
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館の専属舞踊団、Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)が、金森穣芸術総監督の演出振付による新作『アルルの女』と、『ボレロ』を上演、2025年6月27日から29日に本拠地新潟での公演を終え、彩の国さいたま芸術劇場での公演を控えている。誰もが耳にしたことがあるビゼー、ラヴェルの音楽、またバレエ作品としても広く親しまれている題材を、金森はどう捉え、どう舞台化するのか、期待が高まる。
今年はビゼー没後150周年の節目の年。組曲版がよく知られている『アルルの女』だが、実は、初演はコーラス付きの劇付随音楽。金森は、アルフォンス・ドーデの戯曲を読み、その劇付随音楽に興味を抱いたという。“アルルの女”の妄想にとらわれ自死する青年の話は有名だが、演出ノートで金森は、「不在の他者に対する幻想という一個人の精神構造が起こした悲劇というよりも、共依存という、実在する他者との関係性のうちに生まれた悲劇」と指摘、そこに潜む共依存の問題は、「極めて現代的な問題」とも。
舞踊で紡ぐ音楽劇として創作された本作だが、そのアプローチは、数年前までNoismが手がけていた、演劇と舞踊の融合を試みる「劇的舞踊」とは異なる。新潟公演の1週間前、公開リハーサルの際に実施された囲み取材で、金森はこう述べている。「抽象度を保ったまま、いかにその物語の本質だけを届けることができるかということに、いま、とても興味がある。今回の『アルルの女』では、原作を読み、その問題意識が現代的であるということに気づいたことももちろんですが、組曲版と劇付随版の音楽をミックスすることで、唯一無二の、見たことのない『アルルの女』が作れるだろうと。ある種のギリギリの抽象度を保ったまま、物語として届けるという新たな試みに、いまは食指が動いています」。

『アルルの女』新潟公演より(撮影:松橋晶子)
演出ノートで、モンスターペアレンツや、推し文化、SNSによる匿名の誹謗中傷などの問題にも触れている金森。取材の場でそのことについてあらためて問われると、「家族というのはある種のメタファー。家族以外にも、いま我々は実際、一人ひとりが人間として、その関係性のうちに、私の思い、あなたの思いみたいなもののはざまで生きている。

『アルルの女』新潟公演より(撮影:松橋晶子)
ともに囲み取材にのぞんだ井関佐和子国際活動部門芸術監督は、当初、「穣さんがいま芸術家として目指しているところがこの音楽と合うのか、という心配がありました」と明かす。「劇付随版の音楽を知らなかったんです。とはいえ、穣さんを信頼しているので、どういうふうにその音楽と向き合い、どういう作品にしていくのかという興味がありました。リハーサルを重ねていく中で、全ては妄想だなと。人と人との関係性って本当に危うい。本当に相手のことを考えているのか、それとも自己満足なのか、その線引きは一体誰ができるんだろう……と。ある種の抽象度が含まれているがゆえに、感じることは個々に違うと思います」。
一方の『ボレロ』は、「りゅーとぴあジルベスター・コンサート 2023」、東京芸術劇場での「SaLaD 音楽祭 2024」で生のオーケストラとの共演で上演を重ねた作品を、劇場版として新たに『ボレロ-天が落ちるその前に』として上演する。金森の演出ノートには、「このような時代において、例え天が落ちたとしても、例え地が崩れたとしても、今この時に全てを賭けること。同志たちと共に“今此処”に全霊で挑むこと。その姿を、その祈りを、客席に届けたい」と、舞踊への思いの丈が込められている。

『ボレロ』新潟公演より(撮影:松橋晶子)

『ボレロ』新潟公演より(撮影:松橋晶子)
偶然にもラヴェルは今年生誕150年、各地のホールでラヴェルの音楽が、またその代表作である「ボレロ」が演奏されている。金森は、「皆さんが耳にしたことがある音楽を用いても、自分の芸術性で勝負できるというところに自分が来たという実感があります」と発言。昨年設立20周年を迎えたNoism。カンパニーとともに、真摯に、勇敢に表現に向き合ってきた彼だからこその説得力ある言葉だ。井関も、「振付家と舞踊家が、とてもいいバランスで成熟してきていると思うので、ぜひ劇場に来ていただきたいです」と述べた。
取材の最後、金森は印象的な言葉を残している。「出来上がってしまっているイメージを壊す方が楽しい。皆さんの価値観を変えるくらいのことに、興味がある。もう100パーセント、イメージをぶっ壊します」。
生と死を象徴する、対をなす2作品。きっと心震えるような体験が待っている。
文:加藤智子
<公演情報>
Noism0+Noism1『アルルの女』/『ボレロ』
『アルルの女』
演出振付:金森穣
音楽:ジョルジュ・ビゼー
衣裳:井深麗奈
映像:遠藤龍
出演:Noism0、Noism1
『ボレロ-天が落ちるその前に』
演出振付:金森穣
音楽:モーリス・ラヴェル
出演:Noism0、Noism1
※Noism0+Noism1『アルルの女』/『ボレロ』に出演を予定していた三好綾音は、体調不良のため降板。
【新潟公演】
2025年6月27日(金)~29日(日)
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
※公演終了
【埼玉公演】
2025年 7月11日(金)~13日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
公演詳細: https://noism.jp/noism0-noism1larlesienne-bolero/