
昨季の大谷翔平は打者として、本塁打王・打点王に加え、史上初となる50本塁打・50盗塁を達成し、世界トップクラスの打者であることを改めて証明した。そして今シーズン、2023年9月に受けた2回目のトミー・ジョン手術のリハビリを経て、投手としても復帰し、再び二刀流に挑む。
二刀流がチームに与える影響
3月18日、ワールドチャンピオンに輝いたロサンゼルス・ドジャースが東京ドームで開幕戦を迎える。2年連続でMVPを獲得し、メジャーリーグで「二刀流」を確立した大谷翔平ももちろん出場予定だ。
大谷翔平が「二刀流」としてプレーすることは、もはや、いち選手の挑戦に留まらない。
現在、投手・大谷の復帰時期は未定だが、マウンドに立てばサイ・ヤング賞を狙え、バットを握れば世界最高峰のスラッガー、そんな大谷はデータで見ても他の選手とは一線を画す価値を生み出しているのだ。
その影響を定量的に示す指標の一つがWAR(※1)。大谷の2021年から2024年のWAR合計はMLBダントツの37.9を記録。
2位はアーロン・ジャッジで31.8。3位のフアン・ソト(いずれもニューヨーク・ヤンキース)は26.1と、大谷とは10以上の差がついている。
大谷の年平均WARも驚異の9.5。(MLB平均は約2.0、オールスター出場クラスの選手でも5.0~7.9)今年は8.1と予測されているが、毎年予想値を超えているのが大谷のスゴさだ。
そして、ロースター枠(登録枠)が40人に限られたメジャーリーグにおいて、二刀流で稼働することはチームにも大きなプラスをもたらす。
こうした大谷の活躍は、投手か打者、どちらかひとつを選ばなければならなかった野球界の常識を覆し、今なおベースボールの未来を変え続けている。そんな大谷の価値は単なるWARやスタッツなどデータだけでは測れるものではないのだ。
(※1) Wins Above Replacement=選手がチームに貢献した度合いを表す指標。打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して、控え選手と比較してどれだけチームの勝利数を増やしたかを表す
過去二刀流シーズンの課題
昨年は打者に専念した大谷だが、二刀流への完全復活が期待される今シーズンはどんな成績を残すのか。ここで二刀流時代の成績を振り返ってみよう。
15勝9敗、投球回166、219奪三振と投手としてのパフォーマンスが高かった2022年の打撃成績は打率.273、34本塁打、95打点、OPS.875と大谷にしては物足りなかった。二刀流に挑むシーズンは6月をピークに、7月は疲れの影響で成績を下げる傾向にあった。
それが2023年はシーズン前にWBCに出場したものの、投手として10勝5敗、投球回132、167奪三振、防御率3.14としっかりエース級の活躍をしつつ、打者として打率.310、44本塁打、95打点、OPS1.066という圧倒的な成績を残した。
つまり、今シーズンは投手復帰となれば、6月以降も状態を維持することがカギとなりそうだ。
その点で、ドジャースに所属しているメリットが出てくると筆者は見ている。というのも、ドジャースは野手の選手層が非常に厚く、休養日をとりながら出場することも可能だからだ。
最初のトミー・ジョン手術明けとなった2020年の投手成績は未勝利でキャリアワーストだったこともあり、2度目のトミー・ジョン手術明けの今季ももちろん不安はある。
しかし、2022年のようなピッチングができればサイ・ヤング賞争いに加われる可能性も高い。
野手タイトルとサイ・ヤング賞の両方を獲得することになれば、3年連続のMVPも視野に入る。まさに“大谷一強時代”だ。
長期的に見れば外野手転向もあり?
しかし、二刀流は身体への負担が大きく、ケガのリスクと常にとなり合わせでもある。
特に投手としては2018年と2023年に2度のトミー・ジョン手術を経験しており、速球とスプリットを多用する大谷の投球スタイルは肘への負担が大きく、再発のリスクも高い。
長期的に見ると二刀流のままいくのか、打者と投手のどちらかに専念するかは重要なテーマになるだろう。
現実的には投手としては短いキャリアで高いパフォーマンスを発揮していく形になっていくのがベストではないかと見ている。野手としては現状、指名打者としてプレーをしているが、外野手に挑戦するのもおもしろいと思う。
というのも、打撃技術だけでなく、アスリートとしてのセンスの高さを鑑みれば、守備タイトルの獲得だって夢ではないからだ。打撃タイトル、さらに外野手でゴールドグラブ賞を受賞したとなれば、文句なしの「世界最高の野球選手」になれる。
とはいえ、個人的な願望を言えば、やはりできるだけ長いシーズン、投打でタイトル獲得やトップクラスの成績を残し続けてもらいたい。
これも野球ファンのわがままと言えばそれまでだが、大谷なら叶えてくれるのではないかという期待がどこかにある。
文/ゴジキ