致団結し、手を取り合ったときにパワーを発揮する映画というものに、これからも携わっていきたい。見ていただく方のパワーになれるよう、精進したい」と、さらなる飛躍を誓っていた。

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吉岡の代理として、会場でブロンズを受け取った藤井監督は「吉岡里帆さんに出会えて、僕も幸せ者です。これからも一緒に面白い作品を作っていきましょう」と感謝を伝え、受賞を祝していた。吉岡は新人俳優賞(第43回『見えない目撃者』『パラレルワールド・ラブストーリー』)、優秀主演女優賞(第46回『ハケンアニメ!』)を受賞しており、最優秀助演女優賞の受賞は初めてとなる。
最優秀アニメーション作品賞/『ルックバック』(配給:エイベックス・ピクチャーズ)
「チェンソーマン」で知られる人気漫画家・藤本タツキが、2021年に「ジャンプ+」で発表した読み切り漫画を劇場アニメ化。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『君たちはどう生きるか』など、さまざまな話題のアニメに携わってきた、アニメーション監督でアニメーターの押山清高が、監督・脚本・キャラクターデザインを手がけ、ひたむきに漫画づくりを続ける2人の少女の姿を描く青春ストーリー。
昨年『君たちはどう生きるか』で同賞に輝いたスタジオジブリの野中晋輔氏から、ブロンズを受け取った押山監督は、同作品の製作にも関わっていただけに「こうして、スタジオジブリから賞を受け取れたことに、感慨深い気持ちになっています」と感無量の面持ち。また、声優として出演した河合優実は、「本当に素晴らしい作品で、心を奪われた。『ルックバック』という作品のことを誇りに思いますし、携わった皆さんに敬意を表したい」と栄誉を称えていた。
第48回日本アカデミー賞は、2024年1月1日~12月31日に東京地区の商業映画劇場にて有料で初公開され、原則として1日3回以上、かつ2週間以上継続して上映された40分以上の劇場用劇映画及びアニメーション作品が対象となっている。
取材・文:内田涼
『第48回日本アカデミー賞』受賞作品/受賞者リスト
最優秀作品賞:『侍タイムスリッパー』(配給:ギャガ、未来映画社)
最優秀監督賞:藤井道人『正体』
最優秀主演男優賞:横浜流星『正体』
最優秀主演女優賞:河合優実『あんのこと』
最優秀助演男優賞:大沢たかお『キングダム 大将軍の帰還』
最優秀助演女優賞:吉岡里帆『正体』
最優秀脚本賞:野木亜紀子『ラストマイル』
最優秀撮影賞:『キングダム 大将軍の帰還』
最優秀照明賞:『キングダム 大将軍の帰還』
最優秀美術賞:『はたらく細胞』
最優秀録音賞:『キングダム 大将軍の帰還』
最優秀編集賞:『侍タイムスリッパー』
最優秀音楽賞:『カラオケ行こ!』
最優秀外国作品賞:『オッペンハイマー』(配給:ビターズ・エンド)
最優秀アニメーション作品賞:『ルックバック』(配給:エイベックス・ピクチャーズ)
新人俳優賞:赤楚衛二(『六人の嘘つきな大学生』『もしも徳川家康が総理大臣になったら』)、板垣李光人(『八犬伝』『はたらく細胞』『陰陽師0』)、越山敬達(『ぼくのお日さま』)、齋藤飛鳥(『【推しの子】 The Final Act』)、齋藤潤(『カラオケ行こ!』)、渋谷凪咲(『あのコはだぁれ?』)、森本慎太郎(『正体』)、山田杏奈(『ゴールデンカムイ』『正体』)
話題賞(作品部門):『帰ってきた あぶない刑事』
話題賞(俳優部門):森本慎太郎『正体』
主題歌賞(特別賞新賞): Mrs. GREEN APPLE(『ディア・ファミリー』主題歌「Dear」)