
姫路・倉敷・宇野港・高松港・松山・今治-。瀬戸内海に隣接する主要都市と絶景スポットの全8ルートを最大6日間かけて巡る日本一長い“超豪華”定期観光バスの運行が3月25日から始まった。
総工費1億円以上のバス車内のこだわりは…
東京駅から新幹線で3時間かけて姫路駅(兵庫県)に降り立った。日本初のユネスコ世界遺産に登録された姫路城の存在感を背後に感じながら、駅前で出迎えてくれたのは、鮮やかなブルーの車体が印象的な定期観光バス「YUI PRIMA OLIVIA」(神姫バス)だ。
神戸・姫路・倉敷・宇野港・高松港・松山・今治・宮島口・尾堂-といった瀬戸内の主要都市と観光地を結ぶ全8ルートを最大6日間かけて定期運行する。もちろん1日のみの乗車も可能で、気になるスポットで降車し、伝統工芸体験や歴史的名所を観光・宿泊できる。首都圏在住者やインバウンドのアクティブ層を中心に、なかなか足を伸ばしづらい瀬戸内エリアの魅力を知ってもらうことが狙いだ。
今回は8ルートのうちの一つである「世界遺産姫路城発・岡山県倉敷市の散策コース」を体験すべく、午前11時に姫路駅を出発し倉敷へと向かった。
バスに乗り込むと、木材を基調とした車内の至るところに植物柄のデザインがほどこされ、暖かく落ち着いた雰囲気に仕上がっていた。
バスの総工費は1台につき1億円以上という力の入れよう。バス全体のデザインを担ったのは、世界的デザイナーとして知られる水戸岡鋭治さんだ。
車体のブルーは、瀬戸内海の壮大な自然をイメージし、車内のアーチ形の天井には日本の伝統美を取り入れた植物柄のデザインをほどこした。さらにハイタイプのワイドな窓で絶景を一望できる仕組みにしたうえ、バス後部にはバーカウンターも設置し、地酒も楽しめるようになっている。
「車内にはWi-Fiや化粧室も完備しており、全路線に日本語と英語対応の専属アテンダントも同乗しています。関西でインバウンドが増加する中、アクセスの課題を抱える瀬戸内エリアにも足を伸ばしていただきたく、長距離移動を快適に過ごせる工夫を至るところに凝らしています」(神姫バスの担当者)
倉敷の隠れたスポットを名家子孫が案内
ゆったりとしたシートに腰を下ろし、瀬戸内の絶景を堪能しながらバスに揺られること約2時間半。岡山県の名所・倉敷美観地区に到着した。
白壁の蔵屋敷など歴史的な建造物が立ち並び、柳並木とレトロな西洋建築が調和した美しい街並みは国内外問わず人気を集めている。
倉敷美観地区の定番スポットといえば、「大原美術館」や「倉敷アイビースクエア」などの文化施設ほか、倉敷川にかかるアーチ型の「今橋」から見える風景だが、今回は江戸時代から300年以上続く家系で、倉敷を知り尽くしたガイド2人が隠れた名スポットも案内してくれた。
案内してもらったのは、案内役の一人・原浩之さん行きつけの老舗喫茶店「珈琲 UEDA」。レトロな店内には珈琲の香りがたちこめ、なんとも落ち着く空間になっている。店主の高齢なママさんの手作りサンドイッチやカレーは絶品で、その気さくな人柄と看板猫の存在が地元住民の心の癒しとなっているという。
そのほか、倉敷の伝統和菓子「むらすゞめ」を販売する和菓子屋を巡ったり、美観地区の街を歩きながら、歴史を学ぶツアーを思う存分堪能した。
神姫バスが提供する全8ツアーの中の一つに組み込まれている倉敷美観地区だが、それ以外にも厳島神社や有馬温泉、道後温泉などの観光地に訪れたり、四国遍路やうどん作りなどの体験サービス、また瀬戸大橋やしまなみ海道、とびしま海道など風光明媚な観光拠点にも足をのばせる豪華ツアーとなっている。
「瀬戸内地域は、東西450キロメートルに700を超える島々を有し、その景色の美しさは“多島美”とも表現され、日本で最初に国立公園に指定された地域でもあります。美しい景色を『見る』、郷土料理を『食べる』に加えて、『現地の人に会う・話す・体験する』という観光も提供しております。
都会の喧騒から離れ、ひと時の豪華で快適なバス旅を堪能した記者。瀬戸内の美しい景色に囲まれ、その壮大さと歴史の深さに思いを馳せながら、帰りの車内で静かに眠りについたのだった。
■「YUI PRIMA OLIVIA」 座席数は21席。基本ルートは一律6万3000円(税込み)で、1日分のバス乗車料金とコンテンツ体験料、車内フリードリンクやアメニティグッズ料金も組み込まれている。またオープン記念として9月末までは日本人限定で3万円(税込み)で利用できる。
取材・文・撮影/木下未希 集英社オンライン編集部