
あなたの上司は、現場の問題に真摯に向き合ってくれるだろうか? 管理職が自身の評価を気にするあまり、成績を落とさないことにばかり腐心し、トップの犬になってしまっている職場では現場のSOSは見過ごされてしまう。そして結果的に法的な問題が起きてしまうこともあるという。
書籍『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったのか』より一部を抜粋・再構成し現場が硬直し、コンプライアンス問題まで発展してしまった経緯について解説する。
犯人は〈人〉でなく制度?
一般に官僚制組織の特徴としては、階層が多く、階層間では権限の序列が明確なこと、仕事はルールにもとづいて行われること、部署によって役割が明確に分けられていることなどがあげられる。
経営層と現場との意思疎通が不足しやすいし、現場の実情よりも、上で決められた目標やスケジュールが優先されがちになる。
官僚制型特有の加圧者の存在にも触れておかなければならない。
(旧ジャニーズ事務所などの)絶対君主型では、圧倒的な存在感を示すトップに対する管理職の個人崇拝や恐怖が部下に圧力をかけるのに対し、官僚制型では在任中に業績を落とし評判を下げないことに執心するトップと、上司に忠実で制度や目標を最優先する多数のビューロクラット(官僚)が、部下に強い圧力をかける。
組織の階層をまたぐ圧力の連鎖だ。実際に少なからぬ不祥事において、ビューロクラットの存在が見え隠れする。しかも組織の内外を隔てる厚い壁が内部を見えにくくし、不正の温床になることもある。
もともと合理性を追求する官僚制組織には、仕事の正確性や公平性といった利点があるが、ダイハツ工業の不祥事にはその弱点、すなわち「影」の面が色濃く表れているといえよう。
もっとも、それはダイハツ工業の特殊な体質だとは言いがたい。事実、今回の問題を受けて国土交通省が2024年に実施した調査では、トヨタ、ヤマハ、マツダ、ホンダなど国内の主要メーカーから、車やバイクの性能試験で不正があったと報告されている。
自動車業界ではこれまでにも、大手メーカーがデータの改竄や不適切な測定などの不祥事を繰り返してきたが、原因となった組織の問題点は驚くほど似ている。
「言ったもん負け」
さらに、それは自動車業界特有の現象だともいえない。
2023年4月、三菱電機は関係会社5社で計12件の不正がみつかったと発表した。その多くは検査仕様や契約とは異なる検査が行われていたことである(当社関係会社における品質不適切行為に関する調査結果について、2023年4月14日)。
三菱電機では2021年6月、鉄道車両用空調機器などの検査で長年にわたって不正が行われていたことが発覚し、その後の調査で累計197件の不正が発見されていた。不正の直接的な原因を生み出した真因として、内向きな組織風土の存在をあげている。
また調査報告書では「声を上げても助けてくれないという思いは、品質不正を申告することを躊躇わせる理由となった」と指摘し、「言ったもん負け」の文化に対する対処も必要であると提言している(調査委員会調査報告書、2022年10月20日)。
このように同社グループでは検査の不正が繰り返されており、そこにはやはり容易に変えられない官僚制組織の特徴がうかがえる。
そもそも日本での官僚制組織の起源は、明治初期の官庁に遡る。とりわけ公的機関や大企業にとっては組織の原初形態ともいえるものであり、歴史の古い企業ほど確固たる形で存在し続けている。
それだけに伝統的な大企業ほど、官僚制型の組織不祥事が起きるリスクをはらんでいるといえよう。
上場廃止に追い込まれた東芝
2015年に不適切な会計が発覚した東芝も、その代表的なケースである。同社では長年にわたり計2248億円にのぼる利益の水増しが行われていたことが判明し、金融庁から金融商品取引法にもとづき、73億円余の課徴金納付命令を受けた。
1875年創業で150年近くの歴史を持ち、従業員も連結で10万人を超え、三菱電機と同様に日本を代表する大企業だが2023年末、上場廃止に追い込まれた。
当時、東芝で唱えられた「チャレンジ」という言葉が話題になったように、同社の経営陣が過度に高い収益目標を設定し、達成するよう現場に強く迫った。
このように官僚制組織特有の、上からの組織的圧力が逃げ場のない現場従業員を追い詰め、不正に走らせたという構図は驚くほど似かよっている。
また官僚制組織の本家本元である官公庁においても、財務省の公文書改竄問題、自衛隊の日報隠蔽問題など〈官僚制型〉の不祥事は続発している。
ただ法律で守られているため、民間企業と違って崩壊・消滅のリスクが小さいだけである。
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日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか
太田 肇
旧ジャニーズ事務所の性加害事件や、ダイハツ、ビッグモーター、三菱電機、東芝などの企業不祥事、自民党の裏金問題、宝塚、大相撲のパワハラ、日大アメフト部の解散、そしてフジテレビ…、近年、日本の名だたる組織が次々と崩壊の危機に直面した。
そこには共通点がある。「目的集団」であるはずの組織が、日本の場合は同時に「共同体」でもあったことだ。
この日本型組織はなぜ今、一斉におかしくなってしまったのか? 日本の組織を改善させる方法はあるのか?
組織論研究の第一人者が崩壊の原因を分析し、現代に合った組織「新生」の方法を提言する。