
昨季プロ野球パリーグで、49勝91敗3分勝率.350と歴史的最下位に沈んだ西武ライオンズ。昨年の雪辱を果たすべく臨んだ今季も開幕から3連敗と苦いスタートとなった。
「優勝はマストではない」
今季開幕カードで西武に3連勝した日本ハムの分厚い選手層&多彩な駒を見ながら思い出したのが、4年前の2021年秋、就任会見で波紋を広げた新庄剛志監督の宣言だった。
「優勝なんか目指しません。一日一日勝利を積み重ねて、9月頃に優勝争いをしていたら、さあ、目指そう、そういうチームにしたい」
プロ野球チームは優勝を目指さなければならない――。
そんな常識を覆す発言のとおり、二軍を含めた若手にチャンスを与えながら清宮幸太郎や万波中正を主軸に育て、さらに俊足の五十幡亮汰や好守の内野手・上川畑大悟らも実戦の中で成長させ、就任4年目の今季は優勝候補に推されるほどの戦力を整えてきた。
翻って昨年、49勝91敗3分で勝率.350と歴史的最下位に沈んだのが西武だった。パ・リーグ最多優勝回数を誇る名門の再建を託され、半年前に就任したのが西口文也監督だ。はたして就任1年目の2025年シーズンから優勝を求めるのか。新指揮官の隣で会見に出席した飯田光男本部長兼編成統括(現・常務取締役)に尋ねた。
「当然優勝は目指していきますけども、優勝がマストっていうことではなくて、しっかりとしたチームの強さは積み上げが必要だと思いますので、いかに成長していけるかを主眼に置いていきたいと思っています」
飯田氏は西武鉄道からライオンズへの出向できた人物。新庄監督の世間を多分に意識した表現とは異なるが、「優勝はマストではない」と公言したことに驚いた。すぐに結果を求める以上に、チームの継続的な成長を目指す。球団再建はすぐにできることではないという、覚悟の感じられる宣言だった。
「野手が伸びない」「チームの雰囲気がゆるい」という近年の悪循環を脱するべく、鬼軍曹の異名を持つ鳥越裕介ヘッドコーチ、卓越した野球理論と感性で知られる仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチら“外様”を招聘。「やるのは選手だから」と二人は口をそろえるが、コーチ陣にOBを重用してきた西武にとっては大きな変化だった。
「朝起きたときから準備は始まっている」と言う鳥越ヘッドを中心に、攻撃では一塁までの全力疾走、守備ではカバーリングや声の徹底に加え、挨拶、人の目を見て話すという普段の姿勢から改善を求めた。昨年までキャプテンを務めた源田壮亮は開幕前、チームの変化をこう話している。
「普段の練習からやっておかないと、試合の一瞬ではできないよということでした。それをチーム全体として目指しているという。(チームの雰囲気は)めちゃめちゃ変わっています」
オープン戦で見えた希望の種
オープン戦は2位でフィニッシュ。球界屈指の投手陣が12球団トップのチーム防御率1.96を記録し、打線も同2位の打率.269を残した。調整の意味合いが大きく、公式戦は別物と頭ではわかりながら、「今季は変われる」と淡い期待も抱かされた。
だが開幕戦ではエース・今井達也が奮闘するも、0対2で完封負け。2戦目も先発・渡邉勇太朗の好投を活かせず2対3で敗れた。3戦目は昨季0勝11敗の先発・髙橋光成が5回6失点と崩れ、終盤に追い上げるも5対7で3連敗。投打が噛み合わず、打線は「あと1本が出ない」という既視感の強い負け方で、ずっしりと響く3連敗だった。
チームの雰囲気が、オープン戦の頃から変わってしまったのだろうか――。その質問に大卒11年目の外崎修汰は頷いた。
「オープン戦は結果も出さなきゃいけないですけど、結果にフォーカスを置いているというより、過程や内容のほうが大事。でも公式戦になったら、絶対的に結果のほうにフォーカスがあるので。
オープン戦だったらどんどん振っていく中で対応するものが、(公式戦では)初球の甘い変化球とかに手が出しづらいというか、一歩引いちゃう部分は多少あると思うので。そこは違いますね」
球団再建は簡単な道のりではない。それを改めて痛感する開幕3連敗だったが、希望の種も見えた。
象徴がオープン戦で好調だった1番・長谷川信哉、2番・西川愛也だ。3戦目は1点を先制された直後の1回裏、不安定な立ち上がりの相手先発ドリュー・バーヘイゲンに早いカウントから連打でチャンスをつくり、3番タイラー・ネビンの犠牲フライで同点に追いついた。
高卒5年目の長谷川は昨季、72試合に出場。パンチ力のある右打者は打率.183に終わったものの、31試合で1番としてスタメンに抜擢された。高卒8年目の西川は昨年104試合で打率.227だったが、特に後半戦はしなやかなバットコントロールで強い打球を飛ばした。
二人の名前こそ明言していないが、仁志コーチは開幕前、鳥越ヘッドとの『週刊ベースボール』(2025年4.7号)の対談企画でこう話している。
仁志コーチが期待する2人の野手
「(昨年の秋から)いい方向にいっている選手もいますね。たぶん彼らは昨年のシーズンに入るときと今年では、立場上、当然気持ちの持ちようが違うので。昨年はレギュラーの選手がいないし、チームを何とか回さなければいけないので、『この選手、あの選手』と使っていったなかで偶然試合に出られた。
でも今年は彼らにとって『頑張れば自分がレギュラーとして出られる』と意識が違うはずです。それを少しでも多く持っていた選手が今、よくなっているんだと思います」
進行を担当した筆者が「長谷川と西川のことか」と確認すると、仁志コーチは「立場的に誰とは言えない」と答えたが、二人を指しているのは明らかだ。
現時点の実力や経験を優先すれば、上位打線に入って然るべきは源田、外崎だろう。「守備職人」というイメージの強い源田は昨年、リーグ9位の打率.264を記録した。一方、外崎は昨季規定打席に到達した23人で最下位の打率.227。
リーグ連覇した2019年に“山賊打線”の一員として打率.274、26本塁打を記録し、その中心だった秋山翔吾(現広島)、山川穂高(現ソフトバンク)、森友哉(現オリックス)らがフリーエージェント(FA)で抜けて以降は能力を買われて主軸を担った。
しかし外崎は、自分は上位を打つタイプではないと去年終盤に話している。
「以前ならこれくらいの成績でも、周りに打っている人がいたじゃないですか。山川さんとか浅村(栄斗。
でも現状、そういう立場、役割に回らざるを得ない。点をとる立場になっていかないといけないと思いますけど、そう思いすぎても、ちょっとずつ自分のタイプとズレるのかな。難しいですね」
核になる選手がいないから、“誰か”を主軸に据えなければいけない。相次ぐ主力の流出と野手の伸び悩みが根本的な問題で、特に昨年は適材適所に反した起用をせざるを得なかった。
そうして最下位に転落し、西口新監督が就任した2024年秋。チーム再建へ打った一手が、外崎のセカンドからサードへのコンバートだった。32歳の外崎は守備の負担を軽減され、打撃の復調が期待されている。
6番サードで今季1号を放った3月30日の試合後には「再び上位打線を打ちたいか」と訊かれたが、マイペースな外崎らしい答えだった。
「ないっす。この3試合はあれでしたけど、オープン戦をやってきた中で打線の流れができていたと思うので。
球団再建のために厳罰も
開幕から3試合の「1番・長谷川、2番・西川」、そして「6番・外崎、7番・源田」は、今季の勝利を狙って打線を機能させるための配置であり、同時にもっと先も見据えた並びに映った。新外国人の3番ネビン、オリックスから加入した4番レアンドロ・セデーニョ、そして新人の5番・渡部聖弥も好発進している。
もちろん、今季はまだ始まったばかりだ。大事なのは、ここから前向きな変化が生まれてくるのか。先の対談企画で鳥越ヘッドはこう話している。
「(レギュラーを)与えようと思っていないので。奪ってもらおうと思っているので。誰がレギュラーを獲得するのか、ファンと一緒で楽しみにしています」
本来、サードのレギュラー候補には佐藤龍世もいる。オープン戦で寝坊して三軍落ちとなったが、こうした「ぬるさ」も西武の低迷を招いた要因だ。戦力的には痛手だが、西口監督は開幕までに昇格させることはなかった。
現在蒔かれている種は、どう実っていくのか。球団再建は簡単な道ではないからこそ、長い目で見ていきたい。
取材・文/中島大輔