〈風俗嬢の人気源氏名ランキング〉総勢41万人の頂点は⁉ その納得の理由と、日本人が江戸時代の遊女から受け継いできたもの
〈風俗嬢の人気源氏名ランキング〉総勢41万人の頂点は⁉ その納得の理由と、日本人が江戸時代の遊女から受け継いできたもの

「風俗嬢の人気源氏名ランキング」を過去に数度作成し、『タモリ俱楽部』にも出演歴のある作家の山下素童。本記事では、その最新版を紹介する。

そこにあったのは、江戸時代から続く、日本人ならではの感性だった……? 

「るな」「なな」と続いて、1位は…? 

「日本で一番多い風俗嬢の源氏名」はなんだと思いますか?

こんなクイズを出されて、正解できる人は少ないのではないでしょうか。あまりに考えたことがなさすぎて、検討すらつかないかもしれません。

どうしてこんな質問をしたのかというと、「風俗嬢の源氏名ランキング」を作成したからです。方法としては、日本で一番アクセス数の多い風俗情報サイトである「シティヘブン」の2025年1月時点のデータを集計しました。

シティヘブンがどのくらいの規模感のサイトか説明をしておくと、Webサイトのアクセス解析を行っている「SimilarWeb」が作成した、日本のWebサイトのアクセスランキングで、21位にランクインしているサイトです。

これは、食べログやメルカリよりも上位の順位となっています。日本人の日常に根づいているそれらのサイトよりアクセスを集めているというだけで、シティヘブンがどれほど大きな規模のサイトかわかるのではないでしょうか。

データを集計した2025年1月時点で、シティヘブンには全国40万人以上の風俗嬢のデータが登録されていました。今回はその全てのデータ対象とし、風俗嬢の源氏名ランキングTOP10を作成してみました。

「風俗嬢の源氏名ランキング」なんて聞くと、ただのお遊び企画かと思われるかもしれませんが、どうかそう判断しないでいただきたいです。

たとえば、ベネッセコーポレーションが発表している「赤ちゃんの名前ランキング」のデータ数は約26万です。

一方で、風俗嬢の源氏名ランキングのデータ数は先に述べた通り40万以上です。もちろん、データの母数の大きさがただちに分析の質を決めるわけではないですが、分析しがいのあるデータであることは間違いありません。

前置きが少し長くなりましたが、「2025年の風俗嬢の源氏名ランキングTOP10」を発表したいと思います。

順位は上から「さくら(1001人)」「なな(968人)」「るな(939人)」「もも(937人」「りん(935人)」「あおい(914人)」「のあ(913人)」「めい(889人)」「れい(870人)」「ゆい(859人)」といった結果になりました。

風俗譲というとどこか非日常な存在に思えるかもしれませんが、人気の源氏名には意外にも普通の名前が多いことがわかるのではないでしょうか。「りん」「あおい」「めい」「ゆい」なんかは、赤ちゃんの名前ランキングでもよくトップ10に入ってくる人気な名前です。

ランキングの中でもやはり特に注目すべきは、1位の「さくら」です。最新のベネッセの赤ちゃんの名前ランキングでは43位ですが、風俗嬢の源氏名ランキングだと堂々の1位を誇ってます。

「さくら」という名前から連想されるのは、もちろん春に咲く花である桜です。日本人にとって、桜ほど馴染みのある花はありません。

学校の校庭や公園には決まって桜の木が植えられていますし、100円玉の裏のデザインや、警察官の階級章のデザインも桜です。毎年1月には全国の桜の開花予想が発表され、3月になるとテレビやネットで桜の開花状況が毎日のように報道されます。

それほど注目を集めている桜はときに「国花」と称されるほど、日本人に親しまれています。

 「さくら」という花 

今度はそんな「さくら」という源氏名にのみ焦点を当て、「さくら」という名前が1年のうち何月につけられやすいのか調べてみました。方法としては、風俗嬢の入店月ごとに源氏名のランキングを集計し、「さくら」の各月の順位を整理してみました。

「さくら」という源氏名がもっとも命名されやすい月は、何月だと思いますか? 冒頭の質問とは違って、こちらは多くの方が正解を導き出せるのではないでしょうか。集計結果は以下になります。

1月が11位、2月が2位、3月が1位、4月が2位、5月が4位、6月が15位、7月が5位、8月が14位、9月が7位、10月が13位、11月が4位、12月が5位。

一年のうち最も「さくら」という名前が付けられるのは3月で、その前後の2月と4月にも多く付けられていることがわかる結果となりました。 

「さくら」という源氏名がもっとも命名されやすい月が3月というのは、多くの方の予想通りだったのではないでしょうか。春になると日本中の桜が一斉に花を咲かせるように、風俗店でも「さくら」という源氏名が一斉に花を咲かせるようです。  

桜好きがもたらしたもの 

ところで、どうして日本人はこんなにも桜が好きなのでしょうか。

桜と日本人の関わりあいの歴史を分析した本に、社会学者の佐藤俊樹さんによる『桜が創った「日本」』(岩波新書)があります。

この本の面白いところは、「日本全国に一斉に咲き誇り、一斉に散ってゆく桜」という現代の日本人の誰しもが思い浮かべる桜のイメージが、明治時代以降のたった100年ちょっとの間に形作られてきてものであることを教えてくれるところです。

現代の日本においては、ソメイヨシノという品種が全国の桜の8割以上を占めていますが、明治以前には1つの品種の桜が日本中を席巻するようなことはなかったようです。そのような時代には花見の仕方も現在とは異なっていて、開花する時期の異なる多品種の桜が植えられていたので、一つの品種の桜が散ってもまた別の品種の桜が咲くことで、色や形の異なる桜を1ヶ月の間に渡って楽しむことができたようです。

ゆえに「日本全国に一斉に咲き誇り、一斉に散ってゆく桜」という桜のイメージは、明治以前には存在していなかったのです。

それではどうして、明治時代以降にソメイヨシノという1品種の桜が全国を席捲するに至ったのでしょうか?

その理由は、ソメイヨシノが他の品種の桜に比べて接木の成功率が高く繁殖させやすかったことや、値段も安く大量生産に向いていたことから、官庁や企業、宗教法人が計画的に空間を早く美しく飾るのに都合がよかったからだそうです。

そのような事情から、日本が近代化してゆく過程で新設された学校の校庭や公園、住宅地の街路などに、ソメイヨシノがどんどんと植えられてゆくことで、日本全国でほとんど同じ時期に、同じ色の、同じ形をした桜が一斉に咲いては散ってゆくという、今の日本人に馴染みのある桜のイメージが形作られていったそうです。

そのように日本全国が同じソメイヨシノという品種の桜に覆われて初めて、メディアを介して桜の開花時期を共有するという文化も生まれ、「国花」と言われるほどに桜は親しまれるようになったのでした。

3月になると全国で一斉に桜の開花を期待するという、明治以降に培われてきた日本人の心性が、3月になると風俗嬢に一斉に「さくら」という源氏名がつけられる現象からも読み取れるのではないでしょうか。

そしてそこにはさらに、江戸時代以来の日本人の心性も、垣間見ることができるように思うのです。

江戸時代の遊女に託したもの  

江戸時代には、「春」という言葉が「性愛」を指す隠語として使われることから、遊郭で働く女性が客に性的サービスを提供することを「春を売る」「春をひさぐ」と表現しました。そしてそこで働く女性は、その美しさと儚さ故にか「花」に例えられ、遊女はときに「花魁」と呼ばれ、彼女たちが働く街は「花街」と知られていました。

この、性愛を「春」という季節に重ね、遊女を「花」に見立てる感性が、時代を超えて令和の現代にも脈々と受け継がれているように思うのです。

ソメイヨシノが咲き誇る春の訪れとともに、多くの風俗嬢に「さくら」という源氏名がつけられ、そんな春を象徴する花の名が源氏名ランキング1位に君臨しているのを見ると、遊女に「春」と「花」の象徴性を託してきた江戸以来の文化との連続性を感じずにはいられません。

意識的か無意識的かに関わらず、風俗嬢に源氏名を与える行為には、単に名前をつけるという目的以上に、言葉のもつイメージを受け継いでゆくという文化的な意味合いが込められているのでしょう。

そして、江戸時代に遊女に付与されていた「春」や「花」のイメージを受け継いでゆく役割を今の時代に担わされているのが、明治の世を経て国花と言われるまでになった、「さくら」ということなのではないでしょうか。

文・画像/山下素童

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