
4月28日、公職選挙法違反事件で自民党を離党した柿沢未途前法務副大臣の辞職に伴って実施される東京15区補欠選挙の投開票が控えている。キャラの濃い9人が立候補した激戦区となったが、唯一の地元出身として立候補したのが、無所属候補の須藤元気氏だ。
選挙妨害に思うこと
――2019年7月の参議院選挙で当選し、任期をまだ1年残しながら議員バッジを返上して、今回無所属での出馬となりました。前回は立憲民主党公認での出馬でしたが、前回と比較してどんな違いを感じていますか?
須藤元気(以下同) 出馬に関するお金が全部自腹なのが大きいです。現時点で1700万円かかっており、供託金などは戻ってくる可能性もありますが、それでも約1000万円は必要になります。
――金銭的な負担はしんどいですね。
ボランティアが少ないことにも頭を抱えています。ポスター貼りやメディア対応などはボランティアベースでやっているため、ボランティア不足は選挙活動にとって大きな痛手です。だからこそ、今ボランティアとして参加してくれている人たちには感謝しかありません。
――現在、東京15区では“選挙妨害”に話題を奪われている印象です。お金やボランティア数だけではなく、“対戦相手”である他の候補者も悩みの種になっているのでは?
法律に抵触するような選挙活動は取り締まるべきです。ただ、先日ネット討論会に出席して、他の候補者といろいろ話したのですが、みんな「この国を、この街をなんとかよくしたい」と気持ちは共通していると感じました。なのでいろいろありますが、「このメンバーで戦えてうれしい」と素直に思っており、悩みの種にはなっていません。
――須藤さんを批判する記事も見られますが、こうしたネガティブキャンペーンも気になりそうですが。
正直、批判的な記事は少ない印象です。“悪名は無名に勝る”ということなのか、同じ東京15区の候補者・乙武洋匡さんの批判記事が多くて嫉妬しています(笑)。悪名としてディスってもらって構わないので、もうちょっと記事を書いてほしいです。
質問主意書の提出本数、発言回数はゼロ?
――次に自身の参議院議員としての活動を振り返ってください。
私は実家が居酒屋で、元アスリートということもあり“食”の重要性は人一倍感じています。ですので、農林水産委員会に所属して、有機農業やオーガニック給食などの促進に取り組んできました。
――食に関する活動がメインだったと。
コロナ禍では入国手続きがかなり複雑化しており、格闘技の大会に出場する外国人選手の入国に時間がかかるケースが目立っていました。元格闘家という経験を活かして、この問題の解消に少しは貢献できたと思っています。
――とはいえ、参議院本会議で質問主意書の提出本数、発言回数がいずれもゼロであることを指摘する声がSNSで散見され、須藤さんの議員としての資質を疑う声もあります。
質問主意書に関してはデマです。これまで『パンデミック条約及び国際保健規則改正案に関する質問主意書』や『NTT法廃止議論に関する質問主意書』など21本提出しています。
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/213/syup/s213011.pdf
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/213/syup/s213043.pdf
――発言ゼロに関しては?
これは本当です。ただ、参議院本会議では無所属の議員は発言が許されていません。また、党に所属していても1年目の議員には発言の機会がほぼ与えられません。所属議員が少ない政党であれば別ですが、立憲民主党は大きい政党です。私にチャンスが回ってくることはなく、そのまま無所属になったために発言はゼロになりました。
――それを聞くと発言ゼロの議員は他にも多そうですね。
調べれば与党の議員の中にも発言ゼロの人は少なくありません。発言だけではなく、質問主意書の提出がゼロの議員も結構います。
――なぜ「須藤元気は質問主意書の提出本数、発言回数がいずれもゼロ」という意見に反論しないのですか?
周囲の人からも「否定したほうがよいのでは?」と言われます。ただ、政治は権力闘争です。足を引っ張ろうとする人の気持ちもわかるため、「好きに言ってください」というスタンスを取っています。
出馬の経緯は
――そもそも、なぜ今回出馬しようと思ったのですか?
出馬を決めたのは今年1月です。実は昨年末に私の母が他界しました。
――感傷に浸っているヒマはなかったと。
はい。うちの両親は仲がよく、親父としても50年連れ添った伴侶を亡くして本当に辛かったと思います。それでも、死に際に母から「パパ、ありがとうね」「一緒にいれて楽しかった」といわれ、そこで「母との思い出が詰まったこの店を潰すわけにはいかない」と思って店を開けようと考えたそうです。
――カッコいい覚悟ですね。
その親父の姿を見て、自分も店をサポートするために店を訪れる機会が増えたのですが、そんな折、私の地元であり店を構える江東区の選挙区(東京15区)で当選した衆議院議員が逮捕されました。そのため、お客さんから「江東区をなんとかしてくれ」という声をものすごくもらったんです。そこで「両親が大切にしている店、そして江東区の人たちを守りたい」という意識がどんどん芽生えていきました。
――ただ、参議院議員のバッジを外す必要はなかったように思いますが。
もともと、「いつかは地元から衆議院選挙に出馬したい」という思いがありました。また、最近は「与党もダメ、野党もダメ」という国民の認識が強く、この行き詰まった空気感を払拭したいと考えていました。
――いろいろな考えや気持ちを持っていた中で、東京15区補選が決まったわけですね。
格闘家時代は試合中に「ここは勝負に出ないと絶対後悔するな」という“勝負ドキ”を見極めながら戦っていました。そして、今がまさに私が当選すれば今後の政治・選挙の流れを変えられる勝負ドキと感じて出馬を決めました。
奪われた30年を取りもどす
――ちなみに当選したら特に尽力したいことは?
経済政策1本です。具体的には消費税減税を実現したい。日本のGDPの半分以上は個人消費が占めています。消費税のせいで個人消費に回せるお金は少なくなっており、そうした現状を打開したいです。
――消費税減税が実現されれば生活が楽になる人も多いように感じます。
はい。バブル崩壊から現在まで“失われた30年”と言われています。しかし、デフレ下にもかかわらず消費増税を繰り返したりなど、誤った経済政策ばかりを進めてきました。その結果、多くの国民が経済的に困窮しています。
――政府の政策ミスの罪は重いですね。
その通りです。失われた30年ではなく、政府によって“奪われた30年”と認識しています。豊かな生活を取りもどすため、まずは消費税減税に注力したいです。そのためにも、この選挙は必ず勝ちます。
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この取材は4月19日夕方ごろに行われた。取材終了後に須藤氏は豊洲での街頭演説に臨んだが、その際に「江東区でバッジを外して勝負していること、みなさんの前で話せること、本当にうれしく思います」「正規、非正規(雇用の問題)で僕の友達も飲みに誘ったって金がないって断られるって…46歳ですよ…そんな(友達と)飲みに行くのに金がないって、そんな世の中終わりにしたいんです」と話しながら涙を見せた。
両親、そして江東区への思いがこみ上げたことによる涙だったのかもしれない。
須藤氏がうれし涙、悔し涙、どちらの涙を見せるのか、決戦の4月28日はもうすぐだ。
取材・文/望月悠木 撮影/佐賀章広