「薬がない!」震災後、物資の届かない過酷な避難所生活のなか持病があったらどうすれば…高血圧・糖尿病、生活習慣病から起きる“健康2次被害”を防ぐには

今回の能登半島地震に限らず、地震や津波などの災害は突然やってくる。着の身着のままで家を飛び出し、そのまま避難所生活となってしまうケースもある。

水や食料などは最優先で配給されるが、人によって困るのは「毎日の薬」。自宅に戻れず、医療機関や調剤薬局なども被災した場合、ふだん飲んでいる薬が1週間近く飲めなくなることも考えられる。薬が手に入るまで、何に気をつければいいのか。日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医でもある多摩ファミリークリニック院長の大橋博樹医師に話を聞いた。

最悪、昏睡状態になることもある

「これまでの震災でも、持病の薬を持たずに避難所に来てしまう人はたくさんいらっしゃいました。被災現場での医療は、重篤患者さんや人工透析が必要な患者さんなど、命に関わる病気の方が優先され、生活習慣病などのケアについてはどうしても後回しになってしまいます」(大橋医師、以下同)

「薬がない!」震災後、物資の届かない過酷な避難所生活のなか持病があったらどうすれば…高血圧・糖尿病、生活習慣病から起きる“健康2次被害”を防ぐには

避難所に届いた物資(撮影/集英社オンライン)

中高年から高齢者まで、高血圧や糖尿病など生活習慣病の薬を毎日服用している人は多い。2~3日であればそう問題はないが、薬を飲めない日が長く続くとさまざまな不調が出てくる可能性が高くなるという。



「高齢者で2種類くらいの降圧剤を飲んでいるような人が5日間も薬を飲まないと、めまいやふらつきを感じるようになることが多いでしょう。めまいにともなう気持ち悪さを感じる人もいますし、頭痛が出ることもあります。さらに高血圧状態が続くことで、脳出血、狭心症などのリスクが高まり、心不全を引き起こすことも考えられます」

糖尿病であれば薬を数日飲まなくても、すぐに自覚症状が出ることはないという。ただ毎日インシュリン注射をしている人が注射を打たないと、数日で高血糖状態に陥り、口や喉の渇きやだるさ、さらには眠気などを感じるようになる。その状態が続けば最悪、昏睡状態になることもあるので特に注意が必要だ。

過去の被災現場では、生活習慣病の薬などはだいたい1週間ほどで供給されるようになったという。
だが今回の能登半島地震では、地理的な問題もあり、いまだ物資が届かないエリアもあるという。薬が飲めない不安は大きいが、薬が手に入るまで何に気をつけて生活すればいいのか。

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自衛隊によって運ばれた物資(撮影/集英社オンライン)

「血圧が高めであれば、まずは塩分の摂り過ぎに注意してください。避難所などで入手できる食料は菓子パンやおにぎり、カップ麺など、塩分が多めのものばかりです。できればカップ麺の汁は飲み切らずに残すようにしましょう。水分を多めに摂取することも大切です。



また、寒いと血管が収縮し、より血圧が高くなってしまいます。体を冷やさないようにすることも重要です。そして、温度差によっても血圧は高まります。特に暖かいところから寒いところへ行くと、ぐんっと上がってしまいますので、屋外の仮説トイレなどへ行く際は、ちょっとの間だからと油断せず、きちんと厚着をしてから外へ出てください」

暖かい部屋から、すぐに寒い外へ出るのではなく、部屋よりも少し温度の下がった廊下で体を気温に慣らしてから外へ出る、といった方法も有効だという。

糖尿病になると肺炎になるリスクが…

「糖尿病の方は甘い水分、サイダーなどの炭酸飲料やジュースなどを避けるようにしてください。水分はしっかり摂る必要がありますが、糖分が含まれた飲料を飲むことで血糖値が上がり、それによってよけいに喉の渇きを感じ、さらに飲み続けてしまうといった“ペットボトル症候群”に陥ってしまうことになります。

高血糖で倒れてしまうリスクが一番高いのが、この悪循環によるものです。糖尿病の方は特に注意が必要です」

「薬がない!」震災後、物資の届かない過酷な避難所生活のなか持病があったらどうすれば…高血圧・糖尿病、生活習慣病から起きる“健康2次被害”を防ぐには

珠洲市内の避難所内にて(撮影/集英社オンライン)

糖尿病になると、肺炎になるリスクが高まることがわかっている。誤嚥性肺炎を防ぐためにも口の中を清潔にすることを特に心がける必要がある。

「口腔ケアをしっかりやることで誤嚥性肺炎を防ぐことに繋がります。また、唾液が少ないと口の中の細菌が繁殖しやすくなります。よく噛んで食事をするなど、口を動かすことは唾液の分泌を促すことにもつながります。

水が不足していたり、歯ブラシがないといった難しいケースもありますが、できるだけ口腔ケアを心がけてください」

同じ血圧の薬でも、薬によって作用機序が違う。ふだん飲んでいる薬の名前は「お薬手帳」に記載されているが、薬すら持ち出せなかった緊急避難の状況下で、お薬手帳を持ち出すのはなかなか難しいだろう。薬の名前を覚えておくのも手だが、一番はお薬手帳の内容をスマホや携帯電話のカメラで撮影しておくこと。多くの人が携帯は持って避難するので、そこに画像を保存しておくのが一番なのだ。

「もし、お薬手帳の情報がない場合は、自分の病気について何種類の薬を、何回飲んでいるかといった情報は覚えておいてください。例えば、『血圧の薬は2種類。
ひとつは1日朝1回、もう一つは毎食後の1日3回です』と聞けば、医師や保健師は、あの薬とあの薬の組み合わせかな、などと想像ができます。それにより似た作用機序の当座の薬で対応できるかどうか、判断しやすくなります」

「薬がない!」震災後、物資の届かない過酷な避難所生活のなか持病があったらどうすれば…高血圧・糖尿病、生活習慣病から起きる“健康2次被害”を防ぐには

輪島市内にて(撮影/集英社オンライン)

だるさや体の痛みなどは避難所生活なのだから仕方ない、とそのままにしがちだが、体調変化を感じた場合はすぐに伝えてほしいと、大橋医師は訴える。

「被災現場というのは、さまざまな被害に遭われている方がおり、ちょっとした体調不良をなかなか言い出しにくい環境でもあります。ですが、頭がぼーっとするとか、ふらふらするとか、あるいは胸がちょっと苦しいと感じたりした場合は、早めに保健師や周りにいる支援者などに伝えて相談してください。我慢すればするほど、後々大事になってしまいます」

「薬がない!」震災後、物資の届かない過酷な避難所生活のなか持病があったらどうすれば…高血圧・糖尿病、生活習慣病から起きる“健康2次被害”を防ぐには

大橋博樹医師

取材・文/神保順紀 集英社オンライン編集部ニュース班