
昨年から「新米が出れば市場は落ち着く」そう繰り返していた農水省だが、スーパーではついに米の価格が5キロで4000円を超えた。高騰が止まらない事態に、7日ついに江藤拓農林水産相は備蓄米を放出する考えを表明。
備蓄米は「そこまで著しく味が落ちるということはない」
不作や災害などでコメ不足に陥っても市場に供給するために備蓄米の仕組みがあるが、これまで農水省は備蓄米の放出に対し、「民間に在庫はあり、放出が必要な状況ではない」と否定的な姿勢を貫いてきた。
しかし、2月7日に行われた江藤拓農林水産相の記者会見では、一転して放出する考えを表明。
売り渡し数量といった入札実施概要については「早ければ14日にも発表する」と述べている。
備蓄米の放出によって市場にコメが出回れば、米価の高騰は落ち着くのだろうか。茨城県内のJAの関係者はこう解説する。
「そもそも去年のコメの生産量は、その前の年よりも18万トン増えたと言われています。しかし、JAなど集荷業者は前年比にすると21万トン近く集荷量が減っているんです。
この点については異業種の企業や個人の転売が投機的な目的で入っていて、それが関係しているのではないかと言われています。そうした業者がコメの売り惜しみをして市場に出回らないため、“消えたコメ”と呼ばれているわけです。
もちろんそれだけではなく、コメの買い占めに走ったご家庭も多かったですから、一部分はご家庭でストックされているかとも思います。
いずれにせよ、備蓄米が放出されるなら、売り惜しみしていたコメの価格が落ちる前に今度は早く売り抜けたいと考えるわけですから、ある程度価格は落ち着くのではないかと思います。
ただ、それが持続的に価格の値下がりに作用するかはまだわかりません」
コメ価格の安定化の救世主となることを期待されている備蓄米だが、その味はどうなのだろうか。
「政府が保管している備蓄米について保管期間は5年間となっています。保管の状況にもよりますが、そこまで著しく味が落ちるということはないと思います。
むしろ、2023年産、2024年産とかであれば、味や香りなど新米と大差なくおいしく頂けると思いますよ」
米泥棒による被害も深刻化
前出の農家の男性にコメの値上がりについて尋ねるとこう答えた。
「野菜も高騰していますが、コメの値上がりばかりが大きく騒がれているように思います。
JAグループがコメ農家に支払う『概算金』の引き上げのせいでコメが値上がりしているという人もいますが、飼料費や農機具などが物価の上昇に伴って上がっているわけですから、仮に20%増になったとしても私たち農家は儲かりません。
昔はもっと安かったのですが、トラクターって今の価格だと1000万円近くするんですよ。農機具も値段が上がっているんです。
そうするとコメの値上がりでいったいどこが儲けているのかという話になりますが、値上がりを見越して仕入れを行なっていた中間業者や、直売や直売サイトなどの販路を持っているコメ農家は儲かっていると思います。
JAに卸すという従来のやり方でやっているコメ農家は、今の価格でようやく赤字ではないといった程度だと思います。今までが安すぎたという側面があるので、私らからすると概算金が下がってしまったら厳しいというのが本音です」
また、コメの高騰によって昨年は米泥棒による被害も深刻だった。収穫時期の8月末から11月までをピークに全国各地でコメの盗難事件が多発していた。
奈良県山添村では昨年9月に30キロ入りの玄米40袋、1.2トンが倉庫から盗まれるという事件が起きていた。奈良県内のJA関係者が当時を振り返る。
「事件の後、私の所属する部署がコメの盗難について注意喚起のメールを農家さんたちに送りましたが、私の記憶する限り、奈良県においてコメ泥棒に関する注意喚起のメールを送ったのは初めてです。
明らかにコメの価格が高騰したことで目をつけられたのだと思います。
防犯カメラなどの取り付けを推奨していましたが、今年もコメの価格が高いままならまた起こる可能性もあるので、収穫時期には注意しないとですね」
「令和の米騒動」から始まった歴史的なコメの価格高騰について、江藤拓農林水産相は『投機的なマネーゲームということは明らか』と述べている。
果たして、備蓄米の放出で思惑通りコメは売りに出されるのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 サムネイル/Shutterstock