「伝説として語り継がれるほど“最悪”だった」フジテレビの10時間超“出直し”会見、記者会見のプロが指摘する“フジに欠けていた姿勢”
「伝説として語り継がれるほど“最悪”だった」フジテレビの10時間超“出直し”会見、記者会見のプロが指摘する“フジに欠けていた姿勢”

中居正広さんと女性とのトラブルを巡る一連の問題で、フジテレビが27日午後4時からお台場にある本社で“出直し”会見を行なった。17日に行なわれた制限ありきの会見で批判を浴びたことへの反省を活かし、2回目はオープン形式で行なったところ、191媒体・473人が参加。

10時間23分にも及ぶ異例の超ロング会見を、“記者会見のプロ”として知られる企業危機管理の専門家はどう見たのだろうか。

「伝説に残る“最悪”の記者会見」

「人権に対する意識の不足から、十分なケアをできなかった当事者の女性に対し、心からお詫びを申し上げたいと思います」

27日午後4時から行なわれた会見には、フジテレビの港浩一社長を含む幹部5人が出席。会見冒頭、当事者女性はじめ関係者への謝罪の言葉を口にし、港社長含めた幹部の辞任や、第三者委員会の設置などが報告された。

その後、質疑応答に入ると、トラブルの経緯に関する質問が飛び交い、「プライバシー観点の保護から答えられない」と伝えられると、「答えましょうよ!」「何のための会見だ!」などと開始30分で怒号が飛び交う事態に…。中盤には記者同士で「うるさいよ!」と言い合うなど混沌とした中、会見は10時間以上にわたり、Xでは経営者陣の老体を労わり「フジテレビかわいそう」がトレンド入りするほどだった。

「記者会見のプロ」として知られる広報コンサルタントの石川慶子さんに、今回の会見の感想を率直に聞いてみたところ、

「これまでいろんな謝罪会見を見てきましたが、10時間半という長さも含め、伝説として語り継がれるほど“最悪”な記者会見でした」(石川さん、以下同)

と辛辣な評価を頂いた。そもそもここまで長丁場になってしまった要因はなんなのか―。

「会見が10時間半にも及んだのは、フジテレビ幹部がこの問題の本質的な原因に向き合っていないことが一番大きな要因だと思います。同じことが記者から繰り返し質問されるのは、彼らが回答していないからなんです。

彼らとしてはこの会見を『信頼回復の第一歩』にしたかったんでしょうけど、その基準が世の中とずれてしまっていることが明らかになったと思います」

また出直し会見をやっている企業が大手メディアという観点からも今回の会見を“失敗”と指摘する。

「いつも責任を追及する立場のメディア側が、(1回目の会見で)自らの不祥事をクローズドにした姿勢は、世間から問われた部分でもありました。結果、スポンサーが離れ、大きな経営危機をもたらした。あの経営判断は歴史的な大失敗です。



2回目はその反省を活かして制限を設けず行ないましたが、実際に1回目の失敗をリカバリーするためだけであって、本質的な問題に関しては何ら説明ができていないと感じました」

質問する記者側の質の低さ

一方、今回の会見で露呈したのは、質問する記者の質の低さだ。

経営陣の返答に怒号や野次を飛ばしたり、挙手して質問している記者を跳ね除け、質問せずに延々と持論を展開する記者も出現した。フジテレビで起こった出来事は他のメディア企業にとっても対岸の火事ではないはずだが…。

「昔の記者会見と大きく変わった点は、質疑応答を含めた生の会見を全国民がダイレクトに全て見れてしまうことです。テキスト文面も見れるので、論理的矛盾も含め、質問する側もチェックされる時代へと変わりました」

そして今回は、記者側に対する質問内容に関しても課題が多いと石川さんは指摘する。

「今回、記者側の専門知識が足りていないと感じました。

まずは『企業ガバナンス』に関する知識です。取締役相談役として強い影響力を持つ日枝氏がなぜ会見に出ないのかを問う質問ばかりで、フジ・メディアHDとフジテレビの役員がほぼ一緒であることの問題や社長の選び方、企業統治に関する問題、総務省のチェック機能の問題などに関する質問が少なかったと感じます。

もう一つは『刑事事件』に関する知識です。さまざまな報道や証言を見る限り、被害女性は、傷痕が残るような相当ひどい行為を受けたと思われます。そうなるとこれは刑事事件になり、警察に相談したり、届け出る必要があった。それにもかかわらず、警察はおろか、コンプライアンス室にも相談していないわけです。性犯罪事件に関しては社内で捜査できる範疇ではない。

実際、港社長は被害者と直接話しておらず、報告を受けただけで、被害者の気持ちは知らないわけです。本当は警察に相談したかったのに、それを止められたり、報告の過程で事実が捻じ曲げられていたかもしれない。

本来、そのような企業ガバナンスの観点や、刑事事件に詳しいジャーナリストが会見に入って、初動での対応や判断のミスに対し、もっと細かく聞く必要があったと思います。記者側にそういう知識が不足していたため、無駄に長い会見になってしまった印象も拭えません」

フジテレビが会見で欠けていた姿勢とは

会見中には中居氏と被害女性の認識が「一致か、不一致か」と記者が執拗に質問を続け、会場に居合わせた他の記者から「それは被害者への二次加害になる」と諫められるシーンもあった。

「密室での出来事は警察が捜査する案件ですので、そこは回答できないと思います。大切なのは当事者2人の問題と会社の問題をきっちり分けること。

本来、会社が調査するところは社員の関与です。どういう人間関係の中でその場が設定され、女性に対し圧迫感を与えるような優越的な地位の乱用があったのか否か。そこは会社として調査が出来ることなので回答すべきでした。しかし、初動から専門家を入れた調査チームを発足することもせず、現状LINEをチェックしただけで、女性へのヒアリングはできていない。それは調査とは言えません」

改めて、石川さんがフジテレビの広報コンサルタントに入るとしたら、今回の会見をどのように修正するか、ポイントを聞いてみた。

「まず一番は『経営陣の総退陣の表明』をキーメッセージにします。

それができていたら、信頼回復の第一歩になっていたでしょう。今回は責任の取り方が中途半端で、ガバナンスの変革には至っていません。社長交代も“逃げ”の印象が否めないので、実際の辞任のタイミングは事態が収まるころにするべきでした。

あとは、クライスコミュニケーションにおいて最も重要な点は、失敗の本質に対し、正直に向き合う姿勢です。判断を誤ってしまうことは人間誰しもあることです。今回の場合では『被害者のことを十分に考えることができなかった』、『企業利益を優先してしまった』と正直に言えばよかった。

『被害女性のプライバシーを優先する』という言い方より、むしろ『自分が判断を誤ったのは確かですが、どこでどう誤ったのか実は分からないんです』と正直に言ったほうがマシだったケースもあります。

不祥事が起こった際、会見の形やその有無が、どれほど企業に大きな経営危機をもたらすのかという意味では、語り継がれる会見になったのではないでしょうか」

10時間以上にわたり“CMなし”で地上波放送するという前代未聞の記者会見をしたフジテレビ。同社がこれからどう再生していくのか。新体制下での舵取りが注目される。

取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部

 

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