「神木隆之介は天才だと思う」子役から国民的俳優に成長した30歳。抜群の芝居力とコミュ力おばけぶりを『大名倒産』の監督が証言する

現在、NHKの連続テレビ小説「らんまん」に出演中の神木隆之介。天才子役から国民的俳優に成長した彼の魅力を、映画『大名倒産』(6月23日公開)でメガホンを取った前田哲監督が語る。

(トップ画像:© 2023 映画『大名倒産』製作委員会)

巻き込まれ型のプリンス役がピッタリ

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© 2023 映画『大名倒産』製作委員会

──『大名倒産』(2023)は浅田次郎氏の原作小説の映画化。貧しい鮭売りから突然、越後丹生山藩の若殿となる青年・松平小四郎役を神木隆之介さんが演じられました。藩が抱える借金100億円を押し付けられた崖っぷちのプリンス役が、コミカルでチャーミングです。

前田(以下同) 「主演は神木さんですよね」と提案してくれたのはプロデューサーですが、どう考えても、神木さんしかいないですよね。

巻き込まれ型のプリンスぶりがピッタリだし、ピンチに陥るけれども、なんとかそれを逆転するポジティブさは、神木さんのイメージ通りだと思いました。

──監督が神木さんとお仕事をするのはこれが初めてだと思います。映画製作者として、神木さんはどんな俳優に映っていましたか?

相手の気持ちにいつも寄り添ってくれるような、共感力が強くて、親しみあふれる感じですね。

ルックスだけでなく、ご本人が持ち合わせている人間的な魅力を含めてスターのポジションに立っている。すごいことだと思いますね。

──実際に演出をしてみて感じた、俳優としてのすごさは?

天才だと思います。まず、アイディアがすごいんです。もちろん僕は演出家としていろんなことを事前に考えて撮影に臨みますが、もっとよくする“何か”が必要だと考えているシーンについて、「こうしてみたらどうですか?」と、素敵な提案をしてくれる。演出家と同じように、映画全体の流れを見ることができる人なんです。


もちろん、俳優さんは自分が演じるキャラクターのことを中心に考えていていいんです。でも神木さんは、キャラクターを踏まえた上で、俯瞰でも作品を見ていると思います。

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──シーン全体だけでなく、演じるキャラクターの細かい心情などについても提案されることはあったのでしょうか?

撮影の前の本読みでは感情の流れを1ページずつ追っていくんですが、こちらが考えているのはしょせん、机上での小四郎なんですよね。撮影が進むにつれて生身の人間としてどんどん小四郎になっていく神木さんから、「このセリフは、こう言ったほうが伝わると思うんです」と提案されることは多々ありました。

建物を建てるときと同じで、台本という設計図をもとにしつつも、今までの流れとその場の雰囲気でライブ感を活かしていく臨機応変さが必要。それができる人なんです。



──神木さんを、ひと言で表現するとしたら?

“万能”ですね。トランプで言えばジョーカーみたいな人。すべてのカードになれるんです。お芝居はリアクションだし、コラボレーションだと思うんです。神木さんは相手の役のことまで目がいくし気遣えるから、小四郎を中心に、他のキャラクターみんなが輝くんです。神木さんとお芝居をした人がパッ、パッ、と咲いていくイメージ。


共演者だけでなく、スタッフに対する気遣いもすごかったですね。声のかけかたひとつとってもすごくさりげなくて自然。お芝居ができる天才である上に、誰に対しても同じように気遣えるから、最強なんだと思います。

──座長の神木さんを中心とした、現場の雰囲気のよさが伝わります。

彼を昔から知っている人はみんな言いますよ。全然変わらないって。
京都での撮影中は、宿泊先の旅館から撮影所に、自転車で通っていましたから。

メタモルフォーゼしていくのが映画製作

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──トップに立つ人間の苦悩や覚悟、責任も描かれていますね。

この映画で僕が描きたかったことのひとつはリーダー論です。人の上に立つ人間はどういう意識でいるべきかなど、今の日本の問題を含めたいという思いはありました。

汚職とか癒着はどんな時代にもありますが、浄化していかなきゃいけないし、人の上に立って政をする人には、襟を正してほしいです。

──笑えるコメディ映画でありながらも、根底には社会に対する問題提起が流れている。

そうですね。

未来に向けた映画を、現代を生きる人に届けるわけですから。

──前田監督は、現在公開中の『水は海に向かって流れる』(2023)をはじめ、『ロストケア』(2023)、『そして、バトンは渡された』(2021)、『老後の資金がありません!』(2021)、『そんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)など、話題作を数多く手掛けています。

社会への問題提起はすべての映画に通底しています。ただ、どういう形で届けるかを考えたときに、やっぱり映画としておもしろいものじゃないといけない。描き方は題材によりますし、物語のテイストにもよると思っています。

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──監督も、多くのスタッフの上に立って映画を作る立場です。現場で心がけていることは?

僕ひとりで考えたイメージを、みんなにどう超えてもらえるかということは意識しています。キャストやスタッフの工夫とアイデアと知見がプラスされれば、さらに豊かな作品になるわけです。それはカメラワークでも小道具でもどのパートにも言えることです。

特に俳優さんはそうですよね。映画を見る人は俳優さんの言葉と動きを見て聞いているわけだから、どういう表情をしたか、どう表現するかということが重要になります。

「そうか、こう来たか!」という予想を超える芝居には驚くし、僕が思わず吹き出したということは、観客にとってもサプライズになるわけです。そうやってメタモルフォーゼしていくのが映画だと思うので、なるべくイメージを押しつけず、どう自由な発想で演じていただけるかを楽しみにしています。

──主演の神木さんだけでなく、石橋蓮司さん、佐藤浩市さん、浅野忠信さんなどのベテラン俳優たちが、変顔も辞さない熱演を見せているのもサプライズでした。

コメディは表情を含めたケレン味をどこまで出すかが考えどころになります。下品にならないことが一番大切でありつつ、やりすぎていいときと、寸止めがいいときがあり、俳優さんによっては「そこまでやるの!?」と思う場面もあるわけですよ。
その塩梅は非常に難しいのですが、みなさん楽しんで演じてもらったので、それが観客にも伝わると思います。

時間も守るし、予算も守る

──お金をテーマにした映画ですが、映画製作も限られた予算の中でどう作るかの戦いだと思います。

そこは工夫とアイデアですよね。僕はデビューしたときに相米慎二監督に言われたんです。「小さくまとめようとするな」「器用に映画を作るな」って。でも僕は助監督の経験値があるから、限られた予算と時間で収めるやり方は体に染み付いているんです。

だから気をつけないと時間と予算に応じて、小さくまとめてしまうことがあるんです。時間と予算を守れるのは、僕の強みであり、甘さでもあると思います。

──素晴らしいことだと思いますけどね。

結局、撮影が押したり、残業をすると集中力が失われていくし、次の日に響く。準備パートのことを考えるとなるべく早く撮影は終わったほうが、効率的なのです。

今回、インターンの学生が8名参加したのですが、みんな撮影が楽しくてしょうがないって言ってましたね。朝は早いですが、夕方過ぎには撮影終わって、京都の美味しいご飯を食べたり、自分の時間を少しでも持てて、みんな幸せだったのではないでしょうか。

──そもそも、監督が映画監督を目指したのはいつだったのでしょう?

小学生のときです。雑誌「ロードショー」と「スクリーン」が当時の愛読書で、4年生のときにはすでに映画の世界に入ると決めていましたね。

スティーヴ・マックイーンが僕のヒーロー。リチャード・ウィドマークもバート・ランカスターもポール・ニューマンも好きでした。日曜洋画劇場とかゴールデン洋画劇場を見た次の日には、映画のマネをしてくれる唯一の友達と一緒になって、ほうきをライフルに見立てて演じたりしていました。

クラスメイトはみんなグラウンドでボール遊びしてるのに、『大脱走』(1963)のマネをして机の下に潜ったりしてね。楽しかったな。

その後、雑誌の「LIFE」が映画の記事をまとめた「LIFE GOES TO THE MOVIES」という本を、お年玉を蓄えて購入して、オフショットのスチールにスタッフが写っているのを見たときに、自分はスタッフ側だと思ったんです。

──今も、映画を一観客として楽しむことは?

見なきゃいけないものを見るっていう状況ですが、映画に浸りたい気持ちはいつもありますね。映画館という空間が大好きで、意識が没入できるのがいいですよね。

──監督にとっての今の映画スターは? いくら予算をかけてもいいと言われたら、誰で映画を撮ってみたいですか?

え! やっぱブラピ(ブラッド・ピット)とジョニデ(ジョニー・デップ)かな。あと、女優さんで……、名前出てこないな。ミュージシャンの娘さんで、なんとかコリンズ……。リリー・コリンズ!

『あと1センチの恋』(2014)はいいですよね。あの太い眉毛が個性的で好きです。

──彼女を主人公に映画を撮るとしたら?

アニメ好きのオタクなヒロインが、日本にアニメを学びに来て騒動に巻き込まれていく、ラブサスペンス・ファンタジー……どうでしょう(笑)。

──いつか見てみたいです!

取材・文/松山梢

前田哲(まえだ・てつ)
撮影所で大道具のバイトから美術助手を経て、助監督となり、伊丹十三、滝田洋二郎、大森一樹、崔洋一、阪本順治、松岡錠司、周防正行らの作品に携わる。1998 年、相米慎二監督のもとで、オムニバス映画『ポッキー坂恋物語 かわいいひと』で劇場映画デビュー。2021 年には『老後の資金がありません!』『そして、バトンは渡された』で報知映画賞監督賞を受賞。主な監督作品に『パコダテ人』(2002)、『棒たおし!』(2003)、『陽気なギャングが地球を回す』(2006)、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』(2007)、『ブタがいた教室』(2008)、『猿ロック THE MOVIE』(2010)、『極道めし』(2011)、『王様とボク』(2012)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)、『ぼくの好きな先生』(2019)など。2023 年は本作に加え『ロストケア』『水は海に向かって流れる』と立て続けに監督作が公開となる。

『大名倒産』(2023) 上映時間:2時間/日本

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6月23日(金)より全国公開
配給:松竹
© 2023 映画『大名倒産』製作委員会
公式サイト :movies.shochiku.co.jp/daimyo-tosan/
公式 Twitte :@daimyo_tosan