〈日本郵便 支援策650億円〉「財源がない」議論はどこヘ…参院選前に自民が「郵便ネットワーク維持」目的で支援策ゴリ押し…国民民主・立憲が反対できない根深い事情
〈日本郵便 支援策650億円〉「財源がない」議論はどこヘ…参院選前に自民が「郵便ネットワーク維持」目的で支援策ゴリ押し…国民民主・立憲が反対できない根深い事情

「財源がない」とつっぱね、国民民主党との「103万円の壁」撤廃に向けた協議を打ち切ったのは何だったのか。自民党が郵政民営化法の改正案をまとめ、年間650億円を日本郵便に流す支援策を今国会で通そうとしている。



この支援策の財源は、日本郵政の配当金が大部分であり、本来これは国の収入となっている。「郵便ネットワークの維持」という大義名分を掲げているが、参院選前に票田を確保する狙いも見え隠れする。

郵便局と自民党の蜜月

3月13日、自民党は「郵政事業に関する特命委員会」などの合同部会を開き、650億円の支援策を含む郵政民営化法の改正案に大筋で合意。野党との協議を経て、議員立法で今国会への提出を目指す。

この650億円は郵便局の人件費などに充当するというが、法改正が可決されれば、2026年度以降の配当金を2027年度から交付することになる。

日本郵便は2023年度に896億円の営業損失を出し、2年連続で赤字になった。これはメールの普及で郵便物が減少していることが背景にあるが、抜本的な経営合理化が進まないという別の理由もある。

郵便局数は全国で2万3000局と膨大だ。そのうち8000局近くは過疎地にあり、1日の客数が20人以下というば事業所も珍しくない。小泉純一郎内閣で推し進め、2007年からスタートした郵政民営化法では、郵便や貯蓄、生命保険などのサービスを一体的に提供することが定められた。

これを「ユニバーサルサービス」と呼び、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険が日本郵便に窓口手数料を支払って、この仕組みを支えていた。総額で年間3000億円近くにものぼる。

2019年にはこの建付けを変え、「独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理」「郵便局ネットワーク支援機構」に両社が資金を拠出し、日本郵便に交付金を支払うという形に改めた。

独立行政法人を引き入れ、補助金などの資金援助を受けやすくしていたようにも見える。

民営化したのであれば、こんなややこしいことをせずに過疎地の郵便局を統廃合するのが筋だ。しかし、法律でがんじがらめになっているため、大胆な効率化を進めることができないでいる。

一方で、これには政治的な思惑も見え隠れしている。

2023年に日本郵政の増田寛也社長が、日本経済新聞のインタビューに応じ、2040年ごろをめどに郵便局の整理が必要になると語ったことが話題になった(「日本郵政、郵便局の統廃合検討 増田社長「整理が必要」」)。経営者としては至極真っ当な考えだが、増田氏はその発言の直後に火消しに追われることになった。「全国郵便局長会」が抗議したためだ。

この団体は全国の郵便局長で構成されており、自民党の強力な支持団体として知られている、巨大な票田だ。その影響力は強く、経営合理性を飛び越え、法整備で自分たちの活動基盤を守っているようにさえ見える。

なぜ過疎地の郵便局を合理化しないのか

民営化前の郵便局には「普通郵便局」と「簡易郵便局」のほかに「特定郵便局」があった。財政難だった明治時代に郵便局を普及させるため、地元の名士や大地主に土地と建物を無償で提供させ、郵便事業を委託したのだ。

局長は25歳以上~55歳以下で、国家公務員としての欠格事由に該当しない場合は応募することができ、公募されずに特定の関係者が採用されるという独特の慣例があった。このときの局長が中心となって組織されたものが、現在の全国郵便局長会である。

民営化されて普通郵便局と特定郵便局の区別はなくなったが、およそ1万9000局は旧特定郵便局で、小規模局がほとんどだ。

現在は一般の「郵便局」と「簡易郵便局」の2つの区分に分かれたが、簡易郵便局は日本郵便と個別契約を結んだ事業主が運営する郵便局だ。全国に4000局存在し、郵便業務や貯金、保険などの業務を行なっている。

委託料は固定と変動の2つで構成されており、固定報酬は毎月31万2000円ほど。これに加え、窓口業務の取扱量に応じた額が得られる。経営の効率化という観点で見れば、一般的な郵便局から簡易郵便局への切り替えが進んで然るべきだ。

しかし、これが進んでいるようには見えない。

民営化後、過疎地で営業している普通郵便局の数は155局増加したが、より運営コストの低い簡易郵便局に切り替わったのはわずか47局だ。郵便局の数が多い都市部の郵便局は統廃合が進んでいるものの、客数が少ない過疎地の小規模郵便局は非効率な状態で残されている。

今、650億円の支援策を決めた理由

自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」が財政支援に動いたタイミングも気がかりだ。2025年は参議院議員選挙が行なわれるため、それを見越していたとも見て取れる。地方の組織票の獲得だ。

「日本郵政」という会社は極めて特殊で、メジャーな政党は軒並み口封じされているかのようだ。国民民主党最大の支持基盤、連合を構成する巨大な組織の一つに「日本郵政グループ労働組合」がある。組合員数はおよそ22万人。国内最大の単一労働組合だ。この労働組合の政治団体「郵政未来研究会」は立憲民主党の支持母体だ。

つまり、労働組合がバックにつく国民民主党や立憲民主党も、郵便局を積極的に減らすという提言ができない。国の収入であるべき650億円の支援に反対できないのだ。

日本郵便がユニバーサルサービスを提供する意義や目的は十分に理解ができる。過疎地の郵便局ではマイナンバーカードの受付事務などを受託しており、住民への利便性向上や自治体の業務負荷軽減に貢献しているのも事実だ。郵便局が消滅することに不安を覚える住民も多い。

しかし、ユニバーサルサービスという大義名分のもとで公金を流し続け、中長期的に人口減少が明らかな日本において郵便ネットワークを維持し続けることが、あるべき姿ではないはずだ。民営化した日本郵便がゾンビ化するだけである。

統廃合や経営効率化の十分な議論がなされないままに650億円の支援を決定するというのは、あまりに拙速であるように見える。

取材・文/不破聡   写真/shutterstock 

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