〈石破政権“試練”の通常国会〉「103万円の壁」「教育無償化」「ガソリン減税」…杉村太蔵が「史上、もっとも面白い国会になる」と断言する理由
〈石破政権“試練”の通常国会〉「103万円の壁」「教育無償化」「ガソリン減税」…杉村太蔵が「史上、もっとも面白い国会になる」と断言する理由

1月24日から始まる、石破政権下での初の通常国会。約半年間にわたり国のゆくえを議論する重要な場だが、なかには「興味がない」「よくわからない」と距離を置く人も少なくないだろう。

そんな中、元衆議院議員で“薄口政治評論家”として知られる杉村太蔵氏は、現在の国会について「今が一番面白いんです、見ないと損です」と熱く語る。現在の国会の見どころはどこにあるのか? 杉村氏に注目のポイントを教えてもらった。

「憲政史上、もっとも興味深い議席配分」

国会にはいくつかの種類があるが、その中でも通常国会は毎年1月下旬から6月中旬頃にかけて開催される。

昨年秋に発足した石破政権にとっては、これまで経験したのは約3週間の臨時国会のみであり、長期間に及ぶ通常国会は今回が初めてとなる。

しかし、今までの通常国会とは異なり、昨年の総選挙で過半数を割り込んだ与党の自民党と公明党は、法案を単独で可決できない“少数与党”に転落し、厳しい立場に立たされる。

一方、昨年秋の臨時国会を振り返り、「国会が非常に面白くなりました!」と鼻息を荒くするのが、元自民党衆議院議員の杉村太蔵氏だ。

杉村氏は、国民に24日から始まる通常国会をチェックすることを強く勧めている。

──昨秋の臨時国会から国会が激変し、面白くなったとのことですが、どういうことでしょうか?

杉村太蔵(以下、同) これまでであれば、政府与党、特に自民党の総務会で決定されたことが、よほどのことがない限りそのまま国会を通過していました。やはり「数の力で押し切る」みたいな部分が実際にはあって、野党がいくら素晴らしい提案をしても、少数派である以上、成立は難しかった。

でも、与党が少数派である今は、「自民党の決定」がそのまま「国会の決定事項」にはならなくなりました。

この「自民党本部の決定がそのまま国会で成立するわけではなくなった」という点が、本当に面白いんですよ! 国会審議を見ていても、政策論争が中心になりましたよね。憲政史上、もっとも興味深い議席配分だと思います。

──“憲政史上もっとも”ですか(笑)。

政治に詳しくない人のために、わかりやすくたとえると?

野球でたとえるなら「チームバランスがいい」という感じですね。

これまでなら、昨年のソフトバンクのように1つのチームが圧勝してしまうような状況だったわけですが、今はどのチームも熾烈なデッドヒートを繰り広げているようなもの。それぞれの主張には意義も一理もあって、正解・不正解がないので。

議論の過程で、自民・公明が良い提案をすることもあれば、野党の言っていることもいいね、ともなる。このまま熟議を重ねて、7月の参議院選挙や都議選を迎えたいですね。

日本の民主主義、本当に面白くなってきました! だから、ぜひ皆さんにも注目してほしいです。

議員側も楽しそう!?  “面白ポイント”と注目の議員

──具体的にどこに注目されますか?

非常に興味深いのは、立憲民主党の安住淳予算委員長です! 昨秋の臨時国会でも、公明正大で、中立公平に議会を差配されていました。

たとえば、 立憲の議員さんがちょっと質問時間をオーバーしたら、「時間を守りなさい!」と、身内であっても厳しく指摘する。これには本当に感心しました。2月いっぱいまでは予算委員会の審議が続くので、引き続き安住委員長には注目ですね。

また、補正予算案が修正で可決されましたよね。これ、補正予算では史上初の出来事なんですよ!

それに政治とカネの問題に関しても、政治資金規正法の再改正案が9本も提出されているんです。これも驚くべきことですよ。

──議員側にも変化はあったのでしょうか?

これまでになく国会審議が充実しているので、国会議員の皆さんも本当に楽しそうですよ。答弁も、非常に緊張感をもって臨んでいますよね。

野党が多数派だと、下手な発言をすれば、今の内閣は不信任案を出されて一発で飛ばされる可能性がありますから、与党議員も閣僚も、野党からの質問に本当に丁寧に、真摯に向き合っている印象です。

今の議席配分のほうが、プレイヤーとしてもやりがいがあると思います。

──なるほど。では、こうした流れを踏まえて、今回の通常国会の注目ポイントを教えてください。

やっぱり駆け引きじゃないですか? 与党としては、なんとしてでも予算を通したいけど、今は野党と協力しなきゃいけない。

でも、すべての野党と協力する必要はなくて、議席数的には国民民主党、立憲民主党、日本維新の会のどこか一党が賛成すれば、予算は通過します。

その見返りとして、日本維新の会が掲げている高校授業料の無償化を約束するのか。それとも、国民民主党のガソリン減税や話題の「103万円の壁」を178万円まで引き上げる案を受け入れるのか。そのあたりの駆け引きが見どころですね。

ただ、これらの政策は国民にとっては嬉しい話ばかりですが、「103万円の壁」の引き上げなどは地方の税収が大幅に減少する懸念もあります。

自民党の宮沢洋一税調会長も、何も意地悪して引き上げないわけじゃないんですよ。今は少し“ヒール役”に見えますけどね(笑)。

あと、衆院法務委員長に立憲・西村智奈美さんが就任したことにも注目しています。なぜかというと、選択的夫婦別姓制度の導入が、いよいよ現実味を帯びてきていますよね。

法務大臣に就任した鈴木馨祐さんも、若くて非常に柔軟な考え方をされている。現在の法務委員会は、近年にないくらい、注目に値するのかなと思いますね。

政治を避けている人でも、楽しく見られる場に

──そうした駆け引きに注目すると、ドラマのようで興味深いです。この状況を、今後も保ち続けるにはどうしたらよいのでしょう?

まず「大連立」なんか絶対しないこと! せっかく国会がいい情勢になっているのだから、このまま熟議を続けていただきたい。

そもそも、今の時代、物事をガンガン前に進める必要はそこまでないんじゃないかと僕は思っていて。むしろ、じっくりと議論を重ねるほうが大事ですし、今後は少数与党が当たり前の時代が来ると思っています。

その都度話し合って物事を決めていく、という国会の本来あるべき姿になってくんじゃないかと、すごく期待していますね。

──国会の主役ともいえる、石破茂首相の注目ポイントはどこですか?

非常に上手に国会答弁をされていて、だんだん“良さ”が出てきていますね。

あと、ちょっと僕が感じるのは、石破総理の外交方針としては、やはりアジア重視なんだろうなって。

石破総理になってから、ものすごく静かに、かつ着実に日中関係が改善している。米国を軽視しているわけじゃないですが、アジアを軸に展開していこうと考えているんじゃないかなと。

──国会が面白くても、政治に興味のない人や、難しくてわからないと避けている人も多いですよね。こうした人々は、どのような見方をすればいいのでしょう?

これはですね……ぜひ一度、衆議院のホームページをのぞいてみてほしいです。実は、すべての委員会の審議が録画でアーカイブとして残っているんですよ。

有名な国会議員が登場するとけっこう盛り上がりますし、まずは知っている議員だけでも見てみるとよいと思います。

別に、聴き流しでもいいんです。通勤・通学中や作業中にラジオ感覚で聴くだけでも、「あ、今こんな話が国会でされているんだ」ってなりますから。

ニュースでまとめられているものよりも、たっぷり30分聴いてみると、イメージが変わってくると思いますよ。ぜひ、国会審議をラジオ感覚で楽しんでみてください。

──最後に、もっとたくさんの方が国会を見たくなるようなアツい言葉をお願いします。

今の国会は、「多様性とは何か」を体現している場だと思います。現在の議席配分だと、必ずあなたの考えや主張に近い意見を持つ政党や議員が存在しますから。

改めて「民主主義っていいな」と思える、そういう国会になると思いますよ。これまでよりも、政治が身近に感じられるような場になっているので、ぜひ注目してみてください!

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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