
週刊文春が、フジテレビに関する一連の騒動で被害者X子さんを誘ったのは、社員A氏ではなく中居正広さんだったことを“訂正”した問題。これについては「ろくに取材もしないで文春報道をうのみにした記者」や「文春の訂正前記事を拡散したこたつ記事」の責任を問う声もあがった。
激増の「こたつ記事」に怒る週刊誌記者
週刊文春は、中居正広さんと女性のトラブルに関する記事を、第1弾を報じてから3週間近く経った1月27日朝、2度目のフジテレビの会見直前に訂正した。
しかも有料の電子版で密かに行われたため、「不誠実」だと批判を招いた。
会見では訂正前の報道に基づく質問が相次ぎ、会見時間は10時間以上にもわたったことから「取り返しがつかない」との声もあがっている。
その一方で、「そもそも記者だって独自取材をせず、文春頼りというのはメディアとしていかがなものか?」といった声も聞こえてくる。
今回の文春報道に限らず、週刊誌の記事が話題になった際、ワイドショーやネットニュースで「◯◯の記事によると~」と報じられるのは、誰しも見たことがあるだろう。
特にネットニュースでは週刊誌のスクープ報道をまとめた「こたつ記事」が乱立し、 近年、問題視されている。
「こたつ記事とは 『こたつに入りながらでも書ける』という揶揄から名付けられたもの。SNSや番組の文字起こしをしただけのものもありますが、他社の記事をベースにしたものも多く、元記事の媒体からしたら“泥棒”同然です」(40代デスク)
こうした“こたつ記事”について“スクープ”を引用される週刊誌の記者たちはどう思うのか。
「ワイドショーは記事引用として使用料が発生するけど、こたつメディアはそれもない。もはや引用の域を超えてますね。『お前ら誰のスクープで飯食ってんの?』『プライドないの?』って思いますね。
はっきりいって、こたつのまとめ記事専門なんて、記者とは言えないですよ。
「最近だとほぼ、こたつ記事に特化している週刊誌のネット媒体まであって、同業者として寂しいですね。概要をうまくまとめて、最後にネットに声の賛否を書くという『型』ができあがってるし、『AIが書いてんるんじゃないの?』って嫌味ひとつも言いたくなっちゃう。
一度、こたつメディアの記者に文句を言ったら『申し訳ない。上司がそれでいいっていうんだ』って謝られました」(50代記者)
こたつ記者の反論「人を傷付けたりデマを撒き散らしたりするより…」
では、こたつ記者やこたつメディア編集者の本音はどうだろう。散々な言われようの彼らにも、言い分があるようだ。
「取材しようがしまいが、資本主義である以上、マネタイズできなければ意味がない。記者としてのプライドとか言うけど、週刊誌だって人様のプライバシーを侵害して稼いでいるわけで。そう考えたら、人を傷付けていないだけこたつ記事のほうがまだマシだと思います」(30代こたつメディア編集)
「フジ騒動では、『文春の訂正前記事を拡散したこたつメディアの罪は重い』とかって言われてますが、どっちの責任が重いかっていったら、そりゃ製造元でしょう」(20代こたつ記者)
また、前出の20代こたつ記者は自身が世間に与える影響力についてこんな分析をする。
「こたつメディアの影響力なんてたかが知れていますし、世論を作る力なんてありません。力があると思っているなら、それは過大評価しています。
本当に影響力があるのは、拡散力の強い『◯◯速報』『◯◯まとめ』といったSNSアカウントやアフィ(リエイト)ブログですよ。自分も何度も被害に遭いましたが、あいつらは記事を丸ごと引用し、リポストやコメント数が元記事より多いのもザラです」
さらに問題なのは、テキストメディアに代わって隆盛を極めている動画だという。
「SNSにあがっている芸能情報動画などは全く引用元を示さず、元記事の文末にある『だ・である調』を『です・ます調』に変えただけの読み上げ動画を山ほど投稿していて腹が立ちますね。
驚きの記事単価、低いギャラで取材できず…「貧すれば鈍する」こたつ業界
さらに別の記者は、こたつ記事が量産される構造的な仕組みも語ってくれた。
「こたつ記事を書いてもう5年ほど経ちますが、私の場合、当初の記事単価は4000円。スピードや質が認められたら5000円まで上がり、PV数に応じたインセンティブもありました。
これはまだマシなほうで、外注サイトを通じて仕事をしているライターは1文字1円なんてケースもある。
これだけ安いと、こちらに取材記事を書く気力があっても『この金額では取材に1日かけるなんてとても割に合わない』となります。さらにこたつ記事を量産させる負のループです」(30代こたつ記者B)
ならばギャラを上げて取材記事を増やせばいいように思えるが、そうもいかない台所事情があるそうで……。
「実は、コタツ業界はほとんど“斜陽産業”です。どこも余裕がないからギャラはどんどん下がっているし、そうなると、さらに“こたつ”に拍車がかかるわけです」(同)
日本のジャーナリズムは今後どうなっていくのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班