相次ぐ「コオロギ」企業の倒産…大炎上に不買運動…それでも「コオロギ食は選択肢のひとつ」と語るコオロギ食メーカー社長の警告〈食糧難の未来〉
相次ぐ「コオロギ」企業の倒産…大炎上に不買運動…それでも「コオロギ食は選択肢のひとつ」と語るコオロギ食メーカー社長の警告〈食糧難の未来〉

コオロギをはじめとした昆虫食が世界的な食糧難を救うと一時期はさかんに議論をされていたが、昨今は食用コオロギの生産を手がける企業が次々と倒産する事態に。コオロギ食の現場で何が起こっているのか。

日本で初めてコオロギ食のお菓子を量産したメーカーと言われている株式会社MNH(東京都調布市)取締役社長の小澤尚弘氏に尋ねてみた。 

「コオロギ給食」の炎上をきっかけに市場は縮小傾向に

「2020~2022年にコオロギ食が世間の注目を集めた時期は、例年の6~7倍近く売り上げが急増していました。それが今ではもとの売り上げに戻りましたね。現状で言うと、コオロギ食に関して世間はまったく関心がなくなったというふうに捉えています。以前は『コオロギなんて売るな』という電話もかかってきたりしていましたが、そういうのもなくなりました」

日本で初めてコオロギ食のお菓子を量産したメーカーと言われる株式会社MNH(東京都調布市)の小澤尚弘社長はこう話す。

「市場は縮小傾向にあり、それに伴ってコオロギ食に関する企業が立て続けに倒産しています。昨年、食用コオロギの国内生産量ナンバーワンだったグリラスが自己破産したというのは業界的には大きな話でした。この流れのきっかけは、グリラスが徳島県立高校で提供したコオロギ給食でしょうね」(小澤氏、以下同)

2022年にグリラスはコオロギの粉末を使用したコロッケを学校給食で提供した。当初は「昆虫食を通してSDGsを学べる」という好意的な声もあったが、SNSを中心に「コオロギを子どもに食べさせるな」とまたたく間に炎上した。コオロギ給食を発端に、コオロギ食全般を否定する声がSNS上に溢れていったという。

 「SNS上には『コオロギは毒だから食べるな』『妊婦に良くない』などの声や、『コオロギを食べると酸化グラフェンが体内で生成されてそれに電波を出すと人間が操れる』、そんなことまで言われるようになっていきました。もちろんですが、これらのことに科学的な根拠って何もないんですよ。

逆に言うと、それらを完全に否定するだけの科学的な根拠もないのですが、世の中にある食品ってほとんどそんなものだらけなんです。

ただ、科学で否定することもできないわけですから、いろいろな学者さんたちも黙ってしまざるをえなかったんですよね。そうなるともう言われっぱなしの状態になるわけです。これでガーンっとコオロギ食を取り扱ってくれるところは減りましたね」

「コオロギ粉末入りパン」が発売されると不買運動にまで発展 

とはいえ、企業もあえて火中の栗を拾うような真似をするはずもなく、市場の縮小は続いているという。

「取り扱いたくない企業の気持ちもわかります。先程も言いましたが、コオロギが食品として危険なのか危険ではないのかという議論をすれば、科学的な根拠はないわけですから、見方もさまざまになります。

EUの食品安全機関は、コオロギについては食品として安全だと認めています。健康被害をどこまでのレベルで言うのかという問題はありますが、アレルギーがメインだと思うんです。日本では、食べている人が少ないので事例がとれないでしょうが、今のところ昆虫食についてのアレルギーは認定されていません。

企業も健康被害を引き起こすリスクではなく、取り扱うことで世間から叩かれるリスクを考えて今は様子見という感じなのでしょうか」

炎上したのはコオロギ給食だけではない。「超熟」シリーズが人気の敷島製パンもコオロギ粉末入りのパンを発売すると、同社のTwitter(現X)には非難の意見が多数書き込まれ、不買運動まで起こった。

「あのときはすごかったですね。『超熟にもコオロギが入っているんじゃないか』って、もう言っていることがめちゃくちゃでした。実験的に参入していた企業もみんな手を引いてしまいました。

我々もですが、強制的に食べてくれと言っているわけではなく、食べてみたい人が食べてみてくれたらいいと思っているんですけどね。僕も今でもうちで出している乾燥コオロギに味付けした商品を食べていますが、おいしいですよ。

コオロギ食に関していろんな意見があるのはいいことだと思います。そしてある一定の時期にたんぱく源が不足するというのはたしかなはずです。そのときに慌てても遅いので火種は絶やさないようにしよう、そんなふうに僕は思っています」

「今は楽しんで食べてもらえればそれが一番」 

国連によれば、2050年には世界人口が90億人を超え、食糧危機が深刻化すると見込まれている。そうした中、日本能率協会総合研究所では2025年には昆虫食の市場は1000億円規模になると予測していたが、実際はどうだろうか。

「世界的な見方ですと、たんぱく源の不足が起こるのは2030年と言われています。もう5年後とかそんなものです。世界的に見れば昆虫食は推進していると思いますよ。例えば去年、シンガポールが昆虫食の販売を許可するなど動きは広がっています。

コオロギ食、昆虫食の市場規模に関しては、もともと描いていたカーブよりはゆっくりした曲線で上がっているという感覚です。ただ先程も言いましたが、昆虫食に関しては、たんぱく源の減少が起こればそのまま食べるだけでなく、豚とか牛のエサにして育てる促進をするなど、さまざまな動きが起こると思っています」

現在「国内では昆虫食を推進していくといった目立った動きはない」と語る小澤氏。

だが、今あるものが地球環境の変化によって維持できなくなる可能性があるという。

「お米も一緒だと思いますが、手に入らないという現実に直面しないとなかなか変わらないかもですね。現に今は鳥も豚も食べられますし、食糧に困るという実体験もないだろうし感じる場面もないかと思います。

ただ、世界的な潮流として『たんぱく源が足りなくなるから必要なんだ』と言われているわけです。ですから、僕はコオロギブームとかにならなくても別にいいのかなと思います。食のブームとしてやっているわけではなく、ひとつの選択肢としてやっているわけです。まあ、今は楽しんで食べてもらえればそれが一番です」

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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