
コメの価格高騰が止まらない。スーパーに行けば10キロ8000円台という高値のコメが並び、買い控えを迫られる消費者も少なくない。
「平成のコメ騒動よりタチが悪いね」
取材に応じてくれたのは、千葉県いすみ市の「株式会社新田野ファーム」代表取締役の藤平正一さん。同社は従業員約10名で160ヘクタールという広大な田んぼでコメを作る大規模農場だ。まず、ネットのフリーマーケットに1キロ5000円といった常軌を逸した高額なコメが出品されている現状の経緯や背景を分析してもらった。
「平成のコメ騒動(1993年の記録的冷夏による不作に伴うコメ不足現象)のときよりタチが悪いんじゃないのかと思うね。ウチは親父の代から稲作をやっていて、俺が専業で始めて25年になるんだけどさ。平成のコメ騒動のときは冷害でコメが取れなかったんだけど、あのときは60キロ(1俵分)4万~5万円くらい、一番高いやつだと6万円で売れたんじゃないかな。
それが今回は凶作とかが理由ではなくて、みんなが隠しちゃったというか、コメを確保しておきたいという思いがあったんだろうね。俺もそうだけど、大きな農家ほどJA(農業協同組合)とは取引はしない。なぜかといえば、一般の米穀商に出したほうが最初から2000円~3000円は高いんだから。去年はこの辺だとJAの買取値段が60キロ1万7千円~2万円なのに比べ、一般の米穀商なら2万3000円の値段をつけていたからね」
コメ騒動の予兆はいつ頃から感じていたのだろう。
「こんな騒動になる前から、需要が上がっていたのか『売れ口が多くなったな』という感触があった。米騒動になってからは取引している国内大手の米穀商が『あるだけお米を売ってほしい』と言い出す事態になった。一般のお客さんも増加していったけど、いわゆる転売目的の人が買い付けに来だしたのは今年に入ってから。
ウチとしても長年買いにきてくれるお客さんの分を優先して確保しているんだよね。転売目的で来るのは1回こっきりって感じでしょ。でも、ウチも生活があるから、そういう新規のお客さんには割高で60キロ2万9000円~3万5000円で売ったよ。それでもお米屋さんで買えば4万円以上するわけだから。転売してる人たちは、それを5キロに小分けして4500円ぐらいで売ったんだと思うよ」
コメと人を「セット販売」する人材派遣会社も…
たしかにインターネット上には“にわか転売ヤー”があふれている。
「お米売ります、ってサイトいっぱいあるでしょ。バイト感覚でやってる人が多いのかな。まあ、うちみたいな農家から60キロ2万9000円~3万5000円で買っても、2万円以上は儲かるんだ。転売目的で来るのは日本人が7割くらいで残り3割が中国人を含めた外国人だね。日本人はネット転売が目的の個人だけじゃなくて、この間は人材派遣の会社が買い付けに来たよ。
話を聞くとコメを直接転売するというよりは、飲食店に人とコメをセットにして出すようなことをしていきたいと言っていたよ。飲食店はおいしいお米じゃなきゃいけないし、お米をつけるから人を雇ってくれって感じなんだろうよ。1200キロ分欲しいってことだったけど全部は売らなかった」
コメと人を「セット販売」する人材派遣会社の思惑はよくわからないが、さまざまな異業種企業が「儲かる」と今のコメ市場に参入する現状は伝わってくる。
「中国系の人は飲食店をやってる人が多いけど、買ったコメをお店で使うというよりは転売しているみたいだね。びっくりしたのは1人に10俵販売すると、次々に『ウチにも20俵売ってくれ』と仲間がやって来る。だいたいは東京とか横浜とかだったな。中国人はコミュニティが強いから店頭で売ってることもあるみたいだ。
『小分けにして売るんだ』ってはっきり言ってくる中国人もいたから『お前さん、今流行りの転売ヤーか』って聞いたら『そうだ』って。そういう人はコメだけじゃなくて何でも売り買いしているブローカーみたいな人らで、1人とか2人で来るよ。でも、全員がそうではなくて『コメがなくて(店の)仕込みができない』っていう中国人もいたけどね」
異業種は去年の1月ごろから、転売ヤーは今年に入ってから…
商機を逃さないブローカーたちが群がり、家庭の米びつがカラになる悲しい現実がある。「市場に任せる」という新自由主義が、国民を飢えさせる元凶になっていることは否めない。
「ある中国人は15俵とか買ってたから900キロだな。
でもな、ウチには以前から毎週、毎月買いにきてくれるお客さんが2000人くらいいて、そういう人たちに『コメないよ』なんて言えないから、転売屋にはちょっとしか売らないんだよ。俺がここでコメを売ってるのは毎週、毎月来てくれる人のためだからさ。いくら高く買い取ってくれるって言ってもやっぱり商売長い目で見なきゃ。だからもう転売ヤーには売らない。相場が下降線になったら転売ヤーなんてもう来ないんだから…」
大規模農家をも悩ませる、「令和のコメ騒動」は、政府の備蓄米放出で解決できるのか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班