
国内の小学校・中学校・高校で、PCやタブレット端末を活用した「デジタル教科書」の導入が進んでいる。新学期を迎えた今年度、新たに導入した学校も多いというが、子どもがタブレット端末を壊してしまった場合、誰がどう対応するのか。
タブレットを活用した「デジタル教科書」の大きな課題
全国各地の教育現場で導入が進む「デジタル教科書」。紙の教科書と同じ内容のものがPCやタブレット端末などに入っており、2019年から紙の教科書の「代替教材」として学校での使用が認められている。
文部科学相の諮問機関である中央教育審議会デジタル教科書推進ワーキンググループ(作業部会)は、今年2月に中間まとめ案を策定。これによると、デジタル教科書は2030年度から「正式な教科書」として導入される見通しで、紙の教科書と同様、検定や無償配布の対象となるようだ。
また導入形式は、「紙のみ」「デジタルのみ」、そして一部を紙、残りをデジタルとする「ハイブリッド」の3種類ある。各自治体の教育委員会が、いずれか1つを選択できるようになる予定だ。
昨年度からは、小学5年生から中学3年生を対象に、英語や算数・数学の授業でデジタル教科書の本格的な活用が始まっている。
そこで今回、現役の教諭たちに、デジタル教科書の実情や本音を聞いてみた。まず兵庫県の公立小学校に勤務するAさん(30代・男性教諭)は、現場の問題をこう語る。
「最大の問題は、タブレットが故障すると、すぐに教材を見られなくなることです。その影響で、授業についてこられなくなる児童が出てくることもあります。
あと、階段などでタブレットを落として、液晶をバキバキに割ってしまうケースも少なくありません。今の学校では、通常使用の範囲内であれば、修理費用は学校や自治体が負担しています。ただし、故意や重大な過失による破損の場合には、保護者が負担するケースもあるため、事前に教員や保護者にしっかり説明しておかなければなりません。
また、端末によっては操作が難しく、特に低学年の児童にはなかなか定着しづらいのが現状です。さらに、タブレットには子どもたちの集中力を削ぐ要素も多く、授業中に写真を撮って遊ぶ児童も多い。
何度注意してもやめない場合は、タブレットを没収するという学年ごとのルールもあります。しかし、2030年度からデジタル教科書が『正式な教科書』になると、同じ対応を取ってよいのか……。ちょっと不安に感じています」(Aさん)
「休み時間にアダルト動画を見る生徒もいて……」
神奈川県の公立小学校に勤務するBさん(30代・女性教諭)も、デジタル教科書の課題について次のように指摘する。
「授業に集中できず、自分の好きなことをタブレットで検索してしまう子がいるため、学力に差が出やすくなると思います。自律して学習できる子はどんどん伸びる一方で、我慢して取り組めない子は、授業についていけなくなります。
それに、デジタル教科書では『教科書への書き込みが難しくなるのでは?』という点も気になりました。何でもタイピングで済むようになると、漢字をなかなか覚えられなくなる可能性もありますよね。
実際Bさんの勤務校では、デジタル教科書を導入して以降、保護者から子どもの視力低下やタブレット依存を心配する声が、学校に数多く寄せられているという。
続いて、東京都の私立中学校に勤務するCさん(20代・女性教諭)は、タブレット端末の導入によって生じたトラブルについてこう語る。
「現場でタブレット端末が導入されてから、連絡手段としてチャット機能を使うようになりました。たとえば、委員会ごとにグループチャットを作り、持ち物の連絡や活動内容の共有などに活用しています。便利な面もありますが、その一方で、生徒同士が授業中にチャットで雑談を始めたり、やりとりが原因でケンカに発展したりと、トラブルも後を絶ちません。
さらに中には、アクセス制限を解除して授業中にゲームをしたり、休み時間にアダルト画像や動画を閲覧したりする生徒もいました。アクセス制限の解除方法は、ネットで簡単に見つけられてしまうのが現状です。こうした事態を受けて、校内でのタブレット利用ルールについては、職員会議でもたびたび議題に上がっています」(Cさん)
教員の業務も増加「生徒全員分のアカウント登録が必要で……」
Cさんはまた、デジタル教科書の導入に伴う“教諭の負担”についても次のように指摘する。
「私の勤務校では、デジタル教科書を使うにあたって、担当教員が生徒全員分のアカウントを登録しなければなりません。その作業だけで、かなりの時間を取られました。今後さらに導入が進めば、教員への負担はますます大きくなっていくと思います」(Cさん)
一方で、デジタル教科書の導入はデメリットばかりではない。前出のBさんは、デジタル教科書が有益だと感じる場面について、次のように語る。
「視覚的に児童へ訴えかけられるので、耳からの情報をうまくキャッチできない子どもにとっては、学びを深める手助けになると思いますね。たとえば、算数で図形を説明する際などに、とても役立っています」
平面ではわかりづらい問題の解説や、英語のリスニングなどにも効果的といわれているデジタル教科書。しかし近年、スウェーデンやフィンランドといった「ICT教育先進国」では、デジタル教科書の積極導入によって子どもの学力低下や心身の不調が表面化しており、見直しの動きが広がっている。
現場の課題が次第に明らかになりつつある今、日本は教育のデジタル化にどう向き合っていくのか。今後の動向から目が離せない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班