「なぜ自分ばかり牡蠣にあたるのか…」それって本当に食あたり? じわじわ患者数が増加「食物たんぱく誘発胃腸症炎(FPIES)」の対処法
「なぜ自分ばかり牡蠣にあたるのか…」それって本当に食あたり? じわじわ患者数が増加「食物たんぱく誘発胃腸症炎(FPIES)」の対処法

「最近、自分ばかり運悪く牡蠣に“あたる”」そんなケースが巷では増えているという。これまで「食あたり」として今まで見逃されていた症状が、実は特定の食物で発症する食物アレルギーの特殊型である可能性がわかってきた。

 

FPIES(食物たんぱく誘発胃腸炎)とは? 

一般的に知られている食物アレルギーは、食べた直後にじんましんや呼吸困難などの症状が出るが、「食物たんぱく誘発胃腸炎(FPIES/エフパイス)」は、食後しばらく経ってから激しい嘔吐や下痢を引き起こす。

通常の食物アレルギーのような皮膚のかゆみや息苦しさが無いため、食中毒と間違われることも少なくない。

この聞きなれない病名、実はじわじわと患者数が増加しているという。40代の会社員、田中さん(仮名)はある日、夕食に牡蠣フライを食べた後、深夜、ひどい腹痛と下痢、吐き気に襲われ、牡蠣の食中毒を疑った。

後日、実家の広島で牡蠣鍋を食べたところ、数時間後、またもひどい腹痛と下痢を起こした。ただし、一緒に食べた家族には何の症状もない。

「最近、自分ばかり運悪く牡蠣に“あたる”」と田中さんは首をひねった。その後も牡蠣グラタン、生牡蠣…好物の牡蠣を食べる度にひどい腹痛を起こすため、とうとう病院に駆け込むと、他院の専門医を紹介された。

そこで、以下の症状を説明。

1 これまで問題なく牡蠣を食べていたのに突然発症した

2 牡蠣を食べると毎回発症 

3 食後、数時間たって発症

4 ひどい腹痛、下痢、吐き気の症状

さらに牡蠣の経口負荷試験をしたところ、牡蠣が原因の「食物たんぱく誘発胃腸炎(Food Protein Induced Enterocolitis Syndrome/FPIES・エフパイス)」の疑い、と診断された。

その結果、加熱したものなども含め、今後、牡蠣を摂取しないよう指導を受けた。なお、通常の牡蠣の食物アレルギー検査は陰性だった。

 食中毒や一般的な食物アレルギーとFPIESとの違い 

FPIESとはいったいどのような病気なのか? 国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部の森田英明先生に話を聞いた。

「まず食物アレルギーの定義は、特定の食物に対して『免疫が過剰に反応』して、不利益な症状が引き起されることを言います。

同じ不利益な症状でも、フグの毒で食中毒を起こすのは、毒が直接細胞にダメージを与えるためで、食物に対する免疫の反応ではないんです。

また、食あたりは、ばい菌等の微生物を含む食品を摂取することで、微生物が症状を引き起こすもので、食物自体が原因ではありません。ゆえにアレルギーとは別の問題になります。

一方で、特定の食物に対する免疫の過剰反応で起きるのがアレルギー。一般的によく知られる食物アレルギーは『IgE依存型』に分類されるもので、食べた直後から30分以内にじんましんや呼吸困難などの症状が現れます。

一方FPIESは『非IgE依存型』に分類され、皮膚や呼吸器には影響が出ず、主に消化器系に強い症状が現れるのが特徴です」(森田先生以下同)

どのような食品で発症するのか? 

FPIESは元々、新生児・乳児期に多い病気と考えられ、原因の食材も年齢で変わってくる。

「原因となる食物は、新生児期は牛乳など乳製品が多く、乳児期以降は鶏卵、大豆、魚介類などが増えてくる傾向があります。大人の場合はエビなど甲殻類や魚が多く、日本では特に牡蠣が多く報告されています。

乳児の場合、離乳食の開始に伴い、親が一つ一つの食品に気を配りながら食事を管理するで、症状が出た際に親が特定の食物との関連を疑うことも少なくありません。ところが、厄介なのは大人の場合です」

国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部の森田英明氏

大人のFPIESの注目すべき特徴は、『それまで問題なく食べていた食品が突然食べられなくなる』ことだ。

「ある食材が突然食べられなくなるなんて、みなさん想定しないから、“たまたま、あたったんだ”と考えがちです。特別な病気だと思わないですよね。前述したようにFPIESは自分の免疫機能が反応して発症するものです。

でも人は自分の体内で起きている問題だとは思わずに、そのとき食べた物の方が悪いと考えてしまいます。そのため『次は大丈夫』と、原因となる食品を再び摂取することも少なくありませんし、診断を受けるまでに時間もかかります」

 ノロウイルスなどの感染性胃腸炎との違い 

症状がそっくりな、(ノロウイルスなど)感染性胃腸炎とどの点が違うのだろうか。

「厳密な区別が難しいのですが、違いをあえて示すならば、ノロウイルスによる胃腸炎は、ウイルスが体内で増殖するため1~3日間症状が続きます。

一方FPIESは特定の食品を摂取した数時間後に症状が出ますが、翌日には回復するケースが多いです。またノロウイルスは加熱でリスクを減らせますが、FPIESは加熱した食品でも症状が誘発される可能性があります」

さらにFPIESの診断が難しいのは、「通常のアレルギー検査では異常がない」点だ。

「FPIESは、IgE抗体が関与しないため、通常のアレルギー検査では診断できません。診断には経口負荷試験を行うのですが、これは医師の監督のもと、少量の『疑わしい食品』を摂取してもらい、症状の出現を確認する方法です」

このFPIES、まだまだ不明な点が多いようだ。

「現時点では、成人のFPIES患者の診断基準は確立されていないことや、FPIESの発症メカニズムが不明であること、成人患者の症状は小児のFPIES患者の症状と少し異なることなどから、これらの患者が小児と同じFPIESと診断して良いのかなど、まだ研究が必要です」

社会的認知の向上が急務! どこで診察を受ければよいのか 

実は医療関係者の間でもFPIESの認知度が低いため、適切に診断されないケースが多い。

では、「何度も同じ食材にあたる」という症状があるとき、どの医療機関を受診すればいいのだろうか。

「小児の場合は、アレルギー専門の小児科医であればFPIESの知識があることが多いです。しかし、成人の食物アレルギーを専門とする医師は少なく、FPIESに詳しい医師はさらに限られています。そのためFPIESの可能性を疑った場合は、食物アレルギーに詳しい医師に相談することをおすすめします」

ただし、今のところFPIESに特効薬はなく、基本的な治療は原因食品の除去だという。

「今この病気は、まず認知度を高めることが大切です。

患者の実態数が正確に把握されることで、より効果的な診断法や治療法の開発につながる可能性があります。医療従事者はもちろん、一般の方々にも広く知ってもらうことが重要です」

研究の進展とともに、FPIESに関する理解が深まり、適切な診断と対応が可能になることを期待する。

取材・文/浦上優

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